僕と『義妹』の答え合わせ

「妾がやったのはそなたらを転生させたことと『義妹』という概念を作ってそなたの『恋人』とすり替えただけじゃ」


時告様は念を押すようにそう言った。


「そもそも『義妹』という概念はそなたらの関係性を示すものでしかない。

『義妹』じゃから一緒に住むのも恋愛するのもおかしくないと自分たちも周囲もそう認識するだけじゃ。

認識をいじくるだけで感情までは変えられるものではない、ただそれだけのものじゃ。

まあ戸籍は何かと不便じゃろうからサービスでちょちょいとイジっておいたがの。手続きはそのためじゃ。」

「いや、しかしあの鈴の音が聞こえた前とあとじゃみんなの反応が余りにも違うというか……」

「本当にそうかのう?前世の記憶があるユキナという例外を除いて彼女らはそなたをちゃんと好いておらなんだか?」


まあ、確かに。

ひまりは初日に二人で話したときにそんなことを言ってくれていた。

しずくにしろさくらにしろある程度好意を持たれてる自信はあった。


「元々そうあるべく存在した魂じゃから惹かれやすくはなっておる。ひまりなんぞちょろかったじゃろ?」

「まあ、ちょろかったかな」

「むぐぐ……」


ひまりが唸ってしまった。

ごめんごめん、と笑いかければ拗ねた様子で睨まれてしまう。


「それでも所詮は相性。そなたらの感情はそなたらのものじゃ。ひまりはあの時断ることも考えたじゃろ?」

「それは……少しだけですが。ですが、この方の『義妹』になる選択肢もあるんだと分かって思わず飛びついてしまいました」

「選んだのはそなた自身じゃろ?」

「その通りです」

「しずくもさくらも同じじゃろ?」

「うん」

「まあそうかも?」

「めぐるよ、これが答じゃ。人生とは選択の積み重ね。人の心もそうじゃ。そなたはちゃんと好かれておるよ」


何も言えなくなってしまう。


「ユキナに関してはアレじゃ。なまじ前世の記憶があるもんじゃからどうせ勝手にめんどくさい感じになっておっただけじゃ」

「そんな言い方無いと思うなぁ」

「あるじゃろが。どうせアレじゃろ?前世の兄以外興味な~いとか考えて男を意識的に興味の対象から除外しておったらその中に当の本人が含まれておったんじゃろ?

魂の相性が抜群な以上惹かれる要素がたっぷりあったのに、一年も意識的に無視しておったんじゃろ?

それでいざ目の前の相手が前世の兄で『義妹』になれると分かったら、今まで意識的に無視しておったこやつに惹かれる感情が溢れてきたんじゃろ?」

「まあ……えっと……えへへ」

「そういう訳での、めぐるよ、こやつの愛がやたらと重いのは前世と今生二つ分の溺愛がごちゃ混ぜになっておるからじゃ」

「ああ、なんか納得した」


そらまあ、愛が重くなるよな。


「人の感情なんてものは神様如きが気軽に触っていいものではない。それは人が積み重ねて与えあっていくものじゃ。

じゃからめぐるよ、これ以上『義妹』たちの気持ちを否定してやるな。これ以上疑うなら罰が当たるぞ。」

「時告様の神罰ですか?」

「妾が何かするまえにそなたの『義妹』たちが与えそうじゃがの」


『義妹』たちがうんうんと頷いている。


「何なら『義妹』という概念を削除してみるかの?それで気持ちが変わらなければ納得いくじゃろ?」

「それは――――」

「絶対ヤダ!!」

「いけません!!」

「ムリ!!」

「ありえないし!!」


僕より先に『義妹』たちが答えた。

その必死な様子が僕の疑念への回答でもあるのだろう。


「愛されておるの?」


時告様はおかしそうに笑った。

ああ、僕は本当に面倒な男だ。

ここまでしてもらってやっと色んなことに納得することができた。


「ほんにそなたは面倒じゃ」


僕をなじる時告様は母親のような慈愛に満ちていた。


「さて、これで事情説明は終わりじゃが、何ならそなたらの前世のエロゲ世界でのことについても語ってやるがどうする?」


そんな時告様の提案に僕らは顔を見合わせる。

答なんて決まってる。


「不要です。僕らは僕らだ。僕らの物語を生きれればそれでいい」


ちょっと気取ってそう言ってみれば時告様はにっこり笑う。


「うむ。それがよかろう」


僕らの回答はどうやらお気に召したようだ。



本殿を出て神社の境内へ。

僕の大切な『義妹』たちと仲良く手を繋いで歩いて行く。

時告様はお暇する僕たちを見送りに来てくれた。


「そなたらの間に子が生まれても後ろ指さされぬようにしておるから安心するがよい。孫の代ぐらいまでは概念も維持して面倒みてやるからの。

まあひ孫の代あたりで好いた女子を義妹にしてハーレム作ったクソ野郎と認識されるかもしれんがな」


それはちょっとイヤだ。

でもまあ、今が恵まれすぎてるんだしそれぐらいは許容しよう。

どうせ僕が死んだ後の話だ。


「そうそう一つ言い忘れておった」


石段を下りようと踏み出した瞬間、そんな声が背中にかかる。


「何でもエロゲの方で追加ヒロインが実装されまくっておるようでな、『義姉』に『従妹』に『義娘』と合わせて一二人!向こうの神が魂は用意したからこっちで引き取って観察させろとうるさくてのぉ。でぃーえるしー商法という奴じゃの!!」


掛けられた言葉の意味をすぐに理解できずに僕は立ち尽くしてしまう。


「『義妹』と合わせて一六人!よかったのめぐる!一大ハーレムの主になれるぞ!!」


僕は今すぐ引き返してこの無茶苦茶なカミサマを蹴り飛ばしてもいいのではなかろうか。



家族が増えることは喜ばしいことだが、増えすぎるってのも色々問題だなぁ。

僕の吐いた盛大なため息は、愛する『義妹』たちの笑い声を誘った。



〈了〉

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