第5話 ストロベリーケーキ街

イブはクマのタクシーに乗って、別の街を目指していた。

周りの建物はカラフルで、イブが住んでいた国の街並みとは違い、外国の街並みのように見える。

小さい頃に遊んだオモチャの世界観そのものだった。

獣人達が服を着て、靴を履いて歩いている。

ぬいぐるみのような見た目の獣人達が街を歩き、喋っている。

オモチャは自分が人形を動かさないと、動かないし喋らないが、この世界では人形が自由に動いている。

クマのタクシーの運転手は、「もう少しでストロベリーケーキ街ですよ」とイブに教えてくれた。

「わぁー、楽しみです」

「窓から見える景色はイブさんにとって、見慣れない光景でしょう、大丈夫ですか?疲れてませんか?」

「大丈夫です」

「ゆっくり走っているつもりですが、もしも具合悪くなったりしたら、遠慮なく言って下さいね」

「はい」

イブは車酔いするようなタイプではないが、その気遣いが嬉しかった

優しい声で話しかけられる。

それがすごく心地よかった。

街は少しずつ景色が変わり、赤い屋根に白い壁の建物がチラホラ見えてきた。

「わぁー!ショートケーキの世界」

「ストロベリーケーキ街に入りましたよ、まずは先ほどのように役所により、住む家を決めましょう」

「はい、楽しみです」

街並みが完全に白と赤の世界になったが、可愛らしい建物ばかりで、やわらかいケーキのような見た目から、やはりイチゴの乗ったケーキが沢山あるようにしか見えなかった。

「お菓子の家みたいな建物しかなくて、なんか変な感じ、でもこれが異世界の世界だからですよね」

「そうだね、イブさんの住んでた世界とは全然違う街並みなんですよね、私もイブさんの住んでいた世界へ行ったら、同じように感じるんでしょうか?何もかも自分が知ってる世界と違うと…」

「そうですね、クマさんが私が住んでた世界に来たら、ビックリすると思います、いろんな意味で」

「異世界ですか…なんだか私も、いつかは行ってみたいです、自分の知らなかった世界へ」

「そういえば、色々な世界が広がっているんでしたよね?異世界って」

「そうですね、車掌さんと駅員さんの兄弟が、色々な異世界へ行った話を聞くんですが、ここみたいに平和な世界だけじゃないとは、聞いてます」

「そうですか」

「争いや、戦いのある世界もあるのだとか…主に男性が迷い込みやすいようですが」

「…あーっ、ゲームの世界とかそんな感じの世界、とかなのかな?それとも、本当に危ない世界とか」

「そうですね、男性は、自身の幼少期に遊んだゲームの世界へ迷い込み、女性は女性でお城やドレスのある世界に迷い込んだりするそうですね」

「そうですか、でも、分かるなー、私も幼い時に遊んだオモチャの世界に来ちゃったと思っているので、その気持ち、理解出来ます、大人になると、なんでしょうね、子供の頃の良い時の記憶ばかり蘇るんです、まだ、25なのに」

「もっと、年をとると、今度は若い時を懐かしむようになりますよ、私がそうです」

「クマさんは、そういった年齢なんですか?」

「えぇ、もうだいぶ「おじさん」です」

「そうですか、でも動物…というか、じゅうじん?だと、年齢とか分かりずらいですね、羨ましいな」

「人間は、違うんですか?」

「そうですね、個人差があるけど、おばさんとかおじさんって、綺麗な人やカッコイイ人は、年齢いってもそのままですけど、小汚いおっさんとか、いかにもなおばさんとか…そんな見た目の人もいます」

イブは会社にいた、おじさんやおばさんの事を思い出していた。

嫌な記憶である為、ここでは思い出したくなかったが、嫌いなおじさんとおばさんの嫌な顔と言葉が頭の中に一杯になってしまった。

少し沈んだ表情のイブに、運転手は「そうですか、人間も色々な人がいるのですね」とだけ返した。

車が進むうちに、街の中央まで来たらしく、行政機関が集まっているエリアに入ったようだ、それでも街並みがオモチャかケーキみたいで、イブの知る行政機関とは全然別物だった。

「さて、そろそろですよ、イブさん」

「あっ、ハイ」

車は、建物の前の駐車場に止まり、運転手はイブを下ろした。

イブは先程と同じように建物内へ入り、案内係の指示に従い、窓口に立った。

こちらでもすんなり事が運び、イブはタクシーに戻ると、運転手に「クララさんの家って分かりますか?ペルシャネコのおばあさんが一人で住んでいるらしいのですが」

「あぁ、クララおばあちゃんか、大丈夫、分かります、クララおばあちゃんの家ですか、面倒見の良いおばあさんで、たしか何年か前に旦那さんが亡くなって一人暮らしのご老人ですよ、なるほど、確かにそこなら良いですよ、旅人など、そういった人たちを受け入れて、住まわせてくれる方です、タクシー会社で働くと、色んな情報を知る事が出来るので、私も知っています、何度か旅人をその家へ案内したこともあります、街外れの大きな家に住んでますよ」

「そうですか」

「良い出会いがありましたね」

「はい」

「では、クララおばあちゃんの家まで送りますね」

「はい、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらず」

車が再び音をたてて動き始め、イブは窓から景色を見つめていた。

家へ行ったらクマさんとはお別れか…と思うと、少々寂しくも思えたが、また新たな出会いがあると思えば心は軽くなった。

今までいた世界から異世界へ来てしまったイブだったが、これからは異世界での暮らしが待っている。

イブはそれを思うと、暗い気持ちからさよならして、明るく前向きに生きようと決心した。


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Pastel Pais (パステール パイース) まるみ @marumi-tama

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