回る回る、そして、動き始める。
018 ◉愚かなる者達は舞台へ...スポットライトを求めて。
総司と
沙織は政略結婚を回避する為。その後は、若くて有望な探索者が欲しくて。
C級探索者の男は美人を自分のモノにしたいという若者特有の欲望から。
元上司は役員との繋がりを得て出世したいという野望から。
沙織の結婚相手が総司だった理由は、顔見知りだった元上司の男が、〈いいように対処できる存在〉として総司を候補者として挙げたからである。
沙織がC級探索者の男に出会ったのも元上司によるもので、パッとしない部下をワザと紹介して政略結婚を回避させて安心させれば人間は欲が出ると思い、若く、探索者として有望な甥と出会わせた。甥の方も伯父から聞いていた沙織の容姿等に欲情していたのもあって、その後は話が早かった。
元上司の男は笑った『全て計画通りだ』と。
◉元上司の男
「どうして、こうなった...」
そう呟いたのは、KUJYOUホールディングス・ダンジョンエネルギー開発部の元係長で、
先日、勤務先の役員一同の面前で、自分達が企てた計画の一部が露呈し、折谷の功績を横取りした事や不当解雇、ヘローワークへの虚偽報告の件を問われており、現在進行形で容疑をかけられている。
逃げ出したい...そう口に出せればどれだけ気が楽にになるかと、頭の中で何度も考えてしまう。
だが、口には決して出来ない。このままでは精神的におかしくなってしまいそうだと思わざるを得ない。
蛭間の口車に乗った元部長は、査問会の内容を知ると直ぐ、その日の内に海外に逃げ出そうとして空港で黒服の連中に家族共々拉致されたらしい。
翌日、顔の形が分からない程に変わってしまった状態で黒服達に引き摺られながら出社し、部長席に座らされた元部長。それを見た部下達が悲鳴を上げ、警察に連絡しようとしたが、『逃げようとすればコイツのようになる。警察に連絡すれば、警察が到着する前に貴様等を別の場所に連れて行き監禁する。勿論、無事になんて思わない方がいい。貴様等の家族達には連絡が今頃行われているだろうから心配しなくて良い。国際的犯罪者の身内を持つ家族は可哀想だな』と言われ、黙ってこの場に留まる事しか、私達には為す術が無かった。
その日から会社での業務には一切携わる事を禁じられ、ただ会社に居るだけの集団となった。家に帰る事すらも許されてはいない。
部下だった者達がスマホで家族と連絡をし、青褪めた表情になり通話を切ると、しくしくと涙を流す。そんな光景が至る所で見られる中、蛭間の胸ポケットから、スマホの着信を知らせる音が響く。
ーーープルルルル、プルルルル...ピッ
「....もしもし?」
『た、助けてくれ!伯父さん!ヤバいんだよ!!こ、殺さ』
ーーープツッ
「
ーーーツー、ツー、ツー...
「隆也...私達は何て事をしてしまったんだ...」
蛭間を筆頭に、ダンジョンエネルギー開発部の社員達は、折谷総司という人間を侮蔑し、功績を横取りしたり残業を押し付けるといった行為を皆で当たり前のように行っていた。
『そのくらいの事で!』『ここまでするなんて異常よ!』『横暴だ!訴えるぞ!』...そんな風に不満を漏らす社員が徐々に現れ出す。
自分達の事を棚に上げ、人を批判する彼らは、自分達の現状をきちんと理解出来ていなかった。
だが、本当の地獄はまだ蓋を開けたばかりであったと、これからその身をもって理解させられる事となる。
カツン、カツンと跫音が規則正しく、ゆっくりと、だが確実に、社会的な〈死〉を引き連れて、すぐそこまで近づいて来ている事に気付いた者は、まだいない。
◉
「今日から私が良いと言う迄の間、外出を一切禁じる」
「なんでよ!父さんに何故そんな制限をされなきゃならないのよ!?」
「沙織さん...お父さんの言う通りにしなさい」
「何よ!母さんまで!何処にでもいそうな、パッとしない男と離婚しただけじゃない。確かに妊娠した事は順番を間違えたけど...母さん達も『初孫だ』って喜んだじゃない!」
「順番を間違えた、か。元係長の蛭間とその甥とで考えた、愚かな計画通りでは無かったという事か」
「ッ!!?...ど、どうしてそれを」
「そんなに政略結婚が嫌だったのなら、何故ちゃんと相談しない?どうして総司君を巻き込んだのだ?」
「...」
「蛭間の口車に上手く乗せられ、探索者の甥に恋慕でもしたか?若くしてC級だったみたいだが良くもまぁ、こんなにも簡単に騙されたものだ」
「騙されたって何がよ!隆也は将来有望な探索者なのよ!」
「ちゃんと聞いていたのか?C級だったと言ったろうが。その隆也とやらは上級探索者に金を払ってパワーレベリングをしてもらい、実力に見合わないダンジョンで探索をしていたらしいな。お前達が仕出かしたくだらない計画で犯罪歴が付いて、今は探索者協会の収容所に居るぞ」
「...え!?は、犯罪歴?犯罪者って事?何で!」
「さぁな。私の知った事では無い。お前は晴れて〈犯罪者の恋人〉...いや、〈犯罪者同士の恋人〉だな。私達も...クソっ!」
ドンッ!とテーブルを叩きつける虎徹。妻も沙織も普段は見せない荒々しい父親の姿に驚愕してしまう。
「貴方。犯罪者だなんて言い過ぎでは...?」
「ご、ごめんなさい、父さん...」
「言い過ぎだと?一から説明してやろうか?私とお前の、愚かな娘が馬鹿者共と結託して起こした、何の罪も無い人間を巻き込んだ!鬼畜の所業をっ!!!」
ーーードンッ!!!
「キャッ!」
「...」
「先ず、総司君と結婚したのは、ただ単に政略結婚から逃げる為だった。
何故総司君だったのかと言うと、ウチの会社のダンジョンエネルギー開発部の元係長、蛭間という男に持ち掛けられその口車に乗ったからだ。
結婚して間も無く蛭間の甥、その腹の子の父親を紹介され関係を持った。新婚で新妻の癖に隠れて不貞行為を重ねていたんだろうよ、子供が出来るくらいにはな。
そこからはお前も知ってるだろう?私達はそんな事なぞ微塵も思わずに、初孫可愛さに総司君に謝罪し離婚に同意した」
「!?そ、そんな...」
「あぁ、知らないだろうから教えておくが、その蛭間含めたダンジョンエネルギー開発部の連中は逃げ出さないように監禁している。
お前がパッとしないと言った総司君は、実は会社の未来を左右する程の人材だった。それを部署全体で不正に隠蔽した上で報酬を奪っていた事が発覚してな。
その中の一つの技術開発が総司君抜きではどうしようもなくてなぁ。
世界規模でクレームが起き始めたよ、既に。
だから、その部署の奴等には責任を取ってもらわなきゃならんから逃げ無いようにしろと、会長からの御命令だ。
それに私も来週始めの役員会で責任を問われるだろう。お前達も覚悟くらいはしておいてくれ」
「...ウ、嘘だ、だってアイツは...!」
「...間違えたのね、私達は」
「...あぁ、大間違いだよ」
虎徹もその妻も沙織も、薄い表面上しか見ておらず、考え方や意識が被害者を装っている事に、気付かない。
いや、気付くはずが無いのは当たり前なのだ。
三者三様に、心から自分の非を認めてなどいないのだから。
これっぽっちも。
『悪いのは、アイツだ』と言い訳を手繰り寄せながら、愚かな家族は、足を踏み外した事に気付いてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます