第105話 王宮からの要請
エリカです。
サルザーク侯爵へ魔石の融合の一件を説明し、魔法師や錬金術師の協力が得られないかを打診するために相応の情報を伝えてから、半月ほどして王宮から依頼打診がやって来ました。
まぁ、予想通りというか、多分来るだろうとは思っていましたけれど、王宮から直接ではなくって、サルザーク侯爵を通じての打診でした。
王宮にも携帯電話並みの通信装置を渡してあるのですから、別にサルザーク侯爵を通じなくてもできるはずなのですけれどねぇ・・・。。
私という規格外の魔法師・錬金術師に対する恐れなのか、あるいは遠慮なのか、それとも王宮や王家とは直言はできないという慣行でもあるのでしょうか?
でも何度か王宮に逝って直接会ってお話ししてますよねぇ。
何か変なんですけれど・・・。
そういえば、前世でも昔の風習でそんなのがありましたねぇ。
千年以上も昔の話ですが、いや、江戸時代でもあったのかもしれないけれど、帝へ何かを申し上げる際は、直接申し上げてはいけないのです。
例えば、「お傍の方へ申し上げます。これなるは云々…。」と申し上げ、御簾の中にいらっしゃる帝へは傍についている者(用人?)が効いた内容を繰り返して伝えるんです。
逆に帝からのお話も傍の者が伝えてくれるわけで、ある意味で伝言ゲームに近いのでしょうね。
まぁ、伝言ゲームと違うのは、帝もしっかりとその場で聞いていらっしゃるから、ミスリードは少ないというところでしょうか。
この慣行は、そもそも高貴なるお方に直訴はしてはならないとする風習なんです。
私は良くは知りませんけれど、もしかすると大陸から伝わって来た宮廷慣行なのかもしれません。
またまた、余分な話を・・・・。
いずれにしろ、サルザーク侯爵を介しての要請ですから、こちらもできるだけサルザーク侯爵を介して返事をすることになりますよね。
本当に無駄と感じますけれどね。
前世の官僚主義を何となく感じました。
王宮からの要請は、単純に言えば、王宮が維持している結界装置の修理・整備と維持の話でした。
王宮お抱えの魔法師では、機能の維持がそもそも難しく、また現代の職人(?)では修理もできないことから、サルザーク侯爵夫人から教えていただいたように、使っているドラゴンの魔石に蓄えられている魔力が徐々に減っているとのことで、40年ほどもすれば結界を維持できなくなるとみているからです。
本来であれば、魔力を定期的に補充することで魔石の能力を維持できるはずなのですが、設計者の思惑や展望はどこへやら、その技術が忘れ去られているのです。
単純に言われていた通りのことをしていただけでは、経年変化によってどんなものでも維持そのものですらできなくなります。
本来の機能を果たすためには、新たに予備を用意しておくか、維持するための整備方法が残されていなければならなかったのです。
それをもしかすると市井の錬金術師ができそうだからちょっとやってみてくれないというのは少し虫が良すぎじゃないでしょうかねぇ。
今、私は一生懸命にラムアール王国の外辺を魔人の侵攻からガードするために特殊な結界装置を造っていますが、長い目で見ればこれも一時凌ぎの壁にしか過ぎないのでしょうね。
形ある物はいずれ滅する。
諸行無常そのものでしょうか?
可能であれば私の弟子たちに知識や技術を伝えて行きたいと思っていますけれど、絶対に残さねばならないと思っているわけでもないのです。
無ければ無いで、未来の誰かがいずれ工夫するのでしょう。
前世の人類は魔法も無いのにそうやって科学文明を発展させてしてきました。
その中には弊害もありましたね。
百歳近くまで生きてしまうと、良いことも悪いこともすべて飲み込んでしまうものなんですよ。
この世界にとって良いことか悪いことかはわかりませんが、私は私の考えで生きて行きます。
王様や王家の一族も、単なるラムアール王国に住む一員にしか過ぎないと考えていますから、王家に特別の便宜を図るつもりはありません。
既定方針通り、王国内の結界を順次整備してゆき、王都の結界整備に当たって余裕があれば整備する予定です。
サルザーク侯爵には、口頭で言うのもはばかられたので手紙でお知らせしました。
侯爵が、王宮へどのように返事をしたかは知りません。
それにしても良き人材が居ないんですねぇ。
高位の魔法師や上級の錬金術師達も、魔石の融合はできなかったと侯爵からは漏れ聞いています。
であれば、ウチの弟子を鍛えてもダメなんでしょうかねぇ。
でもやれるだけやって駄目なら諦めましょう。
一人でも時間をかければ、できる仕事なんです。
幸いに私は、寿命は長いはずなんです。
何事も無ければ450年以上は生きているはずでしょうから・・・。
◇◇◇◇
ところで、魔人の領域を探すことと魔人の活動を監視するシステムを構築する過程で、複数の周回衛星を超空にあげているわけですけれど、そのおかげでこの世界(惑星)の地図ができちゃいました。
私が住んでいるコラルゾン大陸は
コラルゾン大陸の東方にあるのがブルタン大陸で、その南部が地峡でつながっているコラ大陸があるんです。
そうして、更にこの両大陸の東の大洋を隔てて、プレガルド大陸とエゾニア大陸が南北に位置しています。
ブレガルド大陸とコラルゾン大陸の間は非常に大きな大洋なので、交易はこれまで在りません。
もう一つ大陸らしきものがあって、進化した生命は居ないと思われるのですが、永久凍土と氷に閉ざされた南極大陸もありますね。
この世界は七つの大陸と、七つの海洋からできているということが分かりました。
この世界では、未だに精密な測量はなされてはいないようですから、私が周回衛星から得た世界地図が唯一のものになるはずです。
機会が有ればこの知識も時代の物に伝えて行きましょう。
ところで、この世界地図から、ホーリー・テールのパティとマッティの故郷かもしれない場所を、ブレガルド大陸北部と、エゾニア大陸南部で見つけました。
近くに大きな湖があり、太陽の昇る方向に山があって、しかも冬場には湖が凍結するような場所です。
緯度からみて二つの場所が冬場気温が下がった場合に、湖が凍結するであろうと予測しました。
南極大陸を除く他の四大陸には、条件に合った場所が無かったのです。
それで、早速、パティとマッティに話をして、その場所に行くことを決めました。
勿論、パティとマッティの故郷ではないかもしれませんが、現地へ行って確認してみる価値はあるでしょう。
以前は別大陸だと探しに行くことも難しい状況でしたけれど、今は飛行艇が有って、簡単に長距離の移動もできますからね。
コラルゾン大陸から西行して最初に訪れたのは、ブレガルド大陸北部でした。
でも、パティとマッティはここではないと明言しました。
場所的には五大湖周辺のカナダ領域の植生と良く似た植物が繁茂している風光明媚なところでしたけれどね。
パティとマッティが、自分の故郷を見間違うはずもありませんから、そこから南下してエゾニア大陸南部に向かいました。
そうしてその湖の畔が彼らの生まれ故郷でした。
そこに行って地上に降り立つと、すぐにパティとマッティの母親らしき生き物が姿を見せました。
パティとマッティが駆け寄って、三匹がもみくちゃになっていますがとても微笑ましいものですね。
それから少しして、ホーリー・テールの成体がパティとマッティに付き添われて私の前に来ました。
そうして彼女から念話が届きました。
『我が子達を救っていただき、ありがとうございました。
我ら一族は、この地が終の棲家の聖地となっていて、ここから離れられないのです。
突然にいなくなった我が子を当てもなく探しに行くことも叶いませんでした。
でも、滅多に現れることの無い精霊から、我が子二人が遠き地にてヒト族に保護されて無事に生きていると知らされました。
生きているのならば、それでよいと思っていました。
それが突然の帰還・・・。
あなたには返しきれぬ大恩がありますが、このまま、私の手元で
『パティとマッティはであったころに比べると少しは成長しましたけれど、まだまだ幼体の域を出ていないでしょう。
幼子は親と一緒に居るのが一番です。
あなた方が望むならこちらで暮らすのが一番良いことだと思いますよ。』
『『マスター、でも時々は会いに来てくれる?』』
パティとマッティが、揃って言いました。
『たびたびは来られないかもしれないけれど、場所は覚えたからきっと会いに来ますよ。
パティとマッティは私にとっては家族同然ですからね。』
このようにして呆気なくパティとマッティとの別れが来ました。
でも死に別れではありませんし、転移魔法があるので何時でも会いに来れるんです。
前世ではペットとの死に別れが結構ありました。
特に、夫の正樹が亡くなってからは、ペットを飼わなくなりました。
飼うと必ずペットの方が先に逝ってしまうんです。
なんだか私だけが置いて行かれるようでとても悲しかったですね。
きっと私って寂しがり屋なんでしょうね。
この世界に転生して、新たな人生を歩むことになりましたけれど、ここでも多くの人々は私を置いて先立ってゆくのでしょうね。
でもブラックエルフのエルメリアや、神獣のパティとマッティは、ともに同じ時を過ごせるのかも知れませんね。
大事に致しましょう。
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7月2日から、 「とある宙軍将校のとんでも戦記」
https://kakuyomu.jp/works/16817330661840643605/episodes/16818093080311416626
の投稿を開始しました。
一応、「カドカワBOOKSファンタジー長編コンテスト」への応募作品として投稿しております。
当面、毎日の投稿を予定していますので、ご一読いただいて応援をいただければ幸いです。
By @Sakura-shougen
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