021 仲良く、半分こ。

「ウマっ!何コレ!?」

「どうだ、美味いだろ?」

「うん!マジで美味い!

 これって桃だよね、周りの白餡も上品だし、全体的に味もまとまってて、完成度凄い!大福の桃源郷や!」

「良い食レポが出来るようになったじゃないか。総司の成長に涙が出そうだよ」


 オヨヨ、と泣き真似をする香澄さん。

 新作大福は桃を贅沢に使った上品な仕上がりの桃大福(仮)だった。味もさながら、見た目も可愛らしい薄ピンク色で華やかさもある。

 そんな美味しい新作大福に舌鼓を打ちながら、用意したお茶をズズズッと飲む。

 香澄さんはこんな風な性格だが、和菓子を作る腕が頗る良い。それこそ、先代の辰爾師匠を超えてるんじゃないかな?なんて思えるほど。

 後を継ぐ前は、本人曰く肉体労働をしていたらしいが、和菓子屋に転職して正解だったと俺は思っている。


「はぁ〜、大満足。すっごく美味しかったよ、オバチャン」

「そうかい。そこまで言ってくれるなら、来週くらいから店に並べようかね?」

「絶対売れる!ていうか、俺も買いたい!

 そうだ、この新作大福って、今日は買えないかな?」

「今日かい?一応試作で後幾つかあるにはあるけど...この間の喫茶店のマスターに持ってくのかい?」

「ん?時雨さんトコに?いや違うよ、別の所。

 後、いつものヤツも良い?」

「詰め合わせかい?相変わらず律儀だねぇ。離れてだいぶ経ったろうに」

「ンな事は関係無いんだよ。お世話になった恩返しに期限とか期間なんて無いさ。それに、子ども達が幸せそうに食べるのを見てるとさ、俺も幸せになれるんだよ、オバチャン」

「...そうかい。なら、美味しい物をたんと詰めてあげないとね。任せときな」

「ん、ありがとう」



ーーーガラガラガラガラガラ!


「今日は誘ってくれてありがと、オバチャン。

 後、服まで洗ってもらって。助かったよ」

「いいんだよ。服はまた取りにおいで。今着ている服は総司がもらっておきな。どうせ旦那は着れないんだしね」

「分かった。武史さんにも宜しく伝えておいて。また来るよ。じゃあ」

「待ってるよ。ちゃんと身体には気をつけるんだよ」


ーーーバサッ!


 少しまだ雨粒の付いた傘を先に外に出し、勢いよく開いてから外に出る。玄関先で手を振る香澄さんに手を振り返してから、目的地へと向かう。


 向かう先は、俺が育った養護施設。

 物心ついた頃にはその施設が俺の家だった。

 一緒に暮らす子ども達が、兄であり、姉で、弟、妹だった。

 お手伝いをしたら頭を撫でて褒め、ヤンチャをしたら怖いくらいの笑顔で正座説教と罰でトイレ掃除を命じる施設長お母さんがいて。

 決して贅沢な暮らしではなかったけど、賑やかで温かい、俺の家だと、今でも自信を持って言える場所。


 少し古くなったように見えるが、変わらない外観。月に一度は来ているはずなのに、そんな哀愁めいた感情を持ち合わせてしまうのは、があったからだと、とっくに分かってはいるんだが。


ーーーピーン♪ポーン♫


『はい、どちら様?』と聞き慣れた声がした。


「こんにちは、総司です」


 そう言うと、『直ぐに開けさせるわ』と、返事を頂いたので少し待っていると、傘を差した1人の女の子が、門を開けに来てくれた。歳の頃は中学生くらいだろうか、落ち着いた雰囲気の真面目そうな子だった。


「お任せしました、おか...施設長が中でお待ちです」

「ありがとうございます。お邪魔します」


 お母さん、か。ついつい言っちゃうんだよね。凄く分かるよ、その気持ち。


「こんにちは、総司。元気そうですね」

「はい、母さん。これ、いつもの和菓子です。みんなで召し上がって下さい」

「あら。いつもありがとうね。仲良く食べさせると約束しますね」

「お願いします。あと、あそこに寄ってからお暇します」

「そう...あの子も喜ぶわ。総司も身体には気をつけるのよ。親不孝は許さないですからね」

「はい。母さんを悲しませる事はしませんよ。

 それでは、失礼します」


 母さんに挨拶をしてから、施設の裏手にある花壇の奥に建てられた小さなお墓の前に俺は立っていた。

 幼くして他界した子ども達が眠るこの場所は、普段から子ども達は立ち入り禁止となっていて、掃除等は必ず施設長母さんが行っていた筈。

 今も目の前には綺麗な状態のお墓があり、雨に濡れないようにか、周りには簡易的な屋根が作られていた。おそらく、卒業後の誰かが建て付けたのだろうと思った。


 傘を閉じて傍に立て掛けると、周りに誰もいない事を確認した後、収納+αから新作大福を取り出して、墓前へとお供えした。

 ちゃんとしたプラスチックの容器に1個だけ入れられた大福は、ほんのりとピンク色で女の子が喜びそうな色だった。


 御線香を上げ手を合わせてた俺は、先程供えた大福を手に持ち蓋を開ける。

 備え付けの黒文字でザクッと半分こにして、片方を自分の口に、放り込む。

 口をもぐもぐと動かして咀嚼しながら、再び蓋を閉めた半分この大福を、改めてお供えする。


「仲良く半分こ、だよ。姉ちゃん」


 それから、暫く近況報告をした。

 離婚した事、会社を辞めた事、美味しい喫茶店を見つけた事、そして、探索者になった事。

 ダンジョンをあれだけ俺が、探索者だってさ、なんて軽く自嘲してみて。

 報告は以上かな?そう思って、もう一度手を合わせてから帰る事にした。

 

「やっぱり、仲良く分けっこして食べると、1人で食べるよりも、うんと美味しいな、姉ちゃん」


 また来るよ、と言いその場をあとにする。


 気が付けば、雨は殆ど止んでいた。傘はいらないな、と呟いて、空を見上げた。

 雲の切れ間から見えるお日様が、そんな俺の行いの一部始終を覗き見していたのかな、なんて思うと、急に少し恥ずかしくなってしまう。

 そそくさとその場を離れる俺の耳には、懐かしい思い出が聴こえたような気がした。




ーー-総司、美味しいね!


ーー-うん!○○姉ちゃん!!



 バシャバシャと、キラキラと光を反射する水溜りを態と踏み抜きながら、俺は前を向いて、歩いて行く。






[(ありがとう、総司)]

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