054 ◉貴方達は、本当の意味で理解しているのか?その神の御業の如き偉業の恐ろしさを、本当に理解しているのか?❸
『...貴方達は、本当に救いようのない馬鹿だ』
話の中で、この柊木常務と折谷氏は義理の親子だったという。
あれだけ家族を大事に、一番に考えていた者に対する許されざる行いをした女の父親。
挙げ句の果てには、馬鹿共の言葉を鵜呑みにして退職に追い込んだ会社。
直ぐに彼が探索者となったのは英断だろう。探索者協会は世界規模で、国ですら迂闊に手を出せない。下手をすれば〈魔石ショック〉が再び起きてしまう。
魔石エネルギーに依存してしまっている現代社会では、魔石とより良い付き合いをしていかなければならないのだから。
『ハッキリ言って状況は最悪に近い。
貴方達の会社の利益だとか、損失だとか、そういったくだらないことはどうでも良いのだ。
しかし、私が聞きたかったことは、良し悪しは別として確認出来たのでだから、先程約束した通り、一つの真実を伝えよう』
『真実...』
画面の向こう側の柊木という男が、緊張のせいか少し呟いた後に生唾を飲み込み、設置されたカメラに今までよりも真剣な眼差しを向けてきた。
『折谷氏はMECUTの最大値を53.8%に設定した立役者である。
これは、折谷氏のいない今、貴方達はその身を以て理解した事だろう』
『ええ...お恥ずかしい限りですが』
『よろしい。では、少しばかり折谷氏について、私見だが話させてもらおう。
貴方は〈原子力発電所の完全閉鎖〉を歴史の授業で習っただろう?
うむ、そうだ。
世界中の原子力発電所は、魔石エネルギーという代替可能且つクリーン、放射線も放出しない極めて安全とされてきたそれの出現により、原子力発電所を持つ国々はその安全性やダンジョンから無限に供給される資源であるという点を踏まえて、一斉に閉鎖を決定した。
余談ではあるが、その流れで核兵器も年々その数を減らしている。それは、
ダンジョンは、この地球上から〈核〉を廃絶させるのだ。
話を戻すが、ダンジョンから齎される魔石は私達人類には必要不可欠な存在へと、その価値を知らしめた。
私が今使用している物のように、様々な道具にも利用されその利便性は高まる一方だ。
そして、需要は日々高まっている。
ダンジョン及び探索者協会という〈供給〉側と日々魔石エネルギーを消費しながら生きている〈需要〉側。私達や貴方達ダンジョンエネルギー資源関連企業は、供給と需要の間で、魔石をより効率的に運用が出来るように日々切磋琢磨してきた。
ここまでは理解出来るか?
そうか、よろしい。
では、折谷氏の行っていたモノとは何か、という点だ。
私が何を言っているのか分からないだろう?自分達の利益追求ばかりに熱心な貴方達では、分かる筈が無いのは当たり前だよ。
折谷氏はな、MECUTの数値をある程度の範囲内で自由に設定する事が可能なのだと思われる。
分かり易く言うならば、折谷氏は1人で世界中の需要と供給という天秤を調整していたのだよ。
偶々貴方の会社に在籍しているタイミングで、近年の魔石エネルギー使用量の増加という需要に対して、MECUTの最大数値を53.8%まで引き上げる事で供給を賄えるようにバランス調整をした、それが、貴方達が我者顔で世界中に発表した功績の真実であり、
折谷氏という〈
あくまでも私見に過ぎない故、笑いたければ笑えばいい。
既に折谷氏は供給側である探索者となったので、今後この件に関して一切口出ししないだろう。
既に〈賽は投げられた〉のだ。
貴方達の愚かで身勝手な行動が、今度この世界に如何なる影響を齎すのかを、その目で見て、耳で聞き、肌で感じるがいい』
目を見開き、驚愕の表情をしている柊木常務に、『それでは失礼する』と伝えて回線を閉じた。
視界の片隅でドイツ支社長の男が慌てふためいているのが見えた。
こういう時、妹が教えてくれた日本のラノベやweb小説で流行りの『もう遅い』というのだろうか?などと考えていると、不意に笑えてきた。
『
自然と出た言葉に自分でも少し驚きながら、私はKUJYOホールディングスドイツ支社を出る。
精々、頑張ってくれ。
MECUTの最大数値を追い求める研究など、コチラ側に折谷氏のいない今、無謀な挑戦にしか思えない。
彼は私達の先生であり、私達は彼の生徒に過ぎなかったのだから。
それよりも、あの慇懃無礼なメール。
折谷氏から与えられた、最後の宿題に取り組まなくてはならない。
どんな理由で私だけに伝えたのか分からないが、この宿題が解けたら直接会いに行くのも面白いな。
ふふふ。彼は私と会った時、どんな顔をするのだろうか?
妹に日本の楽しみ方を教えてもらっておかないといけないな。
彼とはメールでのやり取りしかした事が無いからか、どうも私の事を勘違いしている節がある。
そういえば、最近独り身になったと先程言っていたな。唯一これだけは、嬉しい情報提供だったと思う。
私の名前は〈
お会い出来る日が来るのを、心から楽しみにしていますよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます