11-6 氷の魔女がいるマリッサホテル最上階へ
荒っぽい運転に若干気分が悪くなりながら、マリッサホテルが通りの先に見えた時だった。その最上階から氷の塊がいくつも飛び出した。
まるで蓮の花が咲いたようにも見え、強い日差しを受けてキラキラと輝いている
「間に合わなかったか!」
「ほう、なかなかの威力じゃの。綺麗な氷の花じゃ」
「ど、ど、どうするのー!?」
悠長なことを言うビオラに反し、リアナは緊張に体を強張らせている。ステアリングを握る手にも力が入っているのが一目瞭然だ。
「どうするも何も、行って落ち着かせるしかないだろう!」
「お兄ちゃんもいるんでしょ? それで
アクセルを踏み込んだリアナは顔を真っ青にして叫んだ。
それから車がホテルの地下駐車場に滑り込んで停まると、俺は男を引きずり出した。こいつを連れて行くのは手間だが、ジョリーの奥さんを鎮めるには必要だろうからな。
ホテルの中は避難する客と従業員でごった返していた。今は、喧騒を気にしている場合じゃない。
最上階行きの
足を止められるのは、当然と言ったら当然だろう。顔が腫れ上がった男──それも縄で縛られた状態のと、女子どもを連れた男なんて疑わしいことこの上ないに決まっている。
俺がジャケットの内ポケットに手を差し込むと、警備員たちに緊張が走った。
そんなヤバいものを出す訳じゃないんだけどな。
取り出した魔術師
「特級魔術師様でしたか。そちらは……」
「上で騒ぎを起こしてる魔女を止めに来た。これは騒ぎの元凶。こっちの二人は関係者だ」
口早に言い終わると、降りてきた昇降機の入口が仰々しく開いた。
ビオラとリアナが先に乗り込み、俺も偽ジョリーを押し込めようとすると、従業員は「お待ちください!」と慌てた声を上げた。
「現在、最上階に昇降機は止まりません! 下の階から業務用階段を使ってください」
「分かった」
昇降機に乗り込むと扉がガシャンッと閉ざされた。
一瞬しんと静まり返ったが、偽ジョリーが突然床に座り込み、頭を擦り付けるようにして「助けてくれ」と声を絞り出した。
俺たちは、三人三様にため息をついた。
「情けない男じゃの」
「お義姉さんが怒る原因を作ったんですから、きっちり責任を取ってもらいます!」
「まぁ、凍傷で指の一本か二本はなくなるかもな」
冗談だがと口にはせずにいると、喉を引きつらせた偽ジョリーは座ったままずりずりと後退してその壁に背を当てた。足元が冷え始めたこともあり、凍傷という言葉をリアルに感じたのだろう。歯の根が合わないほど震えている。
それを見ても、可哀そうなんて感情は微塵も起きないけどな。
「その程度で済むならマシじゃろう。
にやにやと笑うビオラに、その顔がさらに青ざめていく。
「冗談じゃ」
「ビオラちゃん、顔が悪人さんになってるよ」
「……ほら、着いたぞ」
止まった昇降機から降りると、そこはまるで保冷庫の中を思わせるほどキンキンに冷えていた。
足が震える男を引きずるようにして、業務用階段を上っていくと氷漬けの扉が現れた。この先が最上階の
「ドアに触れたら、凍りそうじゃの」
「あの人の魔法なら、あり得るな」
「この人に開けさせたらどうかしら?」
「あぁ、指を数本落とす覚悟で……と言いたいところだが、とりあえず、炎で氷ごと吹き飛ばすか」
「妾に任せるのじゃ!」
にっと笑ったビオラは魔書を開いた。
「南の空に輝く星々よ」
凛とした声に反応し、魔書から赤い光が噴出した。それがビオラの前に集まり魔法陣となる。
「我が道を塞ぐ、凍てつく山を打ち砕け!」
赤い魔法陣から発射された赤い炎が、扉にまとわりつく氷を砕いて溶かしていく。勢いはそれだけに止まらず、扉までもを吹き飛ばした。
辺りから水蒸気が立ち上がり、その中でビオラはふうっと息を吐くと振り返った。
「さぁ、進むのじゃ!」
意気揚々と笑顔を振りまくその様子を見て、偽ジョリーが小さく「バケモノ」と呟いてへたり込んだ。まぁ、この小さい身体で、あれだけの威力を見せつけられたら、言いたくもなるだろうな。
「お前らは、その
淡々と言い、一度言葉を切った俺は足元に視線を落とす。
「洗いざらい喋るんだな」
紐を引っ張り、偽ジョリーを立たせると、俺はビオラとリアナの後について行き、壊れた扉をくぐった。
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