025 ◉あゝ、今日もあの子の優しさが目に沁みる。

 私の名前は佐倉さくら 愛菜あいなと申します。


 養護施設で育ったので本当の親、家族のことは分かりません。でも、別に調べようという気持ちも湧きませんでした。

 何故かと聞かれたときの答えは、『施設のみんなが私にとって大事な家族だから』、と。


 施設での生活は辛かった事も沢山ありましたが、それ以上に楽しかった思い出が多かったです。

 賑やかだったから、という理由もありますが一番の理由は手のかかるが居たからです。

あ、もちろん実弟ではありませんよ?

施設の家族の一員で私が言うのも何ですが、弟は私にべったりだったものですから、施設長お母さんから『愛菜の弟みたいね』と言われてから、私はあの子を本当の弟のように世話をやきました。

 綺麗な泥団子を作ったら私にプレゼントしてくれたり、2人で食べたり。大きなバッタを捕まえて来て........アレ?あの後どうしましたっけ?

 ただ、あの日以来、弟は私に虫を見せる事は無かったですね。

 弟が周りの男の子達にイジメられていた時に助けに入ったりしたのも今となっては良い思い出です。


 そんな施設での楽しい時間も終わりが来るのです。施設での生活は18歳になる年まで。つまり高校を卒業と同時に出て行かなければなりません。

 私と弟は8つ、歳が離れていたので弟はまだ10歳。私の施設からの〈卒業〉を頭では何となく理解出来ても感情では理解したくなかった様でギャンギャン泣かれてしまい、私も声を上げて泣いてしまいました。あの時が一番悲しかったと思います。


 それから施設を出た私は、高校で出来た友人達と探索者になりました。先への進学は経済的に諦めていたのもありましたし、気心知れている友人達となら探索者としても頑張っていけそうな気がしたんです。

 探索者登録した私のjobは【陰陽師】で護符を使い、式神を使役して戦うスタイルです。

 それから友人達とチームを組んだ私達は、順調に結果を積み重ねていきます。そして5年経った頃には注目のC級探索者となっていました。


 

 .......そして私はしまいました。享年23歳と、とても早い人生の幕引きとなりました。



 私達のチームは少し調子に乗っていたのかも知れませんね。

 結果が伴っていた為に自分達の実力を読み間違えたのでしょう。

 その日もC級ダンジョンを探索しており、1匹の魔物とエンカウントしました。ソイツは骸骨で頭から角が生えており、侍の様な着流しと刀を所持しており、のです。


『血ヲ、肉ヲ、魂ヲ寄越セ...』


 私達は一斉に逃げ出しましたが、ソイツは恐ろしく速く回り込んできて逃げ切れませんでした。言葉を話す魔物は〈イレギュラー〉と呼ばれ、強さが格段に違います。私達では敵う訳が無かったのです。

 そこで私は囮になる為に前へ出ます。仲間達に救援を伝えて貰う事を理由に説得し、仲間を逃す為に式神を呼び出して牽制しました。

 何とか仲間達が走り去っていく時には、私はもう駄目だと頭の中で理解していました。1体、また1体と式神達が倒されてしまい、そう時間も掛からない内に最後に私が残る。

 勿論タダで死んでやる訳にはいかないと、護符を使い切る勢いで応戦します....敵いませんでしたが。

 ソイツの持つ刀で袈裟懸けに斬り捨てられるとそのまま後ろに倒れました。特殊な刀だったのでしょう、私の身体から何かが抜けていくのが分かります。

「あぁ、死ぬんだ」「最期に弟に会いたかった」と考えながら意識が薄れていきました。遠くで『愛菜!しっかりしな!』というの声が聞こえてきます。「香澄先輩が来てくれたのならもう大丈夫だ」と私の意識はそこで途切れました。



 ......どれくらいの時間が経ったのでしょう?


 私が気が付いた時には、其処は只のダンジョンで、先程の魔物もみんなも居ませんでした。それに何よりも私は《幽霊》になっていたのです。いえ、幽霊は苦手なので《精神体》にしましょう。

 それから私は自分の置かれた状況を少しずつ理解していきます。あの時あの刀で斬られた私は、魂を抜かれていたんだと思います。『魂寄越セ』って言ってましたし。そして、その抜かれている最中に香澄先輩があの魔物を倒しました。

 ですが、大半が肉体から離れた私の魂は戻る事も出来ずに私の肉体は生命活動を停止し、魂だけがダンジョンに彷徨う状態になったと。


 おそらく私は《ダンジョンの意志》の一部と融合してしまったのでしょう。ダンジョンから出れませんし、探索者にも気付かれません。

 それから私はダンジョンを彷徨いました。どれくらいの年月が経ったのでしょう?最初の頃見かけた香澄先輩も見なくなり、仲間達も次第に見かける事が少なくなっていきます。私はこれからどうなるのでしょうか?誰か教えて下さい...。



 .....それから、更に長い時間が経ちました。

 今日はチュートリアルダンジョンと呼ばれているF級ダンジョンにいます。若い子達を見ていると弟の事を思い出して優しい気持ちになれるからです。もうだいぶ大人になって、私より年上になってるでしょうが...。


 

 そして私は、な出会いをします。


『ウサピョン出てこいやーー!!』


 あ、アレ私の弟だ。

 

 直感で理解しました。

 すると不思議な事に私の魂は弟に吸い込まれていきました。


『フッ。またつまらぬモノを斬っ[ピコン!所持しているカードの有効期限が近づいています]...はぁ!?』


 意識の中でお話し出来るみたいです。


『うにゃーーーーーー!!!!今、自分でバラしたろがー!突然、頭の中に話しかけてくる〈アナウンスさん〉略して〈ウンさん〉!』


[ピコン!......(相変わらず女心が分かってない)]


「あ、スイマセンでした!え〜っと〈さん〉?」

 

[ピコン!....まぁ良いでしょう。許可します(アイナからアナ...ギリ合格です)]


(アナさんって人間味あり過ぎじゃね?探索者みんなにこんなフレンドリーなのかな?)


[(基本アナウンスなんてありませんよ、総司)]


 ふふふ。楽しいです。

 あ、鑑定さんは私ではありませんよ?はもっと前から総司の事を見守っていましたから。

 それからは沢山、弟の総司とお話しています。総司を通して香澄先輩とも再会しました。ビックリしたのはあれから15年も経ってたんですね。そういえば、総司も少しおじさんになってますもんね。あれ?弟より年下の姉?...まぁ、頼りないのは変わらないので弟枠で良いでしょう。


 少し危なっかしい私の大事な弟を見守る機会を下さった神様....ダンジョン様、でしょうか?

 どちら様でも良いですが、本当にありがとうございます♪私、は頑張ります!



[ピコン。総司、不潔ですよ。まったくもう...今日はお疲れ様。...ゆっくりおやすみ]





[(私の可愛い弟、総司)]

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