目指せrankアップ!トレーダーの真価と進化。
046 小柳 香澄と佐倉 愛菜。
時雨さんと別れた俺達は、小柳和菓子店に寄って大福を買って帰る事にした。
先延ばしにしていた月の歓迎会を開催する為だ。
《だいふく〜だいふく〜まっておれ〜》
「逃げないよ、月...。討ち入りみたいに言わないの」
愛菜姉ちゃんと歓迎会の話をしたら、突然目覚めた月。
楽しみにしていてくれたようで嬉しい。
[ピコン。小柳和菓子店かぁ。香澄先輩元気かなぁ]
そういや愛菜姉ちゃんが探索者やってた時の先輩だって言ってたっけ。
オバチャンが元探索者だって聞いた時は、驚きよりも納得した、って感じだったわ。
しかも、高rankだったみたいだしね。
あの上腕二頭筋はホンモノだったってことだな。
「愛菜姉ちゃんはさ、オバチ...んンッ、香澄さんと一緒に探索とかしたの?」
[ピコン。それは無いかなぁ。香澄先輩はみんなの憧れだったし、rank差もあったからね〜。
それに美人で強くてカッコイイから、男性探索者達から沢山言い寄られてて、中々一緒にはねぇ〜]
信じられん...。
いや、確かに武史さんも...オバチャンに歴史あり、だな。
オバチャンのjobとか気になるな。勝手な想像だけど、両手斧のどデカいのを片手で振り回してそう。job〈
「そうなんだね。まぁ今は和菓子店で元気に店主やってるし、俺にはその姿が、香澄さん、かな」
[ピコン。そうだね。香澄さんも〈念話〉使えたらお話出来るのになぁ〜]
そうだよね。意外とあっさり出来たりして。
《そーじだいふくまだ〜?》
「月、もうすぐ着くよ。でもお店では出たらダメだからね?俺が美味しいの選んであげるからさ」
《おけ!つきは〜おくちちゃっく〜》
ご機嫌だなぁ。意外と月は美味しい食べ物が好きなのかな?グルメなスライムになりそうだな。
そうこうしていると、見慣れた看板が視界に入ってきた。
小柳和菓子店。
あ、〈新商品・桃大福始めました〉って張り紙があるや。この間の桃の大福だな。これは買いでしょ。
ーーーガラガラガラガラッ!
「こんちわー、オバチャンいる?」
「いらっしゃい、なんだ、総司じゃないか」
「なんだはないだろ。お客だよ、お客様」
「はいはい。で?今日はどうしたんだい?
こんな夕方に来るなんて珍しいじゃないか」
確かに。もうすぐ17時、小柳和菓子店は閉店前だ。
「ちょっとオバチャンの大福が食べたくなってさ。新作の桃大福とかまだ残ってる?」
「桃大福は残り1個だね。後は...苺と塩、豆大福ならあるね」
「ん。じゃあ、桃大福は1個。その3つは2個ずつくださいな。あ!そう言えば、カステラって売ってなかったっけ?」
「カステラならあるよ。ハーフサイズかい?それとも一本ごとかい?」
「一本貰うよ。自宅用だからね」
「毎度。...私が言うのもおかしいけど菓子ばっかり食べてちゃ駄目だよ、総司。ちゃんとご飯食べてるのかい?」
「食べてる食べてる。和菓子は少しずつ食べるから心配しないで。
あ、そう言えばさ、オバチャンに聞きたい事があるんだけど」
オバチャンが念話を使えるなら、愛菜姉ちゃんの事を話しても良いと、俺は思ってる。
「なんだい、改まって。聞きたい事があるならさっさと言いな」
「そう?じゃあ聞くけど、オバチャンって元探索者だよね?しかも高rankの」
ピタリ、と手を止めたオバチャンが、ゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。
その顔には、〈なんで知ってるんだ〉と書いてあるかのように、分かり易い反応だった。
「...誰に、いや、時雨さんに聞いたのかい?」
あ、そうか。時雨さんとも知り合いか。
「いいや、違うよ。その質問に答える前に教えて。オバチャンは念話のskillとか使える?」
[ピコン!?総司!?]
「質問ばかりだね。念話なら使えるよ。で?誰に聞いたか教えて欲しいもんだね」
「よしッ!教えてくれた本人に聞いてみなよ。オバチャン、念話使ってみて」
「...今、使っ[ピコン!香澄先輩!!]...た、さ?...そ、その声は、愛菜かい!?」
「ピコン!はい、佐倉 愛菜です!香澄先輩、愛菜です!ずっとずっと、お話したかった!あの時のお礼を伝えたかった、私、わたし...う、うぅ...うわぁぁん、がずみぜんばいに...]
「愛菜!?愛菜!どうして...ごめんよぉ、私があの時もう少し早く着いてたら、間に合ってたら、死なずに...ごめんよ、ごめんよ愛菜ぁ!」
オバチャン...香澄さんは、カウンター越しに俺の手を握り締めながら、泣き崩れた。
初めてみる香澄さんの姿に俺は、ただただ手を離さないようにする事しか出来なかった。
それから、落ち着いてきた2人が、〈あの時〉と〈あれから〉、そして〈今〉をお互いに確認し合うように語り合う。俺が口を挟んだのは、愛菜姉ちゃんと再会した経緯と自分のjobとskillとの関係である〈今〉の部分だけ。
残りは黙って15年振りの再会に耳を傾けていた。
「そうだったのかい...総司、ありがとうね。
私は愛菜の事を本当に可愛いがってたから、あんな別れ方をしたのが悔しくてね...。
それに、まさか総司の言ってた〈お姉ちゃん〉が愛菜だったなんて。世の中は狭いと心から思ったよ」
「感謝はいら...やっぱり受け取っておく。
俺も愛菜姉ちゃんから香澄さんの事聞いた時はビックリしたよ、本当に。
2人の為になったんなら、俺は良かったって心から思う。
それに、愛菜姉ちゃんをさ。
ちゃんと生き返らせたいって本気で考えてるから。時間はかかるかもだけど、諦めないよ、俺は。
だからそれまでは、成る可く顔を出すようにするから、念話でお喋りを楽しんでよ」
「全く...アンタって子は。
本当にありがとう、総司。
私に出来る事なら何でも言いな。現役は離れたけど、まだまだ顔は利くからさ。力になるよ」
「ん。その時は頼らせてもらうよ。
そう言えば、後もう一つ報告があってーーー」
香澄さんに月の事を説明し、リュックから月を出して挨拶させる。コミュ力抜群の月は初対面でも物怖じしなかった。
《はじみてぃやーさい、つきはつきなりすらいむなりー》
睡眠学習ハンパねぇな...。
「こりゃ驚いたね、まさかダンジョンの外で魔物と会えるばかりか、コミュニケーションまで取れるとは...この事がどういう事なのかは分かってるのかい?」
「うん。時雨さんに聞いたよ。その為にrankを上げてから、奈良のD級ダンジョンに行く予定。
だから、明日から近場のF級ダンジョンを2つ踏破する。頑張るよ」
「分かってるなら何も言わないさね。
総司なら、愛菜の事も月坊やの事も何とかするんじゃないかって、私は思ってるよ」
「過度な期待は御免だよ、オバチャン。
でも、任せといて」
香澄さんには、両親の事も、〈
それから少しみんなでお喋りをしてから、閉店時間も過ぎていたのでお暇することにした。
香澄さんに『ちょくちょく顔を出すんだよ』と約束され、月はショーケースに並ぶ大福をじっくりと観察した後に、自信満々な念話を飛ばしてきた。
《にんぽーつきだいふく!》
何時から忍の者になったのかな?
全然忍んでいないし。
ていうか、大福というより水饅頭だね。
[ピコン!月ちゃん上手!可愛いよ!]
「
時代は変わってねぇよ...変わってんのは月だから。
《えへへ〜つきじょーずすぎたかな〜?》
照れるスライムって。
可愛いしかないわ。
「あ!そう言えばオバチャンって、現役の時はどんなjobだったの?」
気になってたんだよね!
絶対ゴリゴリの近接格闘職でしょ?
「job?そりゃ見りゃ分かるだろ。
私は魔法使い、それも上級職の〈魔導師〉さね」
「ウソ...だろ?オバチャンが...後衛職...だと?」
「あぁん?文句があるなら言ってみな?」
「あ!分かった!魔法使いのクセに杖とも呼べないごっつい武器で戦う〈殴り魔導師〉だ!」
「よし、ちょっと裏に来な総司」
俺は月を回収して、逃げるように店を飛び出...せずにバックヤードに拉致されましたとさ。
やっぱり後衛職じゃないって、
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