051 繋がる〈ポーション〉。
自分の無力さに嫌気がさすことなんて、これまでの人生で何度も、何度も味わってきた。
養護施設の
小学校の体育の授業で、どれだけ練習をしても七段の跳び箱を跳べなかった。
中学生になって、両親がいないというだけでイジメにあっていた時も、自分の力では解決出来ずジッと我慢し続けた。
高校生になる直前のあの時も、
会社でハラスメントを受けていた時も、
沙織を間男に奪われた時も、
月の体調不良の時も、
そして今、
目の前で倒れ伏している家族に縋り付きながら慟哭する、クエストの依頼主と思われるゴブリンの少女、ブリン。
俺は、まだ無力なのか。
悔しいと、
「ゴブゴブーーーッ!!」
ーーーGyagyagyaッ!!
「頼む、消えてくれ」
ーーーズシャッッ!!
剣を持ちニヤニヤと嗤っていたゴブリンを斬り捨て、倒れている年老いたゴブリンに液状の回復剤を飲ませようと近づく。
俺に気付いたブリンらしきゴブリンが驚いて俺を見るが、それを無視して回復剤を口から流し込む。
ーーーゴク、リ...
飲んだッ!
「おい、爺さん!頑張れッ!!死ぬなっ!!」
「ゴブゴブゴブッ!ゴブッ!」
必死に声を掛けているが、俺には言葉が分からない。だが、気持ちは俺と同じだと思う。
《おじーちゃん、しなないで、だって》
「月!?ゴブリンの言葉が分かるのか!?」
[そっか!月ちゃんも魔物だから言葉が理解出来るのね!]
《わかるー。おじーちゃんくるしそー。そーじのおくすりあんまりきいてない?》
何故ッ!?...そうか、これは人間用の回復剤、魔物に効くとは限らないのか!?
「ゴブゴブッ、ゴブゴブゴブッ!」
「月、何て言ってるか教えて!」
《そーじのおくすりだとちょっとしかきかない、だんじょんさんのぽーしょんがあればって》
ダンジョンさん?あぁ、ダンジョン産か。
ダンジョンで見つかる〈ポーション〉があれば良いんだな?
「月、その〈ポーション〉は何処にあるのか聞いてくれる?」
《わかったー!》
月が念話で話しているのを見守りながら、倒れている爺さんの容体を確認する。
微かに胸の辺りが上下しているが、顔は苦しそうな表情。よく見たらお腹に刺し傷があるが、飲ませた回復剤のお蔭か出血は止まっている。
「ゴブゴブゴブ、ゴブゴブ」
《...》
「ゴブ、ゴブ...ッゴブゴブ!」
《...》
「ゴブ...ゴブゴブ...」
《...》
[...やっぱり私にはゴブリンとチャンネルが合わせられないわ]
愛菜姉ちゃんも元は人間。やはりゴブリンとの意思疎通は出来ないのも納得だ。
月とは友達契約があるから意思の疎通が可能なだけで、やはり特殊なケースなのだろう。
《そーじ、わかったよー》
「ッ!ありがとう、月!で、何だって?」
《おしえたらぽーしょんをとってきてくれるのー?って。あと、そのにんげんはだーれ?って》
「ああ、そっか、突然現れた人間だもんな。
ごめん、言葉が通じるかは分からないけど、俺の名前は折谷 総司。さっき、クエ...ゴブリ爺さんの杖を悪いゴブリンから取り戻したから、届けにきた人間だよ」
収納から杖を取り出して、渡す。
恐る恐る受け取ったブリンは、杖をギュッと抱きしめた。
「ゴブゴブ。ゴブゴブゴブ...」
《そーじ、ありがとーだって。あと、にんげんのことばすこしわかるって》
「ありがと、月。ブリン、『ありがとう』は後で、ゴブリ爺さんと一緒に言って欲しいな。
ポーションは俺が取ってくるからさ」
「ゴブ...。ゴブゴブッ!ゴブゴブゴブッ」
少し悩むような仕草を見せた後、何かを言いながらしっかりと頭を下げるブリン。
月の通訳無しでも分かる。
「うん、任せてくれ。必ず、取ってくる。
だから、それまで爺さんの側に居てやって。
後、あんまり効かないかもしれないけど、回復剤渡しておくから」
「ゴブゴブ。ゴブゴブゴブ!」
《ありがとー、おねがいしますって》
「急いで行こう。
で、月。何処にポーションはあるって?」
この〈
《このだんじょんの5かいそー?にあるほぶごぶりんのむらでうってるってー》
「必ずぶん殴ってやるからな、
ーーークエスト【ゴブリ爺さんの杖を届けろ!】clear!
ーーーチェーンクエスト【ポーションを手に入れよう!】が発生しました。
受注しますか? →Yes/No
突如、頭の中に響いた不快で、無機質な聲。
ゴブリ爺さんの命を強制的にbetさせられた悪質なゲームに俺は、
「Yesだ、クソったれ」
開けたゴブゴブ村から見えた擬似的な青空に向かって、中指を立てる。
ーーーチェーンクエスト【ポーションを手に入れよう!】を受注しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます