052 ◉貴方達は、本当の意味で理解しているのか?その神の御業の如き偉業の恐ろしさを、本当に理解しているのか?❶

Oh Mannなんてことだ!!』

「も、申し訳御座いません!只今本社にて新しい担当者を選任中、との事ですので今暫くお、お待ち下さい...」


 埒が明かない!

 態々ドイツ支社まで来たというのに、この段取りの悪さと言ったら!

 アポイントの時点で『担当者との衛生中継でご説明します』と言っていたではないか!?

 最新の〈独・日〉同時通訳の魔石機材まで入手してきたというのに...。



 我が国、ドイツ連邦共和国の国家プロジェクトである【魔石エネルギー変換効率上昇技術】、通称【MECUTメカット】を研究しているチームに所属したのは1年前だ。

 先進諸国の中でも、その技術力で高度経済成長を成し遂げた島国、日本。彼の国は自国の国土面積という弱点を技術力の輸出、国外で工場を設けて商品生産する等の体制で補い成長してきた歴史がある。

 ダンジョンから産出される資源、〈魔石〉を使った代替エネルギー開発にもいち早く着手し、そして、ある企業が〈世界を変えた〉と言っても過言では無い成果をあげた。


 〈KUJYOUホールディングス〉。


 【MECUT】数値、脅威の50%超えを確立し、その技術を各国と契約して広めた。

 決して独占するだけでは無く、各国との共同技術研究にも意欲的に参画している。勿論、中核となる部分は非公開としているが、世界各国はこのスタンスをこぞって称賛した。


『何故、突然担当者が変わるのだ!貴社の開発部門の責任者と話をさせてくれ』

「申し訳御座いません。本社の方でトラブルが発生しており、この件に関しまして対応出来る者がーー」

『部門責任者が駄目なら、その上の者と繋げてくれ。言っておくが、これは我が国からの要請だ。このままシラを切り通すと言うのであれば、国対国の話し合いとなる。既にこちらの首相トップには通してある』

「ッ!?国!...し、少々お待ち下さい!再度本社に連絡致します!」


 支社長でもある中年の日本人はそう言うと、私を応接室に残し出て行った。


 何か、おかしい。

 先日...と言っても1か月くらいは経つが、その時メールで担当者とやり取りした時には何の問題も無かった。

 相変わらずの知識と日本人らしく無いユーモアのある言い回し、何よりも一企業の社員として遊ばせておくには勿体無いくらいのそのセンス。


 彼は、このダンジョン時代が生み出した〈怪物モンスター〉だ。


 各国でエリート中のエリートが集まる研究機関のメンバーを相手に、している節がちょいちょいと見受けられる。

 最初から答えを提示せずに相手に考えさせ導く。私もこんな気持ちになったのは学生以来で、心踊るものがあったのだ。

 出来れば、我が国に招き教えを乞いたい。

 そう思いオファーを何度もした。

 おそらく他国も同じだろう。

 だが、その人物はそれらの勧誘を一切受け付け無かった。曰く、


『私はただの一社員。そのような評価を受けるような人間ではありません。お誘い頂いたのは有難いのですが、家族との時間を大事にしたいのです』


 勿論、御家族とご一緒に、と伝えどもより良い返事は頂け無かった。あまりしつこ過ぎて悪印象を与える訳にもいかず、今まで通りメールでのやり取りが続いていたのだが...。


ーーーコンコンコン


『どうぞ』

「し、失礼します」


ーーーガチャッ


「お、お待たせ致しました!弊社と回線が繋がりましたので、ご案内させて頂きます」

『分かりました。常務取締役であればきちんとしたお話を聞かせてもらえると信じていますよ』


 その常務取締役の話す内容次第では、私を含めた研究チームだけでなく、ドイツ連邦共和国はKUJYOUホールディングスとの契約や関係をすっぱりと切る。

 そんな事、夢にも思っていないであろう支社長の男は、へこへこと頭を何度も下げながら私を案内し始めた。

 

 

 


 

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