064 クエストの〈裏側〉と〈食事〉する結界。

「もう大丈夫、落ち着いたよ」


 もう、涙は出てこない。理由が分かったから。

 断片的な記憶だけでは、全てを理解する事は不可能だ。

 だが、俺は女神ディアーナと


 例えそれが、俺では無かったとしても。


[大丈夫なの?...只事じゃない雰囲気だったよ?無理してるんじゃない?]

《...そーじぃ...》

「心配かけてごめん、本当に大丈夫だからさ。

 ええっと、女神様の件だったよな。

 女神...女神ディアーナ様のことは知らないし、会ったことも無いよ。涙が出ちゃったのは...女神様やゴブリ王達に感情移入したからじゃないかな?

 取り敢えず、俺は3つ目のクエストを受けているし、そのクエストを達成する為に頑張る」


 今、俺が出来る事を知る。

 今、俺に出来る事を行う。


《そーじ、ありがとうの。儂等に力になれることなら何でも言ってくれ...とは言ってもこの結界牢獄からは出られんのじゃが》

「気持ちは有難く受け取っておくよ...そうだ、そういえば、ゴブリ王達はこの結界から出れないのに、何でダンジョンのゴブリンが中に入れたんだ?まぁ、俺も人の事は言えないけど」


 疑問だったんだよな。何で悪いゴブリンがゴブリ王から〈杖〉を盗んだり、ゴブゴブ村を襲ってこれたのか。


《それはの、この結界の仕組みにあるのじゃ。この結界はの様にダンジョンから魔素エネルギーを定期的に喰っておるみたいでな。3ヶ月に1度の〈食事〉の際に結界がなる日が1日あるのじゃ。

 その日は外部からの侵入が可能みたいでな...儂等は出れんのだがの。

 儂等は、結界の〈食事〉の際、第2階層から軍を出して結界内に侵入してくる魔物達を1,2匹残して駆除しておる。ソイツ等に、そーじが受けたあのクエストの為に、1匹の魔物に態と〈杖〉を盗ませて...。


 これまで何度も何度も繰り返して。

 諦めるなど、有り得ん。

 必ず、〈ソウジ〉は来る、そう信じてな...まぁ、短く無い時間がかかったがの》


 そっかぁ...ずっとずっと、ずーっと。

 良かったな、ディー。

 眷属達妖精族は、ディーとの繋がりが途絶えた今でも、ちゃんと信じて待っているぞ。


「そうだったんだな。今まで俺みたいにゴブゴブ村まで辿り着いた探索者はいなかった、そういう事か?」

《その通りです、そーじさん。〈始まり〉のクエストを達成したのは、そーじさんが初めてです。3ヶ月に1度の、たった1日という限られた時間の中で、〈杖〉を持った魔物ゴブリンを見つけ出して...〈杖〉を鑑定することでクエストが始まる設定でした。とても確率が低いと分かってはいました》

「そうだな。でも、必要な条件だったんだな。ゴブリ王達の求める者と出会う為にはさ」

《そうじゃの。儂等の見た目は外の魔物ヤツ等と似ているからの》

「それで鑑定か...俺、ゴブリ王もブリンも鑑定してねぇな...」


 月が、会話出来たからな。


《そうですね。初めて現れたヒト族がスライム種と契約しているとは、驚きました。この世界でも他種族間で〈魂魄契約soul contract〉をするのですね》


 何それ。ソウルコントラクト?魂の契約?

 月とは友達契約だぞ?


「あぁ、どうなのかな?俺も魔物と契約している人は見た事ないかな。テイマーはいるみたいだけどね」

《そうなんですね...やっぱりそーじさんは特別な方なんですね》

「そんな事は...無いと思う。偶々変わったjobやskillは持ってるけど、只の新人探索者だよ」


 それに、現役探索者の知り合いがいません...これからだよ、これから。


《そーじ、そろそろ時間じゃて》


 時間?...そうか、結界の〈食事〉が終わるのか。


「次は、3ヶ月後なんだな?俺も何か手がかりを探すよ。次のタイミングの時には、進捗の報告と大福差し入れを持ってくる。だから、もう態と怪我をするような事は止めてくれ」

《もう儂等の用意したクエストは達成されたのじゃ。魔物なぞに勝手はさせんよ》


 頼むよ。でも、3ヶ月か。詳しい時間とか分からんのかな?30日と31日の1ヶ月じゃ1日ズレるんだよな。その前後に小鬼ダンジョンに来てもいいんだけどさ。


《そーじ、これを渡しておくのじゃ》


 ゴブリ王はシンプルな緑色の指輪を渡してきた。

 金属製だとは分かるが、思ったよりも軽い素材で出来ているみたいだ。


「何コレ?」

《ん?通信の魔法道具マジックアイテムじゃ。こっちの世界には無いのか?何処にいても相手と通信出来る便利アイテムじゃ。これなら結界の〈食事〉のタイミングをそーじに伝えれるじゃろ?だいたい2日前から兆候が表れるから、その時に連絡するぞ》


 めっちゃ便利アイテムじゃん!!ていうか、通話に限ってはスマホ以上じゃん。異世界って、すげぇな。


「ありがとう。何かあったら連絡するよ。

 もう少し我慢してくれ。

 必ず何とかしてみせるからさ」

《焦らんでいいのじゃ。儂等は待つのは得意な方じゃて。それよりも、気をつけてな、そーじ》

《そーじさん、お身体には気をつけて。今度、此方の世界のお話も聞かせてくださいね》

「了解。落ち着いた時にこの指輪で連絡するよ。ゴブリ王もブリンも元気でな。3ヶ月後にまた会おうぜ」


 2人に別れを告げて、ゴブゴブ村を出る、

 振り返ると、2人が穏やかな顔で手を振ってくれていたので、俺も振り返す。

 何かバタバタしたけど、良い出会いだった。

 助けてやりたいと、心から思う。

 いや、必ず助ける。

 そう、心の中で決意を新たに、結界の外へ急いだ。


 その後、結界を通り抜けたであろう感覚が再び。

 そして俺は、結界を鑑定した。


 やはり、ダンジョンはクソッタレだと、俺は再認識させられる。





「キィサマァァぁぁぁアーー!!!」

[酷い...なんでこんな事が...]





ーーー【記憶媒体補完用結界型装置ヒト喰い結界








 





 


 

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