004 有言即行。

 マスターと出会った翌日には、自宅近くの探索者協会の支部で約束通り研修を受けた。


 かなりの人数が研修を受けており、細かな手続きは別の場所で行う為、数あるダンジョンの中でも比較的近場で難易度が低いとされているF級ダンジョンの一つ、〈第1085F〉ダンジョン前にある探索者協会出張所に来ていた。

 

 詳しく知らなかったんだけど、ダンジョンの数は驚くほど多かった。


 ランク?幅も広く、それこそ超難易度のS級ダンジョンから低難易度のF級ダンジョンまで。

 まぁ高難易度ダンジョンはそこまで多い訳では無く、低難易度ダンジョンがその大半を占めているらしい。


 今回選んだF級ダンジョンも難易度は低いのだが、この辺りのダンジョンをまとめて管理している探索者協会の出張所が併設され探索者の新規登録が出来る窓口があるため、新しく探索者を目指す新人が多く訪れる。


 探索者協会の本部や支部等はそれこそ市役所や区役所のような大きいビルくらいデカいが、出張所は学校の体育館程大きさの二階建ての建物だ。

 その中には受付機が10台ほどあり、受付嬢のいる受付の窓口が3つ。カウンターの向こう側には事務員が多数在中していて、ダンジョンに関する大小様々なことを処理している、らしい。

 尚、小説であるような『依頼クエスト』や『戦利品result』などは全て受付機で完結できる。

 人のいる窓口は、基本的に来客や、依頼人がクエストを出す時、緊急性の有る報告をする際などに使われるのが常識だと研修で習った。


 そして新規登録も受付機で出来る。ホントに便利な世の中だよな。


「え〜っと、名前...お、り、や、そ、う、じっと...生年月日は8月...」


 基本情報を登録し、最後に受付機のパネル下から出てきた真っ黒な金属板に右手の平を合わせるように置くと、2秒後にピピッとなり、金属板はパネルの下に戻っていった。

 少し待っているとパネル横からキャッシュカードサイズのカードが出てきたので、受け取ってまじまじと見る。


「コレが探索者証ね....結構簡単に出来たな」


折谷総司 ♂ age:30

Lv:1

rank:F

job:無職

skill:なし

title:×1


「titleの【×1】ってなんだ?...【バツイチ】の事か!?...悪意を感じるぞ、オイ!」


 受付機で手を合わせたあの金属板は、個人パターンを読み込む機械スキャナー

 このシステムの大元は探索者協会の本部地下に厳重なセキュリティで守られており、未だ全容の解明されていない超高性能人工知能・通称〈マザー〉だと教わっている。


 rankは探索者活動による貢献度で決まるので、戦利品の買取やダンジョン攻略で上がる。登録したての俺はもちろん、〈F〉だ。

 jobは実生活の無職ではなく、探索スタイルによって戦闘?職業を選択出来るらしいのだが、まだ決めて無いから無職なのだ。


 ...まぁ今のところ、両方とも無職ですけどね~。


 skillは職業を得た際に職業にあったものを覚える。

 剣士なら【剣技】、魔法使いなら【属性魔法】といった具合に。また他にも〈スキルカード〉で覚えることも出来るらしいし、レベルアップで覚える、なんてこともあるみたいだ。

 ちなみにtitleは【称号】と呼ばれるもので、何時の間に増えたり、減ったりする。

 ただし、犯罪行為等をすると必ず付く。

 その場合、探索者資格剥奪プラス即逮捕になる。マザーで一括管理されているので、まず逃げる事は不可能、とのことだ。


 無事に探索者証を作れたのでそのまま協会出張所を出て、隣の建物へと足を運んだ。


「とりあえず武器と防具だな」


 隣の建物は探索者が活動するにあたり必要となる武器や防具、アイテムなどが売っており中にはダンジョン攻略で入手された戦利品も取り扱っている。

 マスターと約束した通りキチンと装備を整えてからダンジョンに潜るために買いに来たのだ。


 店内をいろいろと物色した結果、防具はプロテクトスーツを上下とインナー、鉄板入りのブーツにする。

 武器は正直なところ悩んだ。

 剣とか槍なんて触った事も無いのに、いきなり戦闘なんか無理ゲーだろ。

 考えぬいた結果ククリナイフを選んだ。

 何度か握らせてもらいしっくりときたからだ。


 トータルで100万を超えてしまい、少し不安になったが、大切な先行投資なんだ!と、クレジットカードで支払いを済ませる。


「とりあえず装備は高性能、とまではいかないが揃った。アイテム類は回復剤を3つだけ買って...後は職業だな」


 この建物内に職業選択を出来る受付機があるらしい。

 職業を得たらダンジョンに試しに入ってみようかな〜?なんて。


 受付機にカードを入れると、また金属板が出てきたので手を合わせると、パネル上に取得可能な職業が表示され...た...?


▷トレーダー


「え!?まさかの一択?しかも【トレーダー】って株とか扱う金融業界のアレ?」


 普通2つ3つから選ぶもんじゃないの?選べるって大事だよ?

 事前にネットで調べた時には【トレーダー】という職業は無かったよな?

 ていうか、探索者の職業か、それ?

 3回やり直してみたが結果は変わらず、しょうがないので【トレーダー】の職業を選択する。

 戻ってきたカードを確かめて見ると、jobが【トレーダー】となり、skillには新しく【トレード:Lv1】の文字が追加されている。


「説明が欲しい....何だよ【トレード】って...」


 意味がわからないと思うも情報が無い以上騒いでも無駄だ、となんとか落ち着く事が出来た。納得はしてないよ?

 頭を切り替えて予定通りダンジョンに試しに入ってみようかな。


 この〈第1085F〉ダンジョン...長えよ。面倒くさいのでF級ダンジョンは階層は3つ、最下層はダンジョンボスのフロアなので、実質は2フロア。どちらも草原タイプで少し森があるタイプとのこと。


 入口の頑丈な扉横にあるカード挿入口にカードを通して入る。

 扉の中に転移陣があり、そこからダンジョンへ飛ばされ、帰りもフロア毎に転移陣があるので探索もイージーだ。親切設計良き。


 早速カードで中に入り、転移陣からダンジョンへと飛んだ。

 少しの浮遊感の後、周りの景色は一変して見渡す限りの草原と、奥の方にはうっすらと森が見える。

 外は夕方に近い時間だったが、ダンジョンの中は擬似太陽があり、まだ高い位置にある。

 転移陣のそばには魔物は寄ってこないと調べはついていたので、大丈夫、大丈夫。


 さてと、初ダンジョン頑張ってみますか〜!


 取り敢えず一服、と煙草に火を点け、紫煙を偽物の空に向かって吐き出して。

 頑張りますか、と呟いた声が草原に吹く風に流されて、草と共に揺れながら辺りに溶け込んでいった。



折谷総司 ♂ age:30

Lv:1

rank:F

job:トレーダー:Lv1 new!

skill:トレード:Lv1 new!

title:×1

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