黒神決戦圏


 赤い赤い空。

 百年前、地上を焼き払った天使の群れ。

 おびただしい数の天使が赤い目で地上を見ている。

 私たちは、これから天使を狩りに行く。


「Good bye sunny♪ good bye sunny♪」

「やけにご機嫌ね、マリア!」

「うん、今日は妹の誕生日だからね! とびきりの青い空を見せてあげなくちゃ!」

「じゃあ私も頑張ろっと!」


 天骸チェルノボーグに身を包み、旧ロシア領から飛び立つ私たち。

 人々は私達の事を「地上の天使」とか「救いの死神」とか呼ぶ。

 私達に出来る事なんてたかが知れてるのに。

 それは一時の晴れ間を作る事、ただそれだけだった。


 ――ターゲットコール、敵性個体「angel」視認位置に到達。


「了解、さあ火祭りを始めよう」


 天骸チェルノボーグの主砲を放つ。

 大きな花火は数十機の天使を撃墜する。

 それでも空は赤いままだ。

 天使からの反撃、瞬くようにレーザー光線じゃ照射される。

 それを装甲板で防ぐ。

 赤熱する装甲を他所に、副砲でその天使を牽制する。

「マリア! 無茶しすぎ!」

 灼熱剣ヒートブレイドで天使を一機、撃墜したマリアのバディ、名前をローラと言った。


 彼女達は晴れ間を見る為だけに戦っている。

 ただ、それだけのために。

 命をすり減らして戦っている。

 使うだけで寿命を吸い取っていく呪いの兵器、それが天骸チェルノボーグだった。

 それでも、と。

 彼女達は飛ぶ。

 誰かが青い空を望むならと。


『ウチュウコウコウリョダンハゲンザイ――ヲシンコウチュウ」

 

 天使が鳴く。

 何を言っているのか分からない。


「今日はとびっきりの晴れにするんだぁー!」


 最大出力で主砲を放つ。

 天使を薙ぎ払う、幾百、幾千もの天使が墜ちていく。

 地上からは流星雨のように見えている事だろう。

 妹の誕生日、人間はそれだけのために命を張って戦える。

 命を削る価値がある。

 ――ほら見えて来た。


「青い、青い空だ」


 混じりっけ無しの青空を眺めながらゆっくりと地上に舞い降りる。

 天使共の追撃は無い。

 奴らに感情は無く、感傷も、復讐心も無い。

 冷え切った機械の身体には、きっとオイルが流れているに違いなかった。

 そんな事を想いながら、シェルターにいる妹を迎えに行く。

 今日は晴れだと、伝えるために。

 幾万の流星雨が地上に降り注ぐ。

 全て天使の死骸だ。

 これが二人の少女がやった事だと信じられるだろうか。

 いや信じるしかない。

 我々はそれを目撃しているのだから。

 時代は変わった。

 人類に生存圏は無く。

 ただひたすらに晴れを望むだけの信徒となった。

「あ、おねぇちゃんだ!」

 今日で五歳になるノエルを祝福する青空が。

 そこには広がっていた。

「Hello sunn♪」

「good bye sunny♪」

 姉妹は歌う。

 晴れを待つ歌を。

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時に霽れ 亜未田久志 @abky-6102

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