窓の重りを外す、光が差し込む
長月瓦礫
窓の重りを外す、光が差し込む
鍵をかけた部屋、世界を閉ざす。
ベッドからずっと出られない。
暗い瞳は過ぎ去った昨日に覆われてしまって、明日が見えない。
どうせ何も変わらない。生きる意味なんてない。
陽が昇るように消えることができれば、どれだけいいだろう。
君にとって朝は絶望、見えない明日は恐怖。
それでも、私は扉を叩く。迎えに行くと約束したから。
「おはようございます! 調子はいかがですか?」
わずかに濡れた枕、君にとって朝は絶望でしかない。
窓を開けると、朝の光がゆらめいた。
「本日は快晴無風、最高気温は18度、最低気温は11度、降水確率は0%。
穏やかな青空が広がっていますよ」
「……何しに来たんだよ」
「約束しましたから、朝になったら迎えにいくって」
「そんなのしてない」
「しましたよ! 私が覚えてるんですから!」
私は何もできない。私は誰よりも弱い。
外へ連れ出すこともできない。
時間通りに部屋に来て、窓を開けて換気をし、天気予報を告げる。
聞かれていないことを私は答える。
「今日はどこに行きましょう?」
「どこにも行きたくない」
「商店街のパン屋さんが新作を出したんです」
「お前が食べたいだけだろ」
「市民館で浅羽先生の展覧会をやってます」
「……あの人の絵は怖いから行きたくない」
「公園の梅が見頃を迎えていますよ」
「花なんて来年も見られるだろ」
町の風はまだ冷たいかもしれない。
どうしたって心の中に不安は残るし、払拭することはできない。
沈んでいる重りを分けてくれれば、それでいい。
この手をつかんでくれさえすれば、私はひっぱることができる。
「俺のことはいいから一人で行って来いよ。
別に気にしなくていいから」
「そういうわけにもいきませんよ。
言ったでしょう、朝になったら迎えに行くって!」
明日を確かめるために、朝になったら私は君を迎えに行く。
どれだけ夜が長くても、必ず陽は昇る。
それが君にとっての絶望であったとしても。
窓の重りを外す、光が差し込む 長月瓦礫 @debrisbottle00
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