044 一時の別れ。〜また、会いましょう〜

 真面目な話をした後は、他愛もない話で盛り上がった。

 俺と愛菜姉ちゃんの子供の頃の話。

 月との出会いで貰った〈月の涙石〉の事を話したら、なんと時雨さんも昔、手に入れた事があったという事実。しかも、時雨さんが使う刀の強化に使ったら、妖刀になったとかいうトンデモ話まで聞けた。

 まぁ、〈霊薬エリクシア〉とトレードしました、と伝えたら、


『絶対他言無用です。これは、必ず守りなさい』


 と釘を刺される事に。

 エリクシアの入手方法に問題があった。


『S級ダンジョンのソロ踏破の特別報酬ボーナス。この世の中で、それが可能な探索者が何人いると思いますか?』


 俺には少なくとも目の前で珈琲を淹れる、この人しか知らない。

 1億円どころの騒ぎでは無いらしい。

 収納+αがあって良かったと、心から思った。


 因みにその収納+αのskillも〈アイテムボックス〉という下位互換(時間経過有り)で通してしまえば良いでしょう、と。

 ドロップ品が自動回収される件も、カードがバレ無いから良いのでは?って。

 ただ、周りから見ればドロップ率が超低い、めっちゃ不運な探索者扱い、となるらしい。

 大丈夫、既に失ってるモノがあるから。

 〈変質者skill〉とか、〈変質者title〉とか。


 時雨さんは、だいたい2週間くらいを目処に用事を済ませてから、京都に行くとの事。

 居ない間の〈Iris〉は休業か、連絡が取れれば知人に任せるらしい。

 その知人も元探索者で、〈Iris〉の常連客だとか。俺も休みの日は〈Iris〉で珈琲を飲みたいので、連絡が取れる事を祈る。

 1番美味しいのは時雨さんの淹れた珈琲だとは思うけど。



 愛菜姉ちゃんや月も、もちろん俺も。

 楽しくお喋りすれば、時間が経つのも早くて、気が付けば夕方、16時を少し過ぎていた。


「え?もうこんな時間?」

「おや、そんな時間でしたか」


[ピコン。時間が経つのが早いです〜。もっとお話聞きたかったです]


《...zzZ...zZz...》


 月は、気が付いたら寝てた。自由奔放なスライムだよ。まぁ、まだまだ幼な子だしな。


「時雨さん、そろそろお暇させて頂きます。

 長い時間付き合ってもらって、ありがとうございました。

 俺、時雨さんに話す事が出来て良かったです。

 改めて、これからも宜しくお願いします」

「いえ、私こそ、ありがとうございます。

 先程言った通り、私は鍛え直してきます。

 そして、約束した通り総司君達と〈並行世界〉を攻略出来る準備を整えておきます。

 総司君も身体には気をつけて、ダンジョン探索を頑張って下さい」

「はい!連絡や相談は電話でさせて頂きますが、次に会う時には、成長した姿を見てもらえるように、精進します!」

「ええ。楽しみにしていますよ。

 〈並行世界〉の転移陣入口で会いましょう」


[ピコン!時雨様もお身体には気をつけて下さい。総司の事は、私がちゃんと見ておきますので。鍛錬、頑張って下さい!]


「愛菜さん、ありがとうございます。

 京都に行きますので、陰陽師の件、私の方でも調べておきます。何か分かったら総司君に連絡しますね」


[ピコン。重ね重ね、ありがとうございます。御無理のない範囲内で、宜しくお願いします]


 挨拶を交わし、俺は月をそっとリュックに入れて席を立つ。

 今生の別れでもなく、再会する為の一時の別れに、時雨さんに握手を求める。

 がっしりと握られたその手は、大きくて力強かった。


「では、また」

「ええ、また」


 心の中で、会えるのを楽しみにしています、と付け加え、俺は〈Iris〉を出た。


ーーーカラン♫コロン♪


 時雨さんが移動してからも、覗きに来よう。

 【close】の札がひっくり返っていたら、珈琲を注文しよう。


 全部終わったら、みんなで。家族みんなで、時雨さんの淹れた珈琲を、飲もう。

 小柳和菓子店の大福をお土産にして。

 苦労話を自慢気に語ろう。

 父ちゃんと時雨さんと3人で煙草を吸って。

 母ちゃんと愛菜姉ちゃんが女子トークして。

 月と一緒に大福を食べよう。


 そんな未来を掴み取る為に、ダンジョンに挑むんだ。

 大事なものを、取り返す為に。

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