026 月の恩返し。《そーじ、ありがとー》

 魔物とお友達になる、という衝撃的な出来事を経験したが、スライムカードのskill【取得経験値増加】のトレードの為スライム狩りに戻る。因みに現在の枚数は128枚なので順調に行けば明日でトレード可能となる予定だ。


《いけ〜!やっちゃえそーじー》


ーーースパン!


 目の前のスライムが斬り裂かれ粒子へと変わる。ドロップ品を拾う必要は無い為、次のスライム獲物を求めダンジョンを進む。


 友達となった月は初めて出会った時よりも実際は小さく感じるくらい、だいたい掌の乗れる程の大きさでしかなかった。

 そして、鑑定結果にもあった様にバドスライムは驚くほどに、

 試しに、体当たり攻撃をくらってみたが、施設の幼児がお菓子のお礼に偶にしてくれる肩たたきと同程度の威力しかなかった、と断言出来るくらいには。

 俺との「これから強くなるもんな〜」《な〜》という会話の後から月の定位置は俺の左肩の上となり、応援係に任命された。


ーーースパ!スパン!


《やったぜ〜》


 今まで黙々とやっていた狩りも、月の応援(?)のお蔭で探索が彩られていくのを感じる。

 これはこれで良い関係だな、とか、友達って良いもんだなぁ、などと思いながら、順調に狩りを進めていった。


「ふぅ...少し休憩にしようか」

《は〜い》


 返事を返した月が総司の肩から飛び降りると、ポヨンポヨンと跳ねながら先に進んで休憩場所を探してくれる。その姿を微笑ましく見ながら後を追う。

 その光景は、休日に公園で遊ぶお父さんと子ども、だとアナさんが笑ってた。


「アナさん、そういえば月ってダンジョンから出て大丈夫なのかな?可愛らしいとは言え魔物なんだけど?」


[ピコン。大丈夫です。〈テイム〉された魔物は基本的にダンジョンから出ると総司の身体の中に収容されます。ダンジョン内でのみ活動出来るとされています]


「へぇ〜そうなんだ。ありがとう、アナさん」


[ピコン。どういたしまして]


 俺の座る前でチョコレートを食べる消化する月を見ながら、そんな会話をしつつ休憩していると、徐に月がポヨポヨと移動し始めた。


「月どうした?あんまり離れちゃ危ないぞ?」

《そーじまっててー》


 そう言って月は湿地帯の少し深みのありそうな水溜まりの中に飛び込んだ。


ーーーぽちゃん。


「待っててって...!?おいおい何処行くんだよ?」


 月が水溜まりに入ってから5分程。

少し不安だったが、約束通り待つ。勿論いつでも駆けつけてる事が出来る様に準備して。


ーーーぴちゃ!ぺちゃん。


《ただいま〜》

「月!大丈夫だったか?怪我してないか?痛いところは無いか!?」


 スッと両手で月を地面から持ち上げて前後左右を確認しながら声を掛ける。先程まで水の中にいたのに月は濡れた形跡が全く無かった。


《だいじょーぶだよ〜。そーじこれ〜》

「そうか、良かった〜...何だろコレ?俺にくれるの?取り敢えず鑑定してみようか」


【月の涙石】・・・物悲しい出来事に月の神が落とした涙が結晶化した物と云われる宝石の一種。ダンジョン産の物は希少価値が高く、高値で取り引きされる。トレード可。

 また珍しい物を...この大きさならオークション出せば、アンタのマンション2室はいけるわね。....トレードも試してみなさいよ、


「え〜っと。うん、ヤバいヤツだわコレ。取り敢えずトレード!」


ーーー月の涙石をトレードしますか?


1. 霊薬エリクシア


2. ¥100,000,000


「ぶーーーっ!!!!?」

《きゃははは!そーじきたねー》

「い、いいいい1億円!!?や、ヤバい!億きた億!」


[ピコン!総司!お金なんかどうでも良いのです。問題は【霊薬エリクシア】です。鑑定してみて下さい!]


「えぇ!?どうでもいいの!?1億円....では鑑定!」


【霊薬エリクシア】・・・万能の霊薬エリクサーの劣化版。あらゆる傷病を癒す効果があるが、不老不死にはならない。錬金術で作成可能だがレシピは現在不明。トレード不可。

 億超えのお金を取るか、この先の探索者人生の為の保険を取るか、さぁどっち!?


「そんなの決まってんじゃん。

 1番の【霊薬エリクシア】とトレード」


[ピコン。月の涙石と霊薬エリクシアをトレードします。.....完了しました。霊薬エリクシアを獲得しました。.....総司、即決でしたね]


「そりゃそうでしょ。俺の大事な人達を救う術を持てるなら迷う訳が無い。俺は

 そうだ!月、もらった物を勝手にお薬と交換しちゃってごめん!」

《いいよ〜そーじ、ゆるすー》

「ははは。ありがと、月」


[(総司....ごめんね。それと、ありがと)]


 エリクシアを震える手で慎重に収納する。なにしろ1億の薬だかんな。はっはっは。


 月を左肩の上定位置に乗せてスライム狩りに戻る。それからは月のトレジャーハントも無く、ひたすらにスライムを狩り続けた。

 結果、2日目の成果は76枚でtotal 159枚となり、戦利品resultの精算額は¥38000だった。何よりも今日の1番は収納に入っている霊薬エリクシアだろう。

 出張所は無人...って不用心じゃね?まぁ、いいんだけど。朝の綺麗なお姉さんは居なかったので、普通に出て行く。


 駅まで歩いて向かう帰り道。

 閑静な住宅街では人とすれ違う事も少ないからか、今日の事を振り返りついつい独り言が出てしまう。


「鶴の恩返しならぬ〈月の恩返し〉だな。本当にありがとう、月」

《きゃはははーそーじ、きにすんな〜》


 から月がポヤポヤとそう言った.....!?


「ちょ!?ちょっと、月!?な、なんでお外に出てるの!?」

《つきはしらーん》


[ピコン。テイムとお友達は違ったようですね、総司]


「キャーーーー!!」

《きゃーーーー》


 また人目を気にしなくちゃならない件が増えたーーー!!?



折谷総司 ♂ age:30

Lv:13

rank:F

job:トレーダー:Lv2

skill:トレード:Lv2、鑑定眼:Lv2、脚力強化、収納+α、念話、変質者※使用不可能

title:×1、変質者、大物殺しgiantkilling、(アナさんのお気に入り)

friends:バドスライム〈月〉


 

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