1-7 気楽な独り身であって、寂しい独り身な訳じゃない!
取り出されたのは
ごとりと重い音を立てて瓶が下ろされた。
「
「あぁ、頼む」
使い込まれた
こいつも大概にして守銭奴だ。古い付き合いなんだから、少しくらい
「お互い様だろ」
「……何がだよ」
「お前の目が、少しくらいサービスしろって言ってる気がしたからな」
ジョリーのしたり顔は、何年の付き合いだと思っているんだと言わんばかりだ。
それはそうだと賛同する代わりに、大銀貨二枚と引き換えに銀粉の入った袋を受け取った。
「そういや、メナード家って言えば、少し前に当主が死んだよな。跡目争いが激しいって話だぜ」
秤をしまいながら、ジョリーがふと思い出したことを口走った。
***
俺の自宅兼仕事場でもある店は、町から少し離れた高台にある。西に面した裏手の山は
仕事の大半は壊れた魔法道具の修理や遺物の封印解除に、魔法薬の生成と販売だ。危険を伴う大物の依頼を請け負うことも、
昨日の魔剣との遭遇は
だから、いざって時に町への被害が少ない場所に
実際のところ、ここは行方知らずとなった師匠の持ち家で、留守を預かってるだけなんだが。
ガレージにバイクを停め、サイドカーに積んである肩掛けの鞄を掴んだ。
ふと、ジョリーに女の一人でも乗せてるところを見せてみろと、いつぞや言われたことを思い出した。元々、サイドカーは荷物を積むためにつけてるのだから、大きなお世話だ。
くだらない揶揄いを思い出して不愉快になった気分を、深い息と共に吐き出して裏口に回ると、一匹の銀毛の狼がかけてきた。
「シルバ! 留守番、ご苦労だったな」
足にまとわりつく銀狼シルバの毛並みを撫で、ドアノブに手を
入ってすぐ、作業を行うための工房に向かった。
ケビン・ハーマンとの約束の日まで三日だ。それまでに、準備を進めなくてはならない。
シルバが作業台の下で腰を下ろし、丸くなった。
すぐ側に荷物を下ろし、棚の引き出しから乾燥させたホワイトセージの葉を取り出す。それを乳鉢で砕いて粉にした。丁寧に、光の魔法を込めながら。
出来上がったホワイトセージの粉と買ってきた銀粉を混ぜ、適量の
窓辺に並ぶ低い棚の上に型を置き、外に視線を向ける。そこには雲一つない青空が広がっていた。
しばらくいい天気が続きそうだ。三日もあれば石膏も乾くだろう。そうすれば、魔法陣を書くのに使うチョークの完成だ。
それから約束の日まで、大きな騒ぎが起きることもなかった。
三日間、部屋に
騒ぎが起きないのも当然か。
依頼品の
組み込まれた魔法陣は見事に壊れている。
正確に言えば、作られた複数の魔法陣が分割されて組み直されているのだ。このままでは、封印を解くことは出来ない。
「パズルみたいだな」
ぐるりと一周、四面にまたがって文字が連なっているのが、三種並んでいる。さらにその面と交差するように、同じく封印魔法が重ねてかけられている。そうすることで、正六面体の全面に文字が刻まれている状態だ。
これを正常な並びにすることが、解除の鍵だ。
そう気づくまでには、いくらか時間がかかった。その努力の結晶がノートに敷き詰められた古代魔法言語って訳だ。
疲れを
改めて、その一面を見た。
「……九分割か」
一面に対して、文字は均等に九分割されている。
混ぜられた文字盤は、正しい順番で回転させなければ元の位置に戻らない。全面を揃えるのにかかる時間は──
「魔法の種類も判明したことだし、三分も必要はないか」
それに、魔法陣が出来上がれば解除はすぐだろう。わざわざ解除の魔法陣を用意する必要もなさそうだ。
日当たりの良い窓辺に視線を向け、思わず苦笑を口許に浮かべる。そこには、三日前に仕込んだチョークの型が並んでいる。
せっかく作ったが、今回はその出番がなさそうだ。
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