061 〈始まり〉を語る、王。

 ゴブゴブ村に着き、ゴブリ爺さんを運び込んだ場所へと急ぐ。

 粗末な入口で一言掛けようとすると、逆に声を掛けられた。


《お待ちしておりました。入って下さい、そーじさん》

「これは、ブリンの声か?...失礼するよ」


 中にはゴブリ爺さんがあの時のまま寝かされていて、枕元にブリンが座っていた。


「遅くなってごめんな、ポーション貰って来たよ」


 薬師ホブさんから大福と交換した、ピンク色をしたポーションをブリンに渡した。


《ありがとうございます...でも》


 何か言いたそうな、言葉を隠すブリンの態度。もしかして!?間に合わ、


《これブリン、そーじが勘違いしておるぞ》


 え?誰の声だ?周囲には俺達とブリン、寝かされているゴブリじ...ッ!?


「ゴブリ爺さん!起きてたのかよ!?どうだ、身体は大丈夫か?おい、ブリン!ポーションを早く!」

《え!あ、あの...》

《いや、ポーションは必要無いのじゃ。身体はこの通りピンピンしておるからな》


 そう言ってガバッと立ち上がり、シュッ!シュッ!とシャドーボクシングして見せるゴブリ爺さん。

 ジャブのキレがプロみたいでびっくりだよ...。


「...そうか」

《あ、あの...ごめんな》

「良かった〜!本当に良かったよ!ゴブリ爺さんも大した事無くて元気になって安心だな、ブリン」

《え!?あ、はい。ありがとうございます...》

《アッハッハッ!そうじゃのう、儂も元気になれて孫のブリンも安心じゃ。それでも、ポーションを持って来てくれてありがとうの、そーじ》

《お爺様!!...あ、すいません...》

「いいよいいよ、俺の事は気にしないで。

 それと、そのポーションはあげるから持っといてよ。また何かあった時に使いなよ」

《そーじさん...そーじさんはッ!》

《ブリン、そこから先は儂が話すのじゃ》


 何だ?妙に真剣な表情のゴブリ爺さんとブリンの2人に見つめられている。

 そういや、そろそろ《あの御方》さんに会いに行かなきゃな。


「どうした?折角良くなったんだから家族でゆっくりしなよ?俺もちょっと会わないといけない相手がいるからさ」

[総司...相変わらず鈍い子なのね...お姉ちゃん心配だよ]

《そーじはどんかんーぬるめのかんー?》


 鈍い?俺が?

 月おしい、それは鈍燗だな。誰情報かは今度教えてね、とっちめてやる。


《余が、説明してやろうと言ったであろう?》


 ッ!!?


「ゴ、ゴブリ爺さんが〈あの御方〉だったのか!?」

[わーびっくりー]

《びっくりー》


 やめいッ!てか、気付いて無かったの俺だけ?嘘、月も気付いてたの?


《...なんか申し訳ない気がするのじゃ。すまんな、そーじ》

「いや、謝られると余計に辛い。ここは大人らしくお互いにスルーしよう。

 おほんッ。

 それで、全てを話してくれるんだな?〈小鬼王国ゴブリンキングダム〉の王、ゴブリンキングであるゴブリ王よ」

[うわぁ...開き直ったよ。さも無かったかのように大人の対応に切り替えたよ。私の可愛かった弟が汚い大人になったよ]

《そーじがきおくにございませーんしたー》


 君達、黙りなさい。


《う、うむ。そーじはメンタル強者じゃな。儂なら恥ずかしくて悶えてしまうがの》

《そーじさん凄い...》


 うるさい、俺だって恥ずかしいわ。


「話を進めてくれ、ゴブリ王」

《...貫き通すのじゃな。男よの、そーじ。

 そうじゃの...儂等〈小鬼王国ゴブリンキングダム〉が元々〈ユルク〉と言う異世界にあった事はもう知っておるな?》


 あぁ。ゴブポーションで獲得したskillの鑑定結果で知ったよ。

 俺は無言で頷く。


《儂等...あぁすまんの、民の前では立場もあるのでな。あの口調は疲れるんじゃよ。

 で、じゃ。

 儂等は30年前、突然、国を襲った眩い光に包まれて...気が付いた時にはこの場所で、結界という牢獄の中に転移しておった。

 ここが異世界だと理解させられたのは、結界の外に儂等と同じ姿形をした、妖精族ゴブリン種のが居るのを見つけたからじゃ》


 どういうことだ?何だよ、偽物って。


「偽物って、何故それが偽物だと分かったんだ?」

《そんなの簡単じゃ。彼奴...便宜上、彼奴と呼ぶとしようかの。

 彼奴等は、異常なのじゃ》

「異常?俺にはどれも同じゴブリンにしか見えないが?」

《それじゃ。それじゃよ》


 ??どういう事だ?そんなの当たり前の事じゃ...。


[あッ!]

「愛菜姉ちゃん?」


 愛菜姉ちゃんが何かに気付くが、先にゴブリ王が告げる。



《皆、同じ。彼奴も此奴も、何処に行っても、それこそ何十何百、何千というゴブリンが、。これを異常と言わずして、何を異常と言うのじゃろうな》


 俺達人間では、決して気付けない事実を、さらっと言った。



 

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