11-9 レミントン家の魔法武器
床に転がった四人の男達を一瞥したフリージアは、
咳払いをした組合長は、俺とビオラに視線を向けると、これまでの経緯を掻い摘んで話し始めた。
「すべては偶然だが、ラスがビオラ嬢と共に
そう、俺とビオラは
初めこそ、敵としか思っていなかったが、亡国ネヴィルネーダに向かう間、エイミーから彼女の身の上話とレミントン家の危険さを聞いたことで、彼女をこのままにしておけないと思った。
どのみち、
ちらりとビオラを見れば、その大きな赤い目が俺を捉えてぱちくりと瞬かれた。
「エイミー・レミントン。彼女が不正に遺跡へ侵入した件で特任魔術師へ通達がいっていると思う」
「そうね。私のところにも来たわ。無断で落ちた遺跡に道を作って侵入していたって聞いたけど、青の魔女に出来ることなの?」
「それは……」
口を開きかけたエイミーに、俺とビオラが勢いよく振り返ると、案の定、彼女はシャツの合わせ目に手をかけていた。
身体に刻まれた魔法を見せる気だ。
あれを見ればフリージアも納得するだろうが、そうほいほいと誰にでも見せて良いものではない。
俺がエイミーを止めようと口を開きかけた時、師匠の手が彼女の肩に置かれた。すると、彼女の細い指がシャツから離された。
「フリージア、そのことは追々話す。エイミー、君から詳しい話を聞くのも後にする」
「訳ありってことかしら? それで、ラスはレミントンの
俺がビオラと共にネヴィルネーダに向かったことは、ジョリーから聞いていたのだろう。フリージアは、ちらりと俺に視線を向けた。
「さらに、その娘を捕らえに、男達が追ってきた……そういうこと?」
「まぁ、そんなところだな。ラスの報告ではエイミーは、レミントン家の魔法武器の製造に携わっている。こいつらは、上からの命令で連れ戻さないといけないのだろう。武器の製造が途中とか、そんなところか?」
「
すかさず口を挟んだ俺は、背負っていた鞄の中から黒い袋を取り出した。
組合長の執務机に歩み寄り、袋をひっくり返すと出てきたのは、四丁の自動拳銃と弾丸が込められた弾倉だ。今、足元で転がっている奴らから取り上げたものだ。
男達の額に脂汗が浮かんだ。
「こいつらが店を襲撃した時に取り上げたものです」
「ふむ。これが、レミントン家の魔法武器か」
興味深そうに銃を手にした組合長は、その銃口を男に向けるとにいっと笑った。
武骨な指が撃鉄を起こし、男達は喉を引きつらせる。
「銃には不慣れだが、聞くところによると、これは広範囲の魔法が簡単に発動できるそうじゃないか」
「その銃とやらは面白いぞ!
「お前は黙ってろ」
「こら、ラス、頭を抑えるでない!」
ひょっこりと執務机を覗き込むビオラの頭を抑えた俺は、組合長の次の言葉に唖然とすることになる。
「ふむ。ビオラ嬢に撃たせるてみるのも一興か」
「は?……組合長、何を言ってるんですか?」
「いやなに。子どもでも簡単に扱えるような武器を作っているとしたら、問題はより大きいだろう?」
そう言って、組合長はにやにや笑いながら席を離れてビオラのすぐ傍に寄り、腰を下ろした。
小さな手に銃が握らされる。
ビオラの腕を持ち上げ、支えるようにした組合長は男達をまっすぐ見据えていた。
「まず、狙いを定めるんだ。そうだな、あそこの男の顔が丁度いいな」
「こうかの?」
「そしたら、この撃鉄を起こして……そうだ、上手いぞ。あとはトリガーを引けば──」
小さな指が引き金にかかると、男達は喚き声を上げた。
「話す! 何でも話すから、やめてくれ!」
その声が聞こえていないのか、ビオラは止まることを知らずにトリガーを引いた。だが、カチッと軽い音が響くだけで、何も起こりはしない。
「何じゃ、つまらぬの」
「これは子どものオモチャじゃない」
「妾を子ども扱いするでない!」
唇を尖らすビオラの手から拳銃を奪い、俺はため息をつきながら組合長の机にそれを戻した。
「お前たちの仲間は、何人、このマーラモードに入っているんだ? たった四人でラスの店を襲撃し、さらにフリージア一家を軟禁しようとしたとは思えなくてね」
「そ、それは……」
「何でも話すんだったよな?」
口籠る男の前で、組合長は拳銃に弾倉を叩き込んだ。
再び、撃鉄が起こされた。
「この武器は、うちのとこで輸入を認めてるものじゃない。おたくらは密輸しようとした罪で我らが捕らえた。さらに銃は暴発した……という筋書きはどうだろうね?」
「良いんじゃないかい? そうなれば、本社の強制捜査をする口実にもなるだろう」
面白そうだと言って笑った師匠が指を鳴らした。
パチンっという音に反応し、男達の固まる床に魔法陣が浮かび上がり、白い光が吹き上がった。それはまるで、四人を隔離するような光の壁となった。
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