017 【回想録①】折谷 総司という男。
「おはようございます」
「... 」
これは、総司がまだ会社勤めで
新卒で入社した企業は、ダンジョンから得られるドロップ品等の恩恵を探索者協会から仕入れ、製品化して世の中に供給している。そんなダンジョン関連企業でもトップシェアを誇る一大企業である。
企業名は【KUJYOUホールディングス】。
元探索者の現会長が一代で築き上げたその企業の、研究開発の部署に配属された総司は、入社して3年半、幾つかの新製品の開発と技術開発のチームに参加しており、新人としては十分過ぎる成果を上げたものの、そのどれについても正当な評価をされてはいなかった。
「おはようございます」
返事が返ってくるとは思ってはいない。
ただ、挨拶をする事の大切さを育ての親からみっちりと叩き込まれていたから。
それだけだ。
今更、この会社...部署の人間に期待などしていない。
どうせ、搾取する事しか頭にない奴等なのだから。
「さて、と...」
今日は個人での作業がメインだな、そう呟きながらToDoリストを確認しつつ段取りを組む。
本日のメインは総司自身も関わった【魔石エネルギー変換効率上昇技術】のメンテナンステスト。
頭文字から【
「...」
ーーカタカタカタカタ...
特に変化も無し、っと。
まあ、何かあったら俺が怒られるからな...平和が一番さ。
こんな、単純な原理に誰も気付かなかった方が俺はびっくりだったけど。
どうせ、俺には1円も入らないモノを気にするのもなんだけど、お仕事だからな。
「今度はいつ行こうかな...」
そんな休日の愉しみを脳裏に浮かべながら、目の前の仕事を淡々とこなしていく。
「折谷、これもやっとけよ。期日は明後日までだ」
「...はい」
「お!佳子ちゃん、今日ご飯行かない?駅前に美味しいフレンチの店見つけてさ~」
「奢りですか~?」
...残業、かな。
時刻は22時を少し回ったところ。
書類と睨めっこを続けていた総司は、気になる報告書を見つけ考察していた。
【魔石エネルギー変換値の変化について】、というドイツの研究チームからの報告書の内容にある、
“魔石エネルギーを変換する際の注意事項にある〈魔石毎にある差異〉が理解困難であり、魔石の分類基準が現状は不可能に近い。KUJYOU 研究チームからの支援を要請する”
「分類、ね...」
開発に携わった身としては、ドイツの研究チームを手助けしたいところではあるが、それでは約束を破ってしまう。
あくまで、50%前後を推移する為に協力してもらっただけだ。
それが、アイツなりの〈約束の履行〉だと言ってたからな。
俺も、守らなくちゃいけない。下手にアドバイスしたことで今以上の数値を出されても困る。
ドイツの研究チームには天才が揃ってそうだし。分類、なんて言葉が出る時点で脅威だよ、全く。
「あ~ヤダヤダ。ホント、天才って奴等はこれだから困るんだよね...それに比べて
さてと。
なんて言って誤魔化そうかな?
面倒だよ、本当。
そう言いながらも、口許が緩む。
暗い部署内のPCの画面に映り込む、昼間は見せることの無い満面の笑みを浮かべた折谷 総司は、愉しそうにキーボードを叩き続ける。
カタカタカタ、と。
誰もいない室内に、無機質な音が響く。
カタカタカタ、と。
折谷 総司という男の頭の中で、これからの
カタカタカタと文字を並べながら...。
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