第7話 ちょっとした事件

「疲れた……死ぬ……」


 ミラさん達とのフィールドワークを終えた翌日、僕は未だに癒えぬ疲れや筋肉痛と戦っていた。


 この村では、自分で材料を集めなきゃいけないことも多いだろうし……やっぱり、少しは僕も鍛えた方がいいだろうか?


「まあ、それもこれも、今回の仕事が終わった後で……」


 しばらくは動きたくない。

 そんな感想を抱きながら、僕は冒険者向けの自律型ゴーレム人形の設計案を纏めていく。


 荷運びをメインに、ひとまず思い付いたのは三タイプ。


 一つ目は、シンプルな馬タイプのゴーレム人形。

 荷車を牽引して荷物を運ぶ、多分一番簡単な形。素材もたくさん運べるし、何より安い。

 欠点は、荷車を使う関係上、悪路だらけの森の中じゃスタックする可能性があることと、あまり足も速くないので冒険者自身の手で守って貰わなきゃ魔物の襲撃で破壊される恐れがあること。


 二つ目は、足の速い狼タイプのゴーレム人形。

 背中のチャックから中に物を納められるような仕組みにして、素早い動きで自身と中に入った荷物を守る。

 欠点は、スピード命だからあまり大容量に出来ないことかな? たくさん入れすぎるとせっかくの素早さがなくなって意味がないし。


 三つ目は、大型の熊タイプのゴーレム人形。

 お腹のチャックから中に物を納めるのは狼タイプと同じだけど、サイズが大きいので内容量の問題がある程度解決される。

 その分足は遅くなるけど、そこは機能面でカバー。防臭、防魔の効果を付与することで、血の臭いや素材が放つ魔力の気配を隠し、そもそも魔物から狙われないようにする。

 大柄な分自然と力も強くなるし、自力で荷物を出し入れしたり、場合によっては解体の手伝いも出来る多機能な子だ、

 欠点は、多機能な分お値段がどうしても高くなるってこと。


 この三つのアイデアの中から試作品を作って、ミラさん達に試して貰うのだ。


「うーん……」


 出来ることなら、全部作って試したい。でも、それには材料が全然足りてない。

 魔物の素材もそうだけど、それ以外にも魔力を通しやすい縫い糸や、骨格代わりに使う針金など、この村の中じゃどうしても手に入らない材料だっていくつもあるのだ。


 それを手に入れようと思ったら、村の外から買い付けるしかない。


 でも、それにも先立つ物が必要なわけで……現状、僕はベアル君だけじゃ食べていくのでギリギリだし、早く次の収入源が欲しいんだけど、どうするべきか。


「……やっぱり、またミラさん達の狩りに着いていくしかないのかなぁ」


 僕のマジックバッグ効果で、昨日の稼ぎは普段の倍以上だったとミラさん達は喜んでいた。

 またフィールドワークしたくなったらいつでも声をかけてくれ。何なら毎日でもいいぞとは言われたけど、毎日は流石に僕の体が持たない。


 うーん、ひとまず今あるアイデアをミラさん達に話して、どれを使ってみたいか意見を聞いてみようかな……。


「ソエル! ソエルー! いるかい!?」


「あれ、ミラさん? どうしたんですか?」


 ドンドンと乱暴にドアをノックする音が聞こえ、僕は急いで玄関に向かう。


 ドアを開けると、僕はノータイムで腕を掴まれた。えっ。


「なんか村長が、例のベアル君? の件で問題が起きたから、すぐに来て欲しいってさ! 行くよ!」


「えぇ!?」


 村の防衛を担うゴーレム人形は初めての試みだったから、何か問題が生じる可能性については考えていた。

 でも、それにしてもちょっと早すぎる! これ、下手したら僕の現在唯一の収入源が早々になくなっちゃうんじゃ!?


 生活費のピンチに、僕は筋肉痛の痛みも忘れて大急ぎで村長さんの下へ向かう。


 息を切らせながら村の外れに到着した僕は、村長と対面し……切羽詰まっているというより、予想外の事態に困惑したようなその様子にはてと首を傾げた。


「村長さん、何があったんですか? 破損ですか? それとも誰かを怪我させたとか……?」


「いや、そういうことじゃない。ただ、これはどうしたものかと思ってな、ソエルにも相談して決めた方がいいと思ったんだ」


 いまいち歯切れの悪い村長さんに、益々戸惑いを深めていく。

 そんな僕を、村長さんは村の外へ案内し……そこには。


「……わあ」


 檻の中に所狭しとひしめき合う、気絶した魔物達の姿があった。


「村長さん、これってもしかして……」


「ああ、ソエルのゴーレムが昨夜一晩で捕まえた魔物達だ。……俺も、まさかここまでの数が彷徨いているとは思わなかった」


 また何か対策を考えなければ、と、村長さんは頭を抱える。


 原則として、ベアル君は村の周囲をぐるぐると回りながら、見掛けた魔物は随時撃退、もしくは捕獲するように設定してある。


 どうして殺傷じゃないのかというと、この世界には魔物を従えて飼い慣らす、"魔物使い"という職業の人達も少数ながら存在するため、万が一そういう人が村にやって来た時、いきなり殺し合いになってしまっては困るからだ。


 まあ……そのせいで、今こんなことになってるんだけど。


「村長さん、これどうするんですか……?」


「だから、それを相談したくて呼んだんだ。こんな数の生きた魔物が入った檻、怖くて近づけねえよ」


「ですよねー」


 当初の想定では、ベアル君が魔物を捕まえるにしても精々一日に一体か二体だろうと思っていた。

 でも、今目の前にある対魔物用の檻には、十体以上の魔物が折り重なるように投げ込まれている。


 ここまで来ると、仕留めるために近付くのも危ないだろう。


 僕なら、魔法で安全に仕留められるけど……うーん。


「村長さん、提案なんですが……この魔物、生きたまま町に売りに行きませんか?」


「なに? そんなことが出来るのか?」


「はい。大きな町には、魔物の生態を研究する魔導士や研究家もいるので、そういった人達には生きた魔物は高く売れるんです」


 この辺りの知識は、元々パルテイン家なんて大きな家で暮らしていたからこそのものだ。


 一人、知り合いの研究家もいることだし、あの子ならきっと買ってくれるはず。


「もちろん、輸送費やら道中の護衛にも人手を取られるので、どちらにするかは村長さんの判断にお任せしますが……」


「いくらぐらいになるんだ?」


「そうですね、恐らくこれくらいかと」


 僕が地面にサラサラと数字を並べて計算すると、村長さんの目がキランと輝く。

 あれ? 何か嫌な予感。


「ソエル、是非その研究家? とやらを紹介してくれ。必要なら仲介料も払おう!」


「わ、分かりました、ひとまず手紙で聞いてみます」


 想像以上の食い付きっぷりに、僕は若干引き気味に答える。


 村長さん……もしかして、僕の想像以上にお金に困ってるんじゃ……。


「ガハハハ! これはボロい商売だな! おいベアル君、この調子でドンドン頼むぞぉ!!」


 振り切れたテンションで、どっしりと佇むベアル君の足をバシバシと叩く村長さん。


 その様子を眺めながら、僕がちょっとだけ将来に不安を覚えてしまったのは、仕方ないことだと思う。


 ……うん、僕も、もっと頑張ろう。

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