13-2 ビオラの学びはこれから始まる
始まりこそ手間がかかることを面倒だと言っていたビオラだったが、毎日霧吹きで土に水を与えては「
「ラスは、花にも詳しいのじゃな?」
「魔法薬に使うハーブは、基本、育てているからな。まぁ、時期じゃないものは、ジョリーのところで取り寄せることもあるけど」
「妾も魔法薬が作れるようになったら、ハーブも育てるのじゃ!」
ビオラが期待に目を輝かせて笑った時、店の呼び鈴がなってドアが開いた。
「ビオラちゃん!
勢い良く開いたドアの向かうにいたのは、大きなカバンを持ったリアナだった。
そういえば、今日から語学を教えてもらう約束だったな。
「ずいぶん重たそうな荷物だな」
「色々、使えそうなものを持ってきたの! 今日はこれからの方針を決めようと思って」
重たそうなバッグをカウンター側に降ろしたリアナは、窓辺のトレイが積まれる棚に気づいて「あれは?」と聞いてきた。
「花の種だ。ビオラが育てたいって言ってな」
「素敵! なんの種を植えたの?」
「ビオラじゃ!」
「そうか。ビオラちゃんの名前ってお花だったわね」
傍に寄ってきたビオラは照れくさそうな笑みを浮かべて頷くと、カウンターの椅子に座った。
カウンターには絵本が三冊と、単語帳、可愛らしい花柄のノートが並べられた。その中の一冊を、ビオラは手に取って興味深そうにページを捲った。
「ビオラちゃんが使うのに良さそうな本を持ってきたわ」
「絵本か。確かに、最初はこれくらいが良いかもな」
「これは何じゃ?」
「単語の練習問題よ。ノートも買ってきたから、これに書いて練習してね」
「ノートとな? これには線が引いてあるの」
「文字を書く場所よ。ノートも使ったことないのね」
ペンを取り出したリアナは、ノートにビオラの名を綴った。それはさすがに、五百年前と同じだろう。ビオラは、妾の名じゃと言って笑った。
「知らない単語、覚えたい単語、出来れば文をまねして書くと良いわ」
「成程。面白そうじゃ! それなら──」
何かを思いついたらしいビオラは、椅子を飛び降りるとカウンターの内側に入ってきた。俺の立っている足元には、丁度、ビオラの荷物が置いてある。その中から、あの図鑑を引っ張り出した。
「これじゃ! これの中に、分からない単語が色々あったのじゃ」
「どれ? あら、手書きの図鑑……もしかして、この字」
「あぁ、俺のだ。ビオラが魔法薬に興味があるらしくてな。それは最低限覚えた方が良いハーブなんだ」
「面白いわね! 説明のところに、専門用語もあるから難しく感じるのかも。私も使わないような単語があるわ」
そりゃそうだ。
ハーブティーは日常的に飲んでも、適量であれば身体への作用や負担って言うのは感じられないからな。
だけど、魔法薬はそこに魔法のエネルギーが付加されるわけだから、下手をすると毒になるようなものもある。その辺りが重要になるから、手書きと言えど、子どもの絵本とはわけが違う。
「ビオラ、それは後ででも良いんじゃないか?」
「むー、妾は早くこれが読みたいのじゃ」
手書きの図鑑を指さすビオラの顔は真っ赤だ。
そんなムキにならなくても、その図鑑なら譲ってやっても良いんだけどな。
「うーん……ビオラちゃんって、会話は不通に通じるじゃない。難しい言葉もたくさん知ってると思うの」
「まぁ、そうだな」
「ビオラちゃんの場合、単語を知らないって言うのは、意味じゃなくて
確かに、中身は俺と変わらない大人だから、そうだろうな。
俺たちから見れば古語になる
「だから、ビオラちゃんは文法より、単語量と読書量を増やしたらいいと思うの」
「それっぽい提案だな」
「本を読むのは好きじゃ!」
「もう、それっぽいって言い方はないと思うんだけど!」
両頬をぷっと膨らませたリアナは俺を睨みつけてきた。
「悪かった。良い提案だ」
「でしょ! それでね──」
笑顔に戻ったリアナは、鞄の中を確認すると、追加の一冊を取り出した。絵本よりもずいぶん小さい文庫本だ。当然、中を開けば文字がぎっしりだ。
「これは何じゃ?」
「今、女の子たちの間で流行っている恋愛小説よ!」
「恋愛小説?」
「そう。これは短篇集だから読みやすいんだけどね、不遇な環境で幸せを掴む主人公の恋愛模様がいろいろ描かれているの」
特に敵国の花嫁になる主人公の話が良いのと。ぱらぱらと頁をめくったリアナは興奮気味だ。それを見たビオラは、意外にも食いついて話を聞いていた。
俺はと言えば、恋愛とかそう言うのはパスだな。
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