053 ◉貴方達は、本当の意味で理解しているのか?その神の御業の如き偉業の恐ろしさを、本当に理解しているのか?❷

『もう一度、言ってくれますか?柊木常務』

『...前任の折谷は...退職致しました』


 最初、何を言っているのか分からなかった。

 アニメや漫画が好き過ぎて日本文化にどっぷりとハマった妹が、漢字の並びが美しいから好きだと言って教えてくれた日本の諺は、今の私のこの状況にピッタリだろう。


 〈青天の霹靂〉。


 この柊木常務という男は、事の重要性を全く理解していない。理解しようとした努力すら伝わってこない。

 いや、元々【MECUT】の、自分達に利益を生み出す部分しか見ていないまま、ここまで成長してしまったのだろう。


ーーーなんと愚かな。


 こいつらは、KUJYOUホールディングスは何を考えているのだ?...いや、何も考えていないのであろうな。でなければ、前任担当者の折谷氏を退職させてしまうなんて馬鹿な間違いを犯す訳が無い。本当に、大馬鹿野郎の集団だ。


『嘘であって欲しいと心から願うような事実を、世の中のダンジョン関連企業及び国に対する死刑宣告となんら変わらない情報を、提供して頂き感謝する』

『...』


 これが、あの〈怪物モンスター〉の上司だというのか...。

 折谷氏はさぞ苦労したであろうな。このような者が経営幹部として居座る組織なぞ碌でも無いのは、火を見るより明らかだ。


『残念だが、改めて国を通して話し合いを進めていく事になるだろう。

 貴方達が、その足りない頭で何をどう勘違いし、凶行に及んだかは分からないが、一つの確認と、一つの真実を伝えさせてもらおう。

 これは、KUJYOUホールディングスに限らず、ダンジョン資源開発に取り組む各企業及び団体、国にも言える事だ』

『それは...エネルギー供給量の問題でしょうか?魔石の量の確保は探索者協会と連携して補填するよう取り組む次第です』


 損失の補填、補償の話か?どこまでも金の話しか出来ないのだな。


『私の確認したい事は、折谷氏が退職する事となった経緯と今現在の折谷氏の行方だ。

 正直に答えて欲しい。調べれば直ぐに分かる事だし、多少のはつく』


 あわよくば、と思う浅ましい気持ちと少しの希望が混じった言葉を投げる。


『実はーーー』



『巫山戯るなァ!!』

『ッ!?』


 コイツらが折谷氏の功績を奪っているのは想定していた。あれだけの知識を持つ者の名が開発者名簿に載って無かったのだから。

 昔から研究チームに居る先輩方は『KUJYOのチームは凄い、末端の者ですらMECUTを熟知している』と評していたが、私は疑問に思い一度だけ、彼以外のメンバーにメールを送った事がある。

 その返信を見た時、私は理解した。

 大企業ともなれば、そういう事もあると会社勤めの友人に聞いた事もある。それに、彼からの返信メールの履歴は、いつも日本時間で真夜中と言ってもいい時刻だったのに気付いた時、確信めいた考えに至った。


 折谷氏こそが、偉業を成し遂げた人物なのだと。

 それと同時に、彼はその輝かしい功績に執着していないと。


 その時の私は歓喜した。

 世の為人の為にと、名声も求めず偉業を成し遂げた素晴らしい人物に出会えた事に。


 その後も彼とメールで何度かやり取りをしていた時、一度だけ、たった一度だけ、彼らしくない慇懃無礼な内容のメールが届いた。


 その文面を読み、頭で理解した時私はーーー



 “貴方は全くもって魔石というモノを理解していない。

 何故ダンジョンは魔物の生命の塊エネルギー物質である魔石というモノをドロップ品として地上に持ち出すのを許可しているのか?

 地上で計測した魔石の総エネルギー量は、魔石に対して本来在るべき総量、満タンなのか?

 ダンジョンでは、一定時間毎に魔物がリポップするという。

 その仕組みの中でダンジョンが新しい魔石を生成してエネルギーを充填する。これがリポップまでの時間と仮定し、満タンとなった魔石を媒体として、魔物がダンジョンに出現する。

 これがダンジョンのシステムとなっているのであれば。

 地上でも魔石はエネルギーを失わずに内包しており、私達人類がそのエネルギーを利用出来るこの状況は、ダンジョンを離れても魔石にはシステムが組み込まれていると考えられる。


 では、


 仮に100%のエネルギー量の魔石があれば、地上にも魔物が出現してもおかしくないのではないか?

 もしかしたら、80%のエネルギー量の魔石でも出現するのかも知れない。

 私達人類は、ダンジョンのシステムを知らないのだから。


 再度、研究熱心なドイツ連邦共和国魔石エネルギー開発研究所のゲオルグ博士に問う。


 貴方は、本当に魔石という存在の意味を理解しているのか?


         Souji Toujyou ”




ーーーただただ、恐怖でしかなかった。


 

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