第4話  住みたい街はどこですか?

イブは、洋ナシタルト駅からクマのタクシーという熊が運転するタクシーに乗っているが、グリズリーの姿に気を取られていた。

グリズリーと呼ばれる熊だが、体は大きいが、顔は意外と可愛らしい顔なんだと、イブは思っていた。

そして、現実世界とはやはり違うのは、とても優しいという事だ。

森ばかりだった景色から少しずつ街並みが見えてくると、今度は窓から見える景色に目を奪われた。

「すごい、洋梨みたいな屋根の色にタルトみたいな外壁の家ばかり」

「この町は駅と同じ『洋ナシタルト街』という名称の街なんですよ、今から向かうのは中央の街、『フルーツタルト街』と言います」

「へぇー!ほんとにケーキ国という国名だけありますね」

「名称のみがケーキと同じ名前、というだけじゃなく、街並みも一応、その名称にちなんだ街並みになっているんですよ」

それを聞いて、イブの頭はケーキだらけになった。

美味しそうなケーキが沢山、浮かんでくる為に、イブはお腹が空きそうだった。

「なんだか、とっても楽しみ」

「イブさんが、住む街はなんのケーキ街なんでしょうかね、私もどんな街を選ぶのか楽しみです、住む街が決まったら、私がまた、その街の住む家までご案内しますよ」

「ありがとうございます、そっか、どこに住むか選べるんだ、ますます楽しみです」

タクシーは洋ナシタルト街から抜けて、カラフルな建物が並ぶ街並みに変わって行った。

「今度は、淡い色合いだけど、カラフルで綺麗、あとカワイイ」

「洋ナシタルト街から、フルーツタルト街に入ったからですね、ここは洋ナシタルトをイメージした建物が並ぶ街から、色とりどりのフルーツが乗ったタルトをイメージした街並みになっています、なので、黄色、黄緑、赤など、色々なフルーツの色の屋根に、タルト生地みたいな外壁の家になっています、ここは中央の街なので、大きな街ですよ、デパートなんかもありますし、賑やかな街ですよ」

「へぇー」

「人間がこの世界へ来られた時は、必ずこの街へ連れて来て、色々な手続きしたり、説明を受けてもらうんです」

「そうだったんですか」

「もちろん、フルーツタルト街が気に入ったなら、ここで住めますよ」

「ここで…ですか、なんだか賑やかで毎日楽しそうだけど、私はもう少し落ち着いた街が良いかも」

「そうですか、ほかの街も魅力的ですので、ゆっくり選んでください」

「はい」

タクシーは緩やかに進みながら、目的の場所へ着いたようだ。

”市役所”といった建物のようだが、見た目がカラフルでなんだか、やっぱりお菓子で出来ているように見える。

イブはタクシーから降りて、建物の中に入って行く

建物の中では、動物が人間のように二本足で立って洋服や靴を身に着け、動いている。

ある者は、もこもこといった感じの見た目、また別の物は、ふわふわといった感じの見た目で、動物らしい姿をしている。

こういうのを”じゅうじん”というのだと、イブは初めて知った。

長毛種の動物は服からふわふわな毛がはみ出ている。

短毛種の方が服は着やすそうに見えた。

もこもことした毛並み、プードルや羊なんかも、可愛らしい服を着ているのを見ていると、イブはなんだか、幸せな気持ちになった。

目の前の世界が、可愛さ全開である。

総合案内板を見つけ、自分が行くべき所を確認する為に近付くと、職員の制服を着た犬がイブに話しかけてきた。

「あら、人間の女性ね、人間の女性は、目の前にある総合案内所で受付してね、そしたら案内係の人が色々と教えてくれると思うわ」

「ありがとうございます」

イブは言われた方向に目を向き、総合案内所まで歩いた。

総合案内所のカウンターの前で立ち止まると、直ぐに職員がイブの所へ来てくれた。

受付をして、イブは少し待たされたが、次は生活課に案内されたが、ここまですべてが丁寧で、優しく話しかけられて、イヤなイメージしか湧かなかった市役所とは、全然反対の感覚に、イブは多少戸惑ったが、獣人相手にしていると心が落ち着き、穏やかな対応が出来ていると気付いた。

人間相手だと、どうしても相手により相性が悪かったりすると、イライラしたり、嫌な気持ちになったりしてしまうが、ここでは、そういう気持ちは全くというほど湧いてこない。

生活課のカウンターで、今度は猫の獣人が説明をしてくれるようだ、お上品な顔立ちをした猫がイブに丁寧に説明してくれる。

「イブさん、25歳ね、この国は七つの街があるの、洋ナシタルト街はもう通って来ただろうから、知っているわね」

「はい」

「そして、ここは国の中央、フルーツタルト街」

そこで言葉を区切った職員は、喫茶店のメニュー表のような物を取り出し、イブに見せた。

それは、まんま”喫茶店のメニュー表”そのままだった。

沢山のケーキの名前が書かれている。

どのケーキを食べようか迷ってしまいそうだと、イブは思った。

実際は住む街を選ぶだけなのだが。

上から、洋ナシタルト街、フルーツタルト街、ラズベリーケーキ街、ストロベリーケーキ街、チョコレートケーキ街、モンブランケーキ街、チーズケーキ街と続いた。

イブは一目見て、イチゴケーキ街という街という名称にくぎ付けになった。

そして、これしかない!と思い、イブは「この街にします」と、ストロベリーケーキ街を指さした。

「ストロベリーケーキ街ね、とっても可愛らしい街並みよ、分かった、手続きしてくるわね、椅子に座って待ってて」

職員はそう言うと、カウンターから離れていった。

しばらくして、イブは呼ばれて、再びカウンターの前まで行くと、紙を手渡され、クマのタクシーの運転手さんにストロベリーケーキ街の役場まで連れてって欲しいとお願いしてね、そしたら役場の職員に今渡した紙を見せれば、今度は住む家を探せるわ」

「わかりました」

「じゃあ、お気をつけてね」

「はい」

イブは建物内を歩き、出入り口まで行くとクマのタクシーの運転手は、先程と同じ所で待っていてくれた。

「イブさん、住みたい街、決まりましたか?」

「はい、ストロベリーケーキ街にしました」

「では、またご乗車下さい、その街の役場まで連れて行きますよ」

「はい、お願いします」

イブは車に乗り込み、ワクワクしながら、どんな街なのか想像した。

ストロベリーケーキ街という名の街なのだから、イチゴみたいな屋根に真っ白いクリーム色の外壁の家が建ち並ぶだろうと想像しては、楽しそうにしていた。




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