023 スライム(カード)を求めて。 〜〈第888F〉ダンジョン〜

 雨も止み、養護施設の帰りに寄ったスーパーで食材とチョコレートなどの保存の効くお菓子やペットボトル飲料などを買い、自宅マンションに帰った。

 帰り着いた時には辺りも暗くなってきており、時計を見たら19時過ぎ。

 晩御飯を食べて風呂に入っり、明日から挑戦するF級ダンジョンの事をネットで色々と調べてから眠りに就いた。


ーーピピピピピッ、ピピピピピッ。


「んぁ?ふぁ〜...朝か....」


 アラーム音で起き、朝の支度を整え、食パンをトースターで焼いている内に珈琲を淹れる。

 基本的に朝飯は食べるが、余り量は摂らない。普段からこんな感じがルーティン。


「いただきます」


 トーストを齧りながらTVをつけて朝のニュースを観る。


ーーー昨夜午後11時頃、埼玉県.....

ーーー内閣府はダンジョン新法を国会で....

ーーー先日ダンジョン警察に捕まった少年Hは...

ーーー今日の天気です。東から来る....


「ご馳走様でした」


 ニュースを聞き流しながら朝食を食べ終えて、手早く片付ける。

 ダンジョンに向かう為に装備を整え荷物を順々に〈収納〉していく。


「やっぱ便利だわ、このskill」


 昨日買ったペットボトル飲料を冷蔵庫から取り出して収納する。鑑定では収納内の時間経過の有無が確認出来なかったので、冷たい物が温くなるかどうかで確かめてみようと考えていた。


「上手くいったら...」


 正直言って便利では済まないと思う。

 今後の生活が驚く程快適になる。もちろんダンジョンアタックも。


 


 必要な物を収納し、準備が整ったので駅に向かい電車に乗った。そう、時雨さんに教えてもらった〈沢山〉スライムが出るダンジョンが今日からの探索ダンジョンだ。

 正式名称〈第888F〉ダンジョン。通称スライムダンジョンⅡ、略してスラⅡダンジョン。(因みに京都の〈のみ〉の方が〈Ⅰ〉らしい)Ⅱってカッコイイ!と思ったのは俺だけでは無いだろう?マークⅡとかさ。

 電車で5分で着いた隣町の駅から徒歩で5、6分で目的地に着いた。場所は閑静な住宅街にある雑木林の一角で、ダンジョン協会の出張所がこじんまりと佇んでいる。どうやらスラⅡダンジョンは余り人気が無いみたいで、俺的には有り難い状況だ。


「結構早く着いたな。家から約30分圏内は助かるわ」


 「じゃあ行きますか」と独り言を呟きながら出張所に入ると、外観通りの広さに、受付機が2台。人気の無さを物語っているように見えた。

 カウンターの奥にはが1人だけ居て、声を掛けられる。


「まぁ。珍しい。こんなスライムばかり出るダンジョンに来る殿方がいらっしゃるとは」

「あ!おはよう御座います。いやぁ、お恥ずかしながらこの歳で探索者始めたんで人が少なめで難易度も低いダンジョンところで経験を積みたいと考えまして」

「それは、良い心掛けですね。ダンジョン探索は危機管理が第一ですから」


 そう微笑む女性の笑顔に、不意にもドキっとしてしまう。

 恥ずかしさを誤魔化すようにダンジョンへと急ぐ。


「は、はい!では行って来ます」

「ええ、お気をつけて。良い探索を」


 奥の扉を開けてダンジョンに入る転移陣へ行くと、光に包まれて転移した。


「うわぁ...情報通りとはいえ、厄介な地形だなぁ」


 目の前に広がる、見渡す限りの湿地帯。泥濘んだ足下にスタート地点から、辟易する。


「ちゃんと情報通り防水のブーツ履いて来て良かったわ...」


 やっぱり、下調べは大切よな。アナさんじゃないけど色んな事を自分で取り組む姿勢は忘れ無いようにしよ。

 さて、と周りに探索者の姿は無い事を確認してから歩き出す。取り敢えず浅めな所をチョイスしながら進んで行くと、早速魔物とエンカウントした。


ーーーポヨヨン。


「お?来たな!幸先良いなっと!」


ーーースパン!


 Lvが上がったお蔭か、普通のスライムなら難無く倒せる。身体能力も向上しており思ったよりも綺麗に決まった。


「うん。Lvアップの恩恵を感じるし、ドロップ品もちゃんと収納出来てる。次からは鑑定も使いながら熟練度上げていこう!」


 スライムゼリー、魔石、スライムカードが収納されている事を確認した総司は、それぞれを鑑定してみる。如何やら取り出さなくても収納内で鑑定出来るようだ。


【スライムゼリー(瓶入り)】・・・スライムのドロップ品。様々な用途に使用可能な万能素材。食用不可。トレード不可。

 瓶入りのナゾは未だ解明されていない...ダンジョンの七以上不思議の1つなのだ!ジャーン!


【魔石】・・・スライムの魔石(極小)。ダンジョンの魔物の心臓とも言われている。様々な物のエネルギー源となっている。現在の変換効率は39.3%。食用不可。トレード不可。

 ....食べたらダメよ?ゼッタイよ?(チラッ)


【スライムカード】・・・知らない人はいないとまで言われている魔物の定番・スライムが描かれたカード。特に効果無し。トレード可。有効期限72時間。

 良かったね?有効期限が見えたよ!


鑑定お前も良かったな。沢山ボケれて。....鑑定内容が増えるって凄い大事な事なんだな、実感するわ。

 ゼリーの瓶入りの件は最早不思議がいっぱいで誰も気にしていないって事だろ?それより万能素材な件の方が気になるわ。

 確かにカードの有効期限は助かる。俺にとっては死活問題だし。

 魔石は....元会社アイツ等何やってんだ?変換効率下がってんじゃん。まぁ俺にはもう関係無い事だからいいんだけど。

 あと、食う訳ねぇだろ。(チラッ)って表記するな。俺は芸人さんじゃねぇ」



 気持ちを切り替えて探索を再開する。流石にスラⅡダンジョンと呼ばれるだけあって、その後立て続けにスライムにエンカウントしていく。


【スライム】・・・知らない人はいないとまで言われている魔物。見た目は可愛いフォルムをしているが、その生態は何でも融解してしまう特性を持つ為、取り込まれると危険。衝撃耐性持ち。又、進化すると各種属性を持つ。

 見た目に騙された新人が取り込まれ溶かされ....キャーー!!ジャジャーン!


「グロいわ!確かに俺も見た目に騙されてたな。囲まれる程現れたらマジで気をつけよう。後、進化したヤツは...要鑑定だな」


 それからも、スライムとの戦闘を繰り返す。少し歩けば直ぐにエンカウントするので効率が良い。今のところ最大で3匹なので安全に狩りが出来ているし、進化種とはエンカウント無し。


「ふぅ。そろそろ休憩にするか」


 近場で座れそうな場所を探して腰を下ろすと、今現在の戦果を確認。


「え〜と、ゼリーが20個と魔石が20個、カードも20枚。全部ドロップ率100%だなぁ。今日はキツイかもだけど、明後日にはskillトレード狙えるかな?」


 今回のスライム狩りはskillトレード出来るまでを期限とし、それまでは連日探索する予定だ。勿論、有効期限の為。

 収納からペットボトル飲料とカロリーバーを出してササッと食べる。温度は分かり辛いが、少しずつ経過している様な気がした。食べながらもちゃんと鑑定を使い熟練度上げを怠らない。


【水草】・・・ダンジョンの湿地帯に生えている水草。刈ってもすぐに生える。食用不可。トレード不可。

【水草】・・・ダンジョンの湿地帯に生えている水草。刈ってもすぐに生える。食用不可。トレード不可。

【アクアプランター】・・・ダンジョンの湿地帯に生えている水草に魔物。不意をついて攻撃してくる。水耐性持ち。水魔法を使用する。自分より弱い生物を引き摺り込み捕食する。

 .....ダンジョンは危険がいっぱいよ!気を抜かないでね♪


「うぉ!?魔物?」


 鑑定結果に驚き、慌てて構える。アクアプランターは如何やら移動出来ないタイプだな。一旦深呼吸をして冷静になると、足下に転がる石を拾って思い切り投げつけた。


ーーーゴッ!Buoooom!!


「さぁ、行くぞ!草野郎!」


ーーースパッ!

ーーーシュルルルルッ!

ーーースパン!!


 Lvアップの恩恵かスムーズに相手の攻撃を避けつつ斬りかかり、最後は胴体を真っ二つに切り裂いた。アクアプランターは粒子となり消えていく。


「上手く対処出来たな。やっぱりLvアップは必須だわコリャ。ドロップは...」


 ドロップ品は魔石と【アクアプランターカード】。先程の所まで戻ってカードを鑑定すると、


【アクアプランターカード】・・・湿地帯の水草に擬態して獲物を捕食するアクアプランターが描かれたカード。特に効果無し。トレード可。有効期限50時間。


「そのまま、トレード!」


ーーーアクアプランターカードをトレードしますか?


1. skill【水中呼吸:Lv1】1/100


2. ¥120


「からの、鑑定」


skill【水中呼吸:Lv1】・・・水中で呼吸が可能になるskill。自然に習得する事は不可能。Lv1では呼吸持続時間は5分間、クールタイム10分。

 これで貴方も半魚人!?


「また人には見せ辛いモノが出た...。取り敢えずスライム優先なんで、2番のお金で。それとせめて人魚にしろ」


[ピコン。アクアプランターカードと現金120円をトレードしました。...総司、良い心掛けです]


「アナさんあざっす。頑張りますんで見てて下さいね〜!」


 狩りを再開した俺はスライムを狩って狩って狩りまくる。最大5匹とエンカウントした時は少し緊張したが、落ち着いて対処出来た。


 あれからアクアプランターを見つけれていない。スラⅡダンジョンでカード集めは難しいかもなぁ。水中呼吸...少し興味あったのに。シーウォークとかさ。


 それからも休憩を挟みつつ狩りを続け、18時になると本日の狩りを終了し、ダンジョンを出た。

 

 出張所には相変わらず探索者はおらず、奥の席で朝の女性が事務仕事をしていた。

 受付機で本日の戦利品resultを精算する。


ーーーピコン。total ¥51280 精算シテヨロシイデスカ?


「おぉ!初の5万円超え!精算っと。だけどやっぱりスライムばかりじゃLvは上がらないな。」


 本日、合計でスライムを83匹狩った。スライム1匹のドロップ品の精算額がだいたい500円なのだが、実は先日のボスドロップである〈怨みのウサピョンの肉〉も併せて精算したのだ。食べれない肉の割に高値がついたみたいで5万円を超える事となった。

 精算を済ませ、今日の成果に満足してルンルン気分で帰ることにした。



 再び、静寂が訪れた〈第888F〉ダンジョン、通称スラⅡダンジョン出張所。


 業務報告書を打ち込み終えた女性事務員は、先程、探索者が出て行った入口を見て呟く。



「........お疲れ様でした。御無事で何よりです」



折谷総司 ♂ age:30

Lv:13

rank:F

job:トレーダー:Lv2

skill:トレード:Lv2、鑑定眼:Lv2、脚力強化、収納+α、変質者※使用不可能

title:×1、変質者、大物殺しgiantkilling、(アナさんのお気に入り)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る