050 風雲急を告げる銅鑼声、金切声。
「...はぁ。行こっか、ゴブゴブ村」
《れっつえんじょいくえすとー!》
[お、おー?...総司?頑張ろ?ね?]
俺の探索者生活の安寧は何処にいった?
どっかの宝箱とかにかくれんぼしてない?
特別ってさ、沢山ある普通の中に紛れた1つだと思うんだよ。
子どもの頃流行ったコ◯ラのマーチの眉毛コ◯ラとか。
ビッ◯リマンシールの◯ウスやヘラク◯スとか。
普通があるから、特別は特別でいられるんだよ。なんと普通の有り難いことか。
考えてもみてくれよ。
男子高校生が遅刻しそうだから、食パンを咥えながら急いで通学中、曲がり角で女子高校生と出会い頭にぶつかって『キャッ!』なbluespringなラブコメも、毎朝毎朝そんな事が通学路のあちこちで発生してたら最早ホラーだぞ?《高校生に流行る謎の奇病!?朝の曲がり角の恐怖!》とかいって三流スポーツ新聞の一面に載るわ。
駄目だ...。現実逃避先がおかしな事態になってきた。
まぁ、起きた事はしょーがねーなー。(月の真似)
なんて事を考えながら、もちろん周囲の警戒を忘れずに道標が示す脇道を進む。
木々を縫うように続く土が剥き出しの道を15分ほど進むと、不意に空気の膜を抜けた。それは殆ど抵抗の無い、シャボン玉を割らずに通過したような不思議な感覚だった。
「今のは何だ...?」
《ん〜?》
月も何かを感じたっぽい。お互い何かは分からなかったのだが。
[総司!あそこ!何か建物みたいなのがあるよ!]
愛菜姉ちゃんの言う通り、少し先には家屋というには程遠い、木を組んだ上に葉っぱを被せた住居のようなものが5軒ほど見える。その奥さんにもまだあるのかは分からないが、それらを囲うように俺の腰の高さほどの柵が立っていた。
「本当にあったよ...ゴブゴブ村...。
そういや俺、どうやって中に入って行けば正解なんだろう?ゴブリンの言葉なんて分からないし、コミュニケーションとれる自信なんて無いぞ?」
そもそも言葉の通じない外国人とのコミュニケーションですら自信の無い俺のコミュ力で、他種族、それも魔物のゴブリン相手とか。
《そこはおじゃましまーすだろー》
あ、スライムとは友達だったわ。
[そうだね...取り敢えず近くまで行ってみたら?]
「そうだね。あーだこーだ悩んだところでどうしようもないか。ヨシッ、行こっか」
《いってみよー♪やってみよー♫》
...その番組まだやってるの?
月はどこからそんな情報を拾ってきてんだ?
不思議なことに、辺りには魔物が現れるような雰囲気は無い。
何処かで経験したことのあるその雰囲気。
記憶を探ってみると、
「ダンジョンの
ダンジョンは俺に何をやらせるつもりなんだ?」
小さく呟いた言葉は誰に届くことも無く、そうこうしている内にゴブゴブ村と思われる集落の入口付近に辿り着いた。
この時俺は、忘れていた。
意味不明なおつかいクエストに絆されて、どこか人助けをしている、
ゴブリ爺さんを心配する孫のブリンの人間くさい優しさに、またそれらを害する同族がいることに人間社会となんら変わらない虚しさに。
此処が
ーーーGyaaaaaAAAッ!!!
ーーーゴブゴブゴブーッ!!
[総司!!何か様子がおかしいよっ!?]
「チッ!クソっ!!走るぞ!月!落ちないようにポーチに入って!」
焦燥感に駆り立てられるように、村の中へと急ぐ。
別に縁も所縁もない、降って湧いたようなクエストで訪れただけだ。それでも、
ーーー杖無しでは生きていけないゴブリお爺ちゃんの杖を、悪いゴブリンに盗まれちゃったの!
誰か杖を取り戻して届けて下さい!お願いします! by 孫のブリン
「家族を大事に思う気持ちに人間もゴブリンも関係ねぇんだよッ!!
俺の、折谷 総司の目の前でそんな所業が許されると思うなぁぁぁァァァァアアーーーー!!!!」
頼むから間に合ってくれッ!!!
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