027 ◉張り子の虎に、緞帳は下される。
時は少し遡る。
総司がチュートリアルダンジョンで激闘を繰り広げた日、異なる場所で起きていた1人の小悪党による三文芝居のような、噺。
〜C級探索者・蛭間 隆也〜
ーーーピコン。titleニ犯罪歴ガツキマシタ。〈警告〉アナタハ今後イッサイノ探索活動ガ禁止サレマス。
ーービィーーー!!ビィーーー!!
「は!?何で?犯罪歴ってな「ヒルマ・タカヤだな。貴様を連行する!」ッなんだよ!!」
隆也は突然起きた状況が理解出来ずに、近寄ってきたダンジョン専門警察を振り切り、今し方出てきたばかりのC級ダンジョンに引き返すと仲間らしき探索者達を置いて、1人で逃げるように走り出した。
ダン警を振り切った隆也はC級ダンジョンの18階層、全30階層あるこのダンジョンでは〈中層〉と呼ばれるエリアにいた。
「クソッ、何なんだよ!犯罪歴が付いたとかなんとか...あぁ?ンだよコレ...」
【
隆也の探索者証のtitleにはそう記載されていた。鑑定のskillや
「信用...損?クソッ読めねェ...損、損ねた?信用...!パワレベの事か!?」
誤った解釈を指摘する人もおらず、隆也は「何でそんだけで犯罪者扱いなんだよ!」と怒りを露わにする。
ダン警に追われている為、迂闊にダンジョンから出る事も出来ず、頼みの
自身もC級探索者ではあるが、これまで1人でダンジョン探索をした事が無い。この中層まで来れたのも上級探索者達と一緒の際に転移陣に登録していたからこれただけだった。
「これからどうすれば...ッ!?」
ーーーGarurururu!!
そうこうしている内に魔物とエンカウントしてしまう。
【シャドウウルフ】と呼ばれる単体ではD級の魔物で、基本的に複数で襲って来る為群れの場合は脅威度がC級に跳ね上がる、厄介な魔物だ。
眼前には1匹しか見えなかった隆也は、愚かにも槍を構えて戦闘を始めてしまった。
「おらよっ!死ね雑魚が!!」
ーーーヒラリ。
シャドウウルフは攻撃を躱すが反撃をせずに隆也を翻弄していく。その行為はまるで、隆也を疲労させるのが目的であるかの様に。
「当たんねェッ!!ちょこまかと!」
攻撃は一向に当たらず、相手の目論見通りなのか、次第に息が上がる隆也。他のC級以上の探索者ならとっくに異変に気が付いていたであろうが、隆也にはそんな知識も余裕も無かった。
シャドウウルフに攻撃しながら誘導されている事に...。
エンカウントした場所から大分離れ木々が増えた場所に来ると、隠れていたシャドウウルフ達がワラワラと現れる。
〈狩り〉の常套手段だった。
隆也もやっと気付くが、時は既に遅し。10匹以上のシャドウウルフに囲まれた隆也は明確な〈死〉を感じ取るとガタガタと震え出し、その場で尻餅をついてしまった。
「な、何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」
ーーーGarururu!!...ニタァ〜
シャドウウルフ達は獲物が弱ったのを感じ取ると、これから嬲り殺す事を楽しみにじわり、じわり、と隆也との距離を詰め出し始める。
「た、助けてくれ!!こ、こんなの理不尽だ....」
ーーーザシュ
「理不尽、か」
ーーーザシュ
「確かに、そうだな」
ーーースパスパスパスパンッ!
「貴様等の行った事は確かに理不尽だ」
「え.....?だ、誰?助けて...」
隆也はもうダン警に捕まってもいいから助けて欲しい、そんな気持ちで一杯だった。
「助ける?...アーハッハッハ!!助ける訳無かろう、貴様なんぞ」
「......え?」
「大恩ある御方達の忘れ形見に仇なす外道共。貴様等を赦さぬ、そう、我々は赦さぬ」
「...は?な、何言って...ギャァ!!」
ーーーバギリッ、ボキッ、グチャリ
1匹だけ残っていたシャドウウルフが隆也の右腕を噛みちぎって咀嚼している。背後から狙って隆也を襲ったのだ。
「ギャァーーー!う、腕がぁ!?」
「おやおや。
ーーーザシュ
最期の1匹を難無く始末した男は隆也にゆっくりと近づき、地面に転がる隆也と目線を合わせると、
「逃げられるとは思うなよ、蛭間 隆也。例えダン警等に保護されようが、何処に逃げようが、我々は貴様を見つけ出す。
恐怖...シャドウウルフ達とは違う、野生のものでは無い明確な殺意に当てられた隆也は慌てて残った左手でスマホを取り出して電話を掛けた。
「た、助けてくれ!伯父さん!ヤバいんだよ!!こ、殺され〈パキンッ!〉...」
カシャリ。と耳元で音がした。真っ二つにされたスマホの片割れがポトリと地面に落ちる。
隆也に傷は無い。見れば男は背を向け歩き出している。
其れは「貴様などいつでも殺せる」と、生殺与奪は握っているという死刑宣告に隆也は思え、ガタガタと身体中が震える。
ーーーいたぞ!蛭間だ!魔物と交戦した模様!!
ーーーB班は周辺を警戒!蛭間を確保!
隆也は失血により意識が薄れていく中で、ダン警等に取り押さえられる自身を遠くから観ているあの男に気付くと、恐怖のあまり失神してしまうのであった。
ーーープルルル、プルルル、プ〈ピッ〉
「...終わったかい?」
『お疲れ様です。今、ダン警達に連行されて行きました。魔物に襲われて利き腕を肘から先を失いましたので探索者としては死んだも当然かと』
「そうかい。手間を掛けさせたね」
『いえ。東條さんには私もお世話になりましたから』
「そうだね。私達には返し切れないほどの大恩がある。だから、忘れ形見の総司に手を出す奴等は決して赦さないよ」
『えぇ。
「気を付けて帰っといで。待ってるよ」
電話を切った〈小柳和菓子店〉店主、小柳 香澄は小さくふぅ〜っと息を吐く。
隆也のところへ男を送り出したのは香澄だった。
総司から聞いた話を調べ浮上してきた蛭間 隆也。阿婆擦れの浮気相手であり、胎の子の父親だった。
総司の幸せを壊した原因の1人ならば赦す訳にはいかない。
阿婆擦れみたいな一般人では無い、探索者なら探索者としての報いを受けて貰う。
「やり過ぎ?ハハハッ!そんな事ある訳無いだろう。
それを嘲笑うかのように奪い去る奴等はどんな奴だろうが私達が赦さんさ、絶対にね」
ーーーでも、
香澄との電話を終えた男は、出口に向けて歩き出す。
別の者から来た連絡で三者の状況を把握した男は、連行されている隆也を遠目に呟いた。
「世の中は理不尽だらけだと嘆くのは勝手だが、だからといって
ーーーソレを、お前達がやったんだよ。
男は懐から煙草を取り出し火を点けると、吐き捨てるかのように、紫煙を口から流した。
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