047 月と総司の夜長。〜それは、お月様のせい〜
自宅マンションに帰り着いた頃にはだいぶ辺りは暗くなっていた。段々と秋が深まってきたのだろうと実感させられる。
そう言えば、つい最近まであれほど騒がしかった蝉達もいつの間にか大人しくなっていて、そのうち代わるように秋の音楽家達が彼方此方で夜な夜なその腕を競い始めるんだろうな。
「今日はお月様がご機嫌良さげだな」
《つき〜?つきはごきげんだぜ〜!だいふくうま〜》
やっぱり味覚しっかりしてるのな。
帰り着いてから簡単な料理も作って、月の歓迎会を始めた。愛菜姉ちゃんには申し訳無いけど食べ物は俺と月で食べ、3人でお喋りを楽しんだ。
月は小柳和菓子店の大福を大層気に入ったようで、《またかってね〜》とおねだりまでされた。カステラはダンジョン探索のおやつなので感想は明日以降となる。
そんな感じで御開きとなり、今、ベランダで煙草を吸いながら夜空を見上げていた。肩の上の月も、いつもよりも神秘的なスーパームーンを見ているのだろうか。
《だいふくみたいにまーるいな〜》
「月と一緒だな。真ん丸だ」
《まんまるだ〜。つきもまんまる、だいふくもまんまる、いっしょ》
ゆっくりと、時間が流れている気がする。
仕事してた時も、辞めてからも。
結婚生活も、離婚後も。
何かとバタバタしていたからか、こんな穏やかな時間がとても大切だと実感出来た。
恨んでいるとか復讐とか。
そんな気持ちは持ち合わせていないかな。
浮気、不貞行為が分かった時は辛かったけど、俺にとっては、幸せな時間だった。
珍しく作ってくれた手料理の肉じゃがは、今まで食べた肉じゃがの中で1番美味しかった。
少々値のはる欲しがっていた服をサプライズでプレゼントした時の驚いた顔も、照れ臭そうにありがとうという顔も。そんな何気無い事が俺にとっては特別だったんだ。
残業ばかりで帰るともう寝てたけど、リビングの空調は季節に合わせてつけてくれていた。
お風呂の用意もしてあった。
1人じゃ無いんだなって、明日も仕事頑張ろうって。
単純かも知れないけど、俺にとっては嬉しい思い出で、大切なものだから。
こんな事誰かに言ったら、笑われるだろうな。
浮気された挙句他の男の子どもを妊娠して、離婚されたサレ夫のクセに。
それでも俺は。
無いと思うけど、沙織とまた話す機会が来た時には、
『ありがとう』
そう伝えたいと思う。
俺に初めて家庭を築く難しさと楽しさと苦労と幸せを、教えてくれてありがとう、だ。
その時には、赤ちゃんを抱いてるのかな。
他人の子どもだけど、一度は愛した女性の子どもだから、可愛いと思うんだろうな。
やっぱり俺は、少しズレてるのかもな。
柄でも無い事を考えるなんて、今日はどうかしてるよ。
月が元気になったからかな。
時雨さんとの話のせいかな。
香澄さんと愛菜姉ちゃんのせいかな。
大福が美味しかったせいかな。
それとも、
「今夜の
《そーじかっこつけてらー、へんなの〜》
「そう?結構イケてた事ない?」
《だっせぇ、だっせぇ、だっせぇわ〜♫つきはおもうよりけんこーだー♪》
「君、ちょっと前に体調崩したからね?」
俺は、大切なものに恵まれてる。
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