036 スライムと〈ダンジョンの意志〉。❶
“スライムとは?”
ネットで見つけた論文は、どちらかというとダンジョンに関するモノがメインではあったが、ちゃんと魔物に関するモノも含まれていた。
その中でも、この論文の提唱者は魔物という括りの中からスライムを外し、別枠とする考えを持つ、少し変わった見解の持ち主だったようだ。
“スライムは魔物であって、魔物でない”
どういうこと?と思う反面、そう言われてみれば、と思う。
第一、
もしかしたら、月が特殊...いや、友達契約をするぐらいだから、
それを加味した上でも、学習能力が半端ない。昨日はアナ姉に教えてもらったとはいえ、〈掃除〉という概念を理解してみせたのだ。
新しい事を、スポンジのように吸収していくその生態は、鑑定結果にあったようにたくさんの可能性を持つのだろう。
“スライムは、ダンジョン内において最弱の生物と認識されている。
攻撃力は皆無もしくは限りなく低く、衝撃耐性こそ持つが、斬撃や魔法攻撃はしっかりと通るので、まず負ける事は無い。
その上で、だ。
何故ダンジョンは、スライムを生み出し続けるのか?
初心者向けの魔物だ、と声を上げる者もいるであろうが、スライムと戦って得られる経験とはどれほどだ、という事だ。それなら、ウサピョンやワーカーアントを相手に経験を積むべきだろう。
いつまでもスライムと戦ったところで、得られるモノは、少ない経験値と極小の魔石、水のりの代用品のスライムゼリーくらいだ”
確かに...ていうか、スライムゼリーって水のりの代用品なの?他に使い道無いのかよ。
まぁ、俺にはカードという魅力があったけどな。
“そこで、ダンジョンがスライムを生み出し続ける理由を違う視点から考え直した時、私は1つの仮定を立てるに至った”
“スライムは〈ダンジョンの意志〉の残滓である”
搾りかす、という事か?
ダンジョンの意志...これは、アイツが〈
ただ、その搾りかすというのは、どういう意味だ?
“ダンジョンはダンジョンアタックをする者達、つまり探索者達に対して、試練という名の自己防衛機能を有している。
それは、階層の多さであったり、
それらには、〈侵入者を襲撃及び排除する〉という、ダンジョンの意志が込められており、その通りに行動している。
ただ、ダンジョンは全く誰も来ない状態も回避するように、絶妙なバランスで調整されていると思われる。これを、探索者達は基準として、A、B、Cといった階級をつけている。つまり、難易度の設定、である。
ここについては、別途論文を提出しているので、そちらを確認して頂きたい”
“それでスライムの話に戻るが、先述通り〈ダンジョンの意志〉は様々な目的をバランス調整をしながら行なっている。だが、それらを行使する際、エネルギーを100%意志通りに振り分け出来ていないようなのだ。
何事にも完全などあり得ないのは、ダンジョンとて同じ。良い例がダンジョン内に稀に発生する
では、100%のエネルギーの内、仮に95%を意志通りに行使出来たとして残りの5%のエネルギーはどこに向かうのか?
ここで登場するのが、スライムだ。
〈ダンジョンの意志〉を組み込まれたモノ作りの際に漏れ出した、残った、僅かなエネルギーが、ダンジョンという環境に適応し、〈ダンジョンの意志〉の影響を受けずにカタチを成した結果生まれたモノ。
それがスライムだ。
私が、スライムは魔物であって、魔物でないと仮説を立てた所以である”
おいおいおい!?、コレってかなり重要な事なんじゃないのか?
〈ダンジョンの意志〉を汲まない魔物...。
「ヤバい...ただのネット記事程度の気持ちで読んでたけど、内容が凄すぎて...。
月の状態とは関係無い話なのは分かるんだけど、続きを読んでおいた方が良い気がしてならないわ」
[ピコン。そうだね、総司。でも〈ダンジョンの意志〉かぁ...私が今の
「愛菜姉ちゃんがダンジョンから帰って来なくなった事が?確か、
[ピコン。そう、それは正しいんだけど、その後の15年間、ダンジョンを彷徨っていたというか何と言うか...。
まぁ、取り敢えず今は、月ちゃんが優先ね。
総司が気になるなら、読み進めても良いんじゃない?今のところ私達にはやれる事が無いんだから、少しでも可能性を感じるならさ]
「そうだね...何もしていないと良くない事ばかり考えちゃうしね。
一旦、珈琲でも飲んで、一服してから続きを読むよ」
論文の衝撃的な内容を少しでも噛み砕いて理解出来るように、珈琲を淹れて一息つく。
それから、ベランダに出て煙草に火を点けた。
「月...愛菜姉ちゃん...。
吐き出した紫煙が、薄暗くなり始めた空に昇っていく。
晴れない気分とは対照的に、雲散していく紫煙は風に流されて何処かに消えていった。
“〜ダンジョンと魔物の生態について〜”
“柊木 龍也 20××年 ×月”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます