019 激闘の報酬は。得るモノ、失うモノ。(⚠︎長文注意!)

「疲れた...もう、動けん」


 マンションの自室になんとか帰り着くと、よたよたと防具類を外し、そのまま倒れ込むようにリビングのカーペットの上に寝転ぶ。


 極度の疲労が、意識をゆっくりと奪っていく。


 こんな状態をオバチャン香澄さんが見たら、『総司!風呂くらいちゃんと入りなさい!』とドヤされていたかな、なんてしょうもない事を考えている内に、意識がも...。


[ピコン。総司、不潔ですよ。まったくもう...今日はお疲れ様。...ゆっくりおやすみ]


 どこか、優しい、温かい気持ちに包まれたような、夢見心地で。


 


ーージャージャン...ジャージャン...ジャージャン!ジャージャン!「キャーーーーッ!!」


「ッ!!?、朝から心臓に悪いわ!?何だよこのアラーム音!?....違った、オバチャンからの着信だわ」


ーーピッ


「お客様のお掛けになった番号は現ざ」

『コロスよ?』

「Good morning!Mrs.香澄!」

『おはよう、総司...もう昼前だけどね』

「....マジか。昨日のヤツの所為だな」

『昨日?何かあったのかい?』

「んぁ?あぁ、ただの探索活動の疲れだよ。それよりも電話なんて珍しいじゃん、どうしたの?」

『新作の大福を作ったからお茶でもどうかと思ってね。喜びな、レディからのお誘いだよ』

「(レディ...レディの定義って?歳をか)」

『そんなに死にたいのかい?』


 え!?なんで?


『総司、何か言いたい事でもあるのかい?』

「い、いや、無いよ?うん、良い天気だなぁ?あははは」

『....私には雨が降ってるようにしか見えないがね』

「あ。マジかよ雨降ってんじゃん...オバチャン、ちょっと今からやる事あるから15時過ぎでも良い?」

『いいさね。じゃあ待ってるよ』


ーーピッ


 電話を切り、取り敢えず風呂に入る。

 昨日の激闘の跡が身体中に残っており流した血が固まって黒ずんでいて、大変な事になっている...うわぁ、寝てたカーペットにも跡が。

 TVドラマの殺人現場みたいになってら。


「ハァ...こりゃカーペットも処分だな〜しゃーない、今度買いに行くしかないな」


 シャワーを浴び終えてから、簡単に朝飯(?)を食べると、昨日脱ぎ捨てた防具を確認する。


「随分とまたやられたなぁ。まだ使えると思うけど買い替えも考えとかないとな...あぁ出費が...生きて帰ってこれただけ良かったんだ、うん」


 お金も大事だけど、この防具のおかげで生き延びたと感謝しよ。ありがとう!防具君!

 武器のククリナイフは特に刃毀れも無かったのでホッとし、昨日出来なかった例の戦利品resultを再度鑑定する。


【収納ブレスレット〈限定品〉】・・・魔物を倒した際に得られるドロップ品を瞬時に収納する魔法道具。収納数は99種類、1種類につき99個まで。

 ※注意 一度取り出した収納物を再び収納する事は出来ない。ドロップ品以外収納出来ない。

 トレード可。


 これで貴方の探索者ライフも鞄要らずに!?見た目は黒銀色のオシャレな腕輪。嵌めたら異性にモテるかも!?きっと売れば高値間違い無し!さぁどうする?


鑑定眼お前は今日も絶好調だなぁ。でもLvが上がって説明の内容は増えたな。

 モテるかも!?って鑑定眼お前が言ってる時点で罠だろ。これは売らずに使う一択だな。カード集めに最適じゃ....え?あれ、腕輪コレトレード出来るの?」


 よし、確認しよ。


ーーー収納ブレスレット〈限定品〉をトレードしますか?


1.skill【収納〈限定〉】1/1 ※注意 未使用品に限る


2.¥1,500,000


「高っ!?...150万は確かに魅力的だけどskillも良いな、気になるのは〈限定〉の文字だな、鑑定!」


skill【収納〈限定〉】・・・魔物を倒した際に得られるドロップ品を瞬時に収納するスキル。収納数は50種類、1種類の個数制限は無し。

 ドロップ品以外も収納可能。出し入れに制限は無い。


 スキルトレードに気付いちゃったか〜。こっちの〈限定〉は普通の【収納】skillに+α機能があるって意味の〈限定〉ね。特別ってやつ♪


「種類は減ったけど完全に上位互換じゃん!鑑定も褒めてくれた?....危ねぇ、興味本位で嵌めてたらかなり凹むとこだった....アナさんの言う通り、鑑定を癖付けるのは大事だな、うん」


「1番のskill【収納〈限定〉】とトレードで」


[ピコン!収納ブレスレット〈限定品〉とskill【収納〈限定〉】をトレードします...skill【収納〈限定〉】を獲得しました。

 ピコン!申請によりskill名が【収納〈限定〉】から【収納+α】に変更しました。

 総司、その調子です。スキル名は分かりやすいように変更しました」


「おぉ、確かに分かりやすい。これでカード集めも捗るわ。

 さてと、次は問題のステータスを鑑定!」


折谷総司 ♂ age:30

Lv:7→13new!

rank:F

job:トレーダー:Lv2

skill:トレード:Lv2、鑑定眼:Lv1→2new!、脚力強化、収納+αnew!、変質者new!※現在使用不可。

title:×1、変質者、大物殺しgiantkilling、(アナさんのお気に入り)


「うわぁ...やっぱりLvが一気に上がったな。6も上がるってことは相当強敵だったんだよな...。

 どうやって倒したんだろ?...覚えて無いことを考えてもしょうがない、取り敢えず鑑定、鑑定。

 先ずは大物殺しgiantkillingを鑑定!」


title 大物殺しgiantkilling・・・自身のLvの3倍以上のLvの敵を単独撃破した者に与えられる称号。威圧行為に対する耐性強化。ダンジョンボスに対してクリティカル率向上。


 ....アンタさぁ、命は大事にしなさいよ?


「...はい。ていうか好きであんな状況に飛び込んだ訳じゃ無いんだけど。

 威圧耐性ね、確かにあの雄叫びはヤバかった。全く動け無いなんて怖すぎるから有難いな。ボス限定だけどクリティカル率上がるのも有用だな」


 さてと、次は問題の【変質者】かぁ。

 取り敢えず、鑑定してみるか...。


skill 【変質者】・・・changerチェンジャー。job 【トレーダー】固有skill。肉体的損耗率が限界値を超えると極稀に獲得する事がある。skill使用者のへと自身を変質させる事が出来る。制限時間は5分間。クールタイムは24時間。

 ※現在はjob Lvが足りない為使用不可。


 ...だから、命を大事にしなさいって。

 でも...ぷぷぷっネーミングやば過ぎwww


「やかましいわ!!鑑定眼お前に言われんでも俺だって思ったわ!ていうか、字面【changerチェンジャー】で良くない!?なんで変質者なの!?名称チェンジで!申請通って、お願い!」


[ピコン。....申請は棄却されました。名称は【変質者】で固定されます...ぷぷぷっ]


「イヤァア!固定されちゃった!?アナさん、ちゃんと申請してくれた!?今、笑ったでしょー!」


[ピコン。総司、気のせいです...ドンマイ]


 ドンマイって。

 いよいよ社会的に...早目の隠蔽方法を考えなきゃマジでヤバいじゃん。

 でもこのskillのお蔭でボスとの激闘に勝てたって事だよな。

 〈意識内での絶対的強者〉かぁ。時雨さん?...絶対強そうだけど、戦ってるのを見た事無いしな。

 まさかオバチャン!?...な訳無いか。強そうだけど。


 ...ん?、か。

 ふ〜ん、なるほどねそういう事か。

 トレーダー固有スキル、か。




 残りの戦利品resultの【怨みのウサピョンの肉(一応食用可。食べると呪われる)】と【第1085Fダンジョン攻略証明書】はどちらもトレード不可。食えない上にトレードも出来ない肉塊なんてどうしよう?熟成させたら呪い、抜けないかな?


[ピコン。阿呆な事を考えないで、さっさと売り払いなさい]


 とのことなので、売ります。


 そういえば、title欄にも【変質者】がついてたな。skillを取得したからtitleも獲得したのかな?

 あの時はフラフラだったからちゃんと覚えてねぇや。



title 変質者・・・社会的倫理観モラルの欠如又は極めて低い行動をする者に与えられる称号。周囲からの様々な視線に対する耐性上昇。親が『見ちゃいけません』と子どもの目を隠す場面との遭遇率上昇。


 キャー変質者よー(笑)

 これはスキルとは別モノよ。アンタの日頃の行いの賜物ね♪ヤッタね!



「スキルと違うのかよ!?字面同じだろ!!

 え!?ヤバいよ、ヤバいって!

 イヤァァア!?人として大事なモノがぁ!!」



 そんな事をしていたら、時刻は14時28分。約束の時間が迫っている。

 昨日、マンションに辿り着いた時よりもヨロヨロとしながら出掛ける準備をして、玄関のドアに鍵をかけてエレベーターに乗り込んだ。


「もしかして、ウサピョン狩りが原因かな?でもアナさんの正座説教も良く考えたら...」


ーーピンポン正解


 エレベーターの到着音が『良く分かりました』と告げて、扉が開く。

 エントランスの先には、しくしくと泣いているかのような雨が降り続いていた。


 エントランスを抜けて、バサッと傘を開く。

 透明なビニール傘越しに空を見上げると、より泣いているように見えたその光景に、愚痴っぽい言葉が溢れる。


「泣きたいのは俺の方だって...」


 雨のせいか、傘からはみ出して濡れてしまわないように、肩身を狭くしながら、足を踏み出す。





 

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