015 VSダンジョンボス。超初心者専用《チュートリアル》ダンジョンでの激闘!❶

「あ、足...」

 

 アナさんの正座説教愛のムチが終わりを告げた。

 後続のルーキー達から、これでもか、というくらいの視線を受けゴリゴリと何かが削られたものの、なんとか気持ちを切り替えて探索を続ける。

 そして探索自体は相変わらず戦闘らしい戦闘をする事ないまま、ダンジョン2階層を進んでいる。


「本当に魔物とエンカウントしないな...チュートリアルの意味あんのかコレ?」


 まぁ、この超初心者専用チュートリアルダンジョンは、元々はダンジョンの探索総許容人数capacityは20名迄、単独ソロ、初心者を前提としていたとか。

 それを探索者協会が、超低難易度をいい事に新人探索者のチュートリアル用と勝手に昔から利用しているだけ。

 で、今まで問題が起きなかった事もあり、すっかり定着してしまったという経緯があるらしい。昨日ネットを検索して見つけた月刊エクスプロレーション〈電子版〉に記事が載っていたので、確かな情報だと思う。


「みんなもスルスル進むし、コレはこれで間違いでは無いんだろうけど」


 結局、そのままダンジョンボスの居る3階層にあっさりと到着。そこで見た光景に唖然としてしまった...。


「何てこった...何処の売れっ子アイドルのコンサート会場だよ...」


 目の前に広がるのは、ひと、ヒト、人。

 随分と遠目に見える、少し豪華な扉の奥にダンジョンボスがいるのだろう。

 その扉の前から探索者達が並んでおり、その列が何回か折れ曲がり、正しく長蛇の列となっていた。


「そりゃそうだよな〜。あんなに大勢でスルスル進めばボスの扉の前行き止まりで渋滞するわな...」


 ボスアタックは1チーム毎らしく、数人ずつ扉の中に入っていくのと、ボスは倒されてもすぐに湧くリポップするみたいでタイムロスが無いのが多少の救いとなっているのかね。


「はぁ、並ぶか。進みながら鑑定の熟練度上げしよ」


 そこからは、少しずつ進む列に辟易しながら、ひたすら鑑定して時間を潰した。


【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用不可。

【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用不可。

【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用不可。

【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用可かも?試してみて。

【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用不可。

【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用不可。


「ん?何か変なんが紛れてたな?」


【草】・・・ダンジョンに生えている只の草。食用可かも?試してみて。


「....相変わらずだな鑑定眼オマエ...試す訳無いだろ、社会的に死ぬわ」


 鑑定を繰り返し、少しずつ前に進む事1時間45分。鑑定のLvは上がらなかったが、ボスアタックの列は進み目の前には残り10人の探索者を残すのみとなっていた。

 因みに探索者に対して鑑定眼は使用していない。時雨さんに鑑定のLv上げを相談した際に、他者のステータスを勝手に覗くのはマナー違反で、悪質なモノになると犯罪歴が称号に載るらしい。〈覗き魔〉とか?絶対ヤダ、そんなみたいな称号。


[...]


 ん?...そんなリスクを負ってまでやる事では無いので、その辺のモノを鑑定していたってワケ。


「やっとここまで進んだか。長かったな~」


 そう呟いている内に次の4人チームが入って行った。すると前に並ぶ探索者達の雑談が耳に入る。


「やっとボスかぁ〜、並ぶのしんどかった〜」

「確かに。3階層まで来るのに1時間、ボス部屋まで2時間だもんね」

「お腹空いた...」

「終わったらメシ行くかぁ」

「...Zzz」

「おいっ!立ったまま寝るなよ!」


 どうやら6人組らしい...ということは次の次で俺の番だ。


「もうすぐボス戦か。イメージとしては扉の中に入ったら鑑定。鑑定内容は....余り気にしなくても大丈夫そうだな。後は相手を見て立ち回るしか無いな」


 そして、前の6人が扉の中に消えていく。

 どうやらそんなに時間も掛からずに倒せる相手のようだと理解すると、少しずつ気持ちが落ち着き始めた。

 


 待つ事10分くらいでダンジョンボスの扉が一瞬光る。どうやら、入室可能となったようだ。


「さぁ、いっちょ頑張りますか!」


 パチンッ!と、頬を軽く叩いて気合いを入れて、扉を開き中へと進む。

 そこには――


「相手はお前か、ウサピョン!

 ウサピョンに始まりウサピョンに終わるってことだな!鑑定!!」


【怨みのウサピョン】・・・ダンジョンボス。ウサピョンを大量虐殺した場合に稀に現れるボス。全ての能力値が通常のダンジョンボスよりも高い。推奨討伐Lv20。


 〈この怨み...はらさでおくべきか!!大量兎虐殺者同胞の怨敵よ、ウサピョンの怨みを思い知るがよい!!〉


「クッソ巫山戯んな!15レベルも足らねぇよ!!」


 背後から、バタンッと、扉が閉まる音がすると同時に、ボスが行動に移った。


――GAAAAAaaaaa!!!!!


「ッ!?」


 ボスの雄叫びによって身体が硬直して動かない!?

 こちらに向かって飛び掛かってくるボスは、如何にも強靭そうな後ろ脚を目の前で思いっきり踏み込むと、体を半回転させて反対の脚を勢い良く叩き込んできた。

 クソがっ!!体が動かない、ガードが出来な、


――ドゴォンッ!!!


「ぐぅぶぁっ!!」


 無防備な腹部に強烈な回し蹴りを喰らって吹き飛ばされ、10m程ゴロゴロと転がった所で漸く止まれた。


「ぐぁっ!...オェェ!...ハァ、ハァ、い、いてぇ!ハァ...クソッ!」


――クイッ、クイッ


 ニヤリと笑ったような顔でボスに挑発行為をされるが、生憎、そんな余裕は全く無い。


「フーッ!フーッ!フゥ、フゥ...仕切り直しだ!ウサ公ッ!!」


 今度はこちらから走り出し、ククリナイフで斬りかかっていくが、ボスのフットワークに翻弄され中々当たらない。ボスは大きく後方に跳躍して距離を取ると、俺を見据えて再び挑発行為をしてきた。


――クイッ、クイッ。ニタァ〜!


「このクソったれがッ!!」


 挑発に乗りボスに肉薄するまで走り込み、その勢いのままククリナイフを振り抜く!


――スカッ...


 ワザとらしく紙一重で避けたボスが放ったカウンターキックがクリーンヒットし、更に顎下を揺らすように連撃されてしまう!


――ドガンッ!!ガツンッ!


「ごっ!?ぐがッ!」


 モロに入ったカウンターと脳を揺らされたせいで、膝をついてしまう。

 ボスが膝立ちの俺の顎下をつま先でクイッと上げるのが感覚で分かる。

 目の焦点が合わず口や鼻から血を流れてるっぽい...そんな俺の顔に、ボスは唾を吐きつけた。


「...シ、ね...ウ...サ」


 あぁ、ここで死ぬのか、俺は。


 ツイ、て、無いな...。


 探索者になったばかりなのに、な...。


[ピ...!...!...!]


 アナさんが何か言ってる気が...。


 ヤバい...もう、意識が―――


















『しょうがない奴だな、は』









―――特殊条件ヲクリアー。只今ヨリ〈〉skillヲ強制発動シマス...


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