033 ◉ボクが月になった日。〜ボクだけの英雄《ヒーロー》〜
《そぉじ...たのし...ともだち...Zzzz》
ボクはただのスライムでした。
今は夢を見ているのかな?今のボクにはボクはあんまりいないから、たぶん、夢なんだと思います。
ボクが総司さんと出会ったのは〈ダンジョン〉と呼ばれている所で、ボクみたいなスライムや魔物がいっぱい住んでいる場所です。
ボク達スライムは魔物の中でもすごく弱くて、すぐにニンゲン達や他の魔物にやっつけられてしまいます。
ニンゲン達にも、他の魔物からも「雑魚」と言われてしまう存在です。
ボクはそんなスライムの中でも少しだけカラダが小さく、他のスライムにも馬鹿にされて、いつもイジメられては悲しい気分になっていました。
そんなある日、いつものように他のスライムからイジメられて悲しんでいると、上の方から声が聞こえてきました。
『死ね、屑共が』
それはニンゲンの声で、そのニンゲンはボクをイジメていたスライム達をやっつけてくれました。
『あ〜何だ、その、魔物にこんな事言うのもなんかおかしいんだけどさ、そのうち良い事あるだろうからさ、その、笑って前を向きなよ』
そのニンゲンは、ボクにそう言うとどっかに行ってしまいました。
かっこいい!!
ボクは考えました。
《そのうち良い事》って何だろう?
この間キレイな石ころを見つけた時みたいな事かな?実際には見えて無くて、キラキラしてる感じがしただけなんだけど。
《笑って前を向く》って何だろう?
ボクには目が無いから、どっちが前か分からない。感覚でしか周りを感じる事が出来ないから。それにニンゲンみたいに口が無いから、笑え無い。
...ボクの中に不思議な気持ちが湧いてきた。
さっきのニンゲンはボクの事をイジメから助けてくれた
でも、教えてくれた事がボクには1つも分からない。
あのニンゲンはボクに、何を伝えたかったんだろうって、気になります。
...あっ!1つだけ分かりました!
ボク、あのニンゲンみたいに強くてかっこいいヒーローになりたい!
もう、誰にもイジメられない、強いスライムに!
ボクはあのニンゲンの気配がする方に急いで向かいました。
ーーーあのニンゲンと一緒に居れたら良い事があるのかな?
ーーーあのニンゲンとなら前を向いて笑えるのかな?
ーーーあのニンゲンみたいに、ボクも
ボク達スライムには、他の魔物と少しだけ違う、ある特徴があります。
それは、【進化】する事だけでは無くて【退化】する事も出来る、という点です。
まぁボク達スライムでも態々【退化】なんてしませんが。だって、今以上に弱くなっちゃうから。
だけど1つだけ【退化】すると良い事があります。
それは、他の何者かと契約して共に生きることが可能になるという点です。
...スライムと契約する魔物もニンゲンも殆どいないけど。
ボクは助けてもらったお礼に、あのニンゲンをお手伝いしたい。そして、叶うのならばボクも強くてかっこいい、ヒーローになりたい!
だから、ボクは【退化】してあのニンゲンに契約してもらう事に決めました。
ただ、【退化】する時にボクはカラダの一部を契約カードに変換しなくちゃいけないので、今よりももっと、小さくなってしまいます。
そして何よりも、ボクというスライムが居なくなり、新しい〈ボク〉が生まれると思います。
すごく怖い。
だけど、あのニンゲンの側に、居たい。
だから、退化しよう。
そしてボクというスライムは徐々に居なくなり、新しくバドスライムという退化種が生まれました。そのカラダに【おてつだいけん】という契約カードを持って。
まだ少しだけ、ボクが居る!急げ!
『うわっ!?って...アレ?お前、もしかしてさっきのチビか?』
ーーーそ...うだ...よ。
『ん?コレくれんのか?って【おてつだいけん】!?』
ーーーおて..つだ...い...がん..ばる。
『あ、アナさんありがとう。そっか。じゃあ〈契約〉とか難しく考えないで【友達】になる感じでいっか』
ーーーとも...だ..ち?
『そうだね。じゃあ、【おてつだいけん】使わせてもらうよ』
ーーう、ん。
『俺は総司。これから宜しくな、【月】」
ーーーつ、き。あの...キレイ...石...、よろ...し..総...司...そーじ、よろしく〜。
こうして総司さんと契約して共に生きる為にボクは居なくなり、〈月〉が生まれました。
総司さんは何故〈月〉という名前をくれたのでしょうか?ボクの〈唯一の宝物〉だったあのキレイな石ころを知ってたのかな?あれも助けてもらったお礼に総司さんの役に立ってくれるかな?
それから〈月〉としてボクは、総司さんと共に生きています。何故だか奇跡的に少しだけ、ボクを残して。
ボクだけの
お話も出来ないけど、助けてくれてありがとうございました。
お友達にしてくれてありがとうございます。
ーーーこれからは〈月〉として一緒に《笑って前を向いて》行きましょうね!
《きゃははははー!どけどけー!》
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