008 ◉誰かが〈変質者〉と叫んだ、その頃。元勤務先は...
総司が
「貴様!!何という事をしてくれたんだ!!」
「私の名を騙り、折谷君を自主退職に追い込ませるなんて良く出来たな、貴様!?」
「そ、それ、それは...」
「頼まれた、そうなんだろ?あの
「は、犯罪者?」
「他人様のパートナーに手を出す行為は犯罪だろうが。事実、私は大切な義息子を失ったぞ?違うのか、貴様の甥っ子は?」
「...」
総司に
甥っ子かわいさに男は、嘘をついて総司を自主退職させただけでは無い。件のヘローワークに会社から虚偽の報告を入れたのもこの男だった。
まぁ、ヘローワークの担当者も碌に調べずに鵜呑みにした点は否めないのだが。
「もう既に調査済みだ。
ヘローワークの件もな。良くもまぁこんな嘘を吐けたもんだと逆に感心したもんだ。
仕事の業績は部で最下位、勤務態度はサボり癖があり、遅刻欠勤多数、等々。全て真逆じゃないか!だいたい、ヘローワークの馬鹿者共もこんな話を良く信じたもんだ、忌々しい奴等め!」
ガンッ!と机を調査資料ごと叩きつけると、虎徹は話を続ける。
「貴様は部署内でも好き勝手やってたみたいだなぁ?
監査を入れたら出るわ出るわ。良くもまぁ、こんな悪事をやってこれたな?」
そのタイミングで1人の男性が喋り始める。
「改めて、ご報告します。我々監査部が調査しましたところ、対象のダンジョンエネルギー開発部でここ5年間の新規開発技術登録の約7割相当は折谷氏が関わっていた事実が判明しました。
当部署からの報告書には、折谷氏の名前が記載されていなかった為に正当な評価を受けていませんでした。
又、評価されていた者には部長、部長代理、係長をはじめとした実際には携わっていない社員が多数。対象の者達を個別で取り調べたところ、その事実を認めました。
問題なのは、その登録技術の再現性が折谷氏が居ないとほぼ不可能であり、このままでは我が社は国や関係国から賠償請求をされる可能性が出てきてしまいました。
当時の折谷氏の残したデータを収集しようと致しましたが、そこに居る者や役職者による隠蔽・改竄の為に不可能でした。ライバル社からのスパイ疑惑に関しては、関係無いと結論付けられており、部署ぐるみの不正行為と思われます。以上です」
「...あ、いや、く、国?損害賠償?」
青褪めた男らしどろもどろになる。
「我が社はダンジョンから得られる魔石やドロップ品と呼ばれる物を現代社会での利用可能エネルギーへと変換し、様々な商品を開発、販売等を軸に成長してきた会社だ。
社会に必要不可欠な商品を多く世に出し貢献する事で業績を上げ、現会長が一代で築き上げた。
なんだ、貴様は自分の働く会社の概要すら知らんのか?」
「い、いえ、存じて...おりま、す」
「世の中は変わった。
それまで只の恐怖や嫌悪の象徴でしかなかったダンジョンに新たな可能性を生み出し、今ではダンジョンは現代社会に無くてはならない存在となるまでに至った。
街の街灯一つとっても、小さな魔石一つで1か月間明かりを灯す事が可能で、それまでにあった電力問題を一気に解決した。世界中の原子力発電所が閉鎖した話くらいは小学校の歴史で習ったろ」
「は、はい...」
「今の世の中には我が社同様、ダンジョンエネルギーを資源とし新たな技術や商品を生み出す企業も増え続けている。そんな競争市場でトップシェアを我が社が誇っていた。
それは新しい技術を生み出し、世に広めてきたからに、他ならない。
そして、ここ数年の業績はダンジョンエネルギー開発部の開発した魔石エネルギー変換効率上昇技術によるものだ。それまで39.3%が限界だった魔石のエネルギー変換を最大53.8%まで上げた新技術のな。貴様が知らない訳無かろう」
たかが14.5%と思われるかも知れないが、ダンジョンから持ち帰られる魔石は膨大である。それこそ世界中にダンジョンが多数あり、世界中が魔石のエネルギー資源で経済を回していると言っても過言では無いのだ。
そんな世界の根幹を担う技術を世に出したこの会社は各国から技術提供の契約をしていて、莫大な利益を得ていた。
「...」
黙る男を他所に、報告者は告げる。
「その新技術は今となっては世界中の国々が研究・開発を行なっております。未だその数字を上回る成果を上げた、という情報はありませんので現状では最新技術となっております。
先程申し上げました通り、折谷氏の抜けたダンジョンエネルギー開発部で行わせた魔石エネルギー変換効率上昇技術のテストでは平均40.1%でした。折谷氏の基礎データを応用して、です。
残りの13.7%はどうテストしても結果を得られる事で出来なかった事から、この技術の折谷氏の貢献度が極めて高かった、という結論に至った為、再現性がほぼ不可能と報告致しました」
係長の男はやっと事の重大さを理解し始めた様子で青褪めた顔が更に悪くなり、体を震わせながら、阿呆な事を言い出した。
「で、でしたら、折谷をまた連れ戻して...」
「そんな事はとっくに試したに決まってるだろうが馬鹿者が!!
折谷君はな、既に探索者として登録していた為に我々は手出しが出来なくなっておったんだ!貴様がヘローワークに虚偽の報告書を提出したのが原因で、ヘローワークの阿呆な受付嬢に「探索者にでもなれば?」と馬鹿にされてな!
折谷君も生活があるから直ぐに登録してしまい、我々がアポイントを取ろうとした時点で探索者協会から厳重なクレームが入ったわッ!」
ダンジョンに可能性を見出した人類は探索者となりダンジョンに潜った。そして、そんな探索者を不当に囲い搾取する存在が現れてくるのも必然だった。
だが、そんな事を探索者協会の
慌てた国は事実を調査、不当搾取した企業の関係者を一斉に検挙し探索者を守る為の法律を制定するに至り、その一連の事件が終わって3日後には魔石がドロップし始めた事から、世界中の国々は慌てて探索者保護の法整備を行なった、という歴史の教科書にも載る〈魔石ショック〉事件が実際に起きた史実だからだ。
「貴様等、ダンジョンエネルギー開発部の社員は会社の利益に莫大な損害を与えた事により、全員処罰するから覚悟しておけ。
部長以下役職者に関しては会社より損害賠償請求を行うからな。この先明るい未来があるなんて思うなよ?絶対に許さんからな!!
...あぁ、あと、ヘローワークにはちゃんと事実を報告しておいてやるから安心しろ。その上で貴様等を雇う企業が有れば良いな?
もし、探索者登録するつもりなら登録拒否される事がないよう祈っておけ」
ガタガタ震える係長を強制的に退室させると、それまで無言だったその場で1番目上の代表取締役社長が声を発する。
「良いかな?今回の社内不正に関しては、引き続き監査部主体となり報告書を提出するように。
人事部には新しい技術者を雇う為の行動を最優先として指示を出しなさい。
それと柊木常務は、来週の月曜に緊急役員会を行うように会長からの指示を受けているので、その場できちんと報告出来る様にしておいて下さい」
その場に残る者達は口を揃える。
「「「分かりました」」」
「今回の件はかなり遺憾です。会社運営そのものに多大な影響を与えかねない案件です。
ましてや、この件が会長から指摘されるまで誰一人として気付かなかったなど、会長に合わせる顔がありません。貴方達も気を引き締めなさい」
「「「ハイ!誠に申し訳ありません」」」
静まる室内で柊木虎徹は挙手する。
「社長、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか」
「今回の件、なかなか表には出てこないものでした。折谷君も只の一般社員で、今回の調査が行われるまで目立つ存在でもありませんでした。
それなのに何故、会長は今回の事を知り得たのでしょうか?」
室内には同じ疑問を持つ者が数名いたようだった、軽く頷く者がいる。
「あぁ、その事は私も疑問に感じたので確認しました。会長曰く、『探索者だった頃に命を救って頂いた恩人に教えて頂いた』そうですよ。
その恩人は現役引退後に喫茶店をやられていて、会長はその喫茶店の常連だそうです。どうやら折谷君は、ヘローワークで再就職に絶望し、探索者を勧められた後に偶々入った店がその御方の店で、色々と話をしたようです。
それを聞いた会長の恩人は、探索者になる為のアドバイスをしたそうですよ。
このままでは折谷総司君は危険かも知れない、と心配されて。
それはそうでしょう?ちょっと調べれば折谷君が大変優秀な人材だという事は、すぐに分かる事ですからね。
そして、その恩人はこの不当解雇した会社は、もしかしたら会長の会社かも知れない、と連絡をして頂きこの件が発覚した、という流れですね」
「そんな事があったんですね...会長には大変ご迷惑をお掛けしてしまいました」
「(迷惑だなんて、そんなレベルの話では無いんですよ。命の恩人の友人であり、会長自身も大変お世話になったご夫婦の御子息が、自分の会社で働いていた事すら知らず、その上不当解雇してしまった事を恩人から知らされる。
しかも、恩人から侮蔑の表情で絶縁宣言された、と怒り狂ってましたからね。役員会で死人が出ない様にしなくてはなりません。
とは言え私も他人事ではありませんが。
それに、折谷君の方も気になりますね)」
「(総司君....魔石エネルギー変換効率上昇技術の立役者だなんて一言も言って無かったじゃないか...初孫の為に離婚に賛同してしまったが、もしかしたら私は致命的なミスをしてしまったのではなかろうか...)」
「「(折谷総司君、君は一体何者なのですか?)」」
『ウサピョンはいねが〜!出てこねが〜!』
―――只の変質者(予備軍)です。
折谷総司 ♂ age:30
Lv:4
rank:F
job:トレーダー:Lv2
skill:トレード:Lv2、鑑定眼:Lv1
title:×1、(変質者)
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