僕と『義妹』の夏祭り

「「「「お待たせ~!待った?」」」」

「今来たとこ」


定番のやり取り。

顔を見合わせて笑い合う。

相手が四倍なので僕の楽しさも四倍だ。


「浴衣がよくお似合いですよ、お嬢さん方」

「えへへ~♪お兄ちゃんも浴衣姿が素敵だよ♪」


そう、僕らは浴衣姿で夏祭りにやって来ている。

たまには外で待ち合わせ、と僕を先に行かせた彼女たちが待ち合わせ場所で見事な浴衣姿を披露してくれた。

ユキナは淡い青に花の模様、ひまりは黒地に金魚、しずくは薄紫に花と流水紋、さくらはオレンジにヒマワリ。

カワイイ『義妹』たちのカワイイ浴衣姿に僕はいつもより上機嫌だ。


「あーしはミニスカのやつも用意してみたんだけどねー。ひまりんに風情がないって怒られちったー」


ギャルがそんな事を言っている。


「……今度着て見せてくれ」

「しょうがないなぁ」


耳元でこそっと要望を伝えれば満更でもない顔でそう言われた。

しょうがないじゃないか、見たいと思っちまったんだ。

風情は無いけどエロスはある。

僕はミニスカ浴衣が結構好きだ。


「お兄様!はやく行きましょう!」

「にぃに!はやくー!!」

「おー!すぐ行くー!」


グダグダしてたら仲良く腕組みで先を行くひまりとしずくに急かされてしまった。

僕はさくらとさっきから僕らのやり取りをクスクス笑いながら見てたユキナの手を取って追いかける。

提灯の明かりがずらりと続き、祭りらしい出店が立ち並ぶ道を僕らはなるべく他の人たちの邪魔にならないようにとピッタリくっ付いて歩いて行く。


「とりあえずアレだな。焼きそば食おう」

「お兄ちゃんって焼きそば好きだよね~」

「なんか海とか祭りで食うとやたら美味く感じるんだよな」

「焼きそばもいいけどたこ焼きが先っしょ?」

「どっちも食おう。あ、イカ焼きもあんじゃん」

「にぃにー!」


ダラダラ歩いているとしずくとひまりが戻ってきた。


「にぃに、見てて」

「お兄様、見てください」


べ~、と舌を出せばおそらく水あめを舐めたのだろう二人の舌は真っ青に染まっていた。

驚いた僕の顔を見て二人はクスクスと笑い合っている。


「ほらほら二人とも、あんまりはしゃいでると転んじゃうよ?」


ユキナが二人の間に割って入って腕組みで拘束してしまう。


「ひまり、たこ焼き食べるか?」

「食べますっ!」

「ほれ、あ~ん」

「あ~ん……はふっはふっ……おいちいです」


いつもはお行儀にうるさいひまりも今日ばかりは行儀を忘れているようだ。

すっと横にしずくが立ってひな鳥のように口を開いて待っている。

その隣にはなぜかさっきまで一緒に食べていたユキナとさくらまで。


「ほれ、しずく。あ~ん」

「あーん……おいちい」

「「あーん」」

「いや、ユキナもさくらもさっきまで食べてただろ?」

「「あーん」」

「はぁ……あ~ん」

「あーん……おいし~」

「ほれ、さくらも。あ~ん」

「あーん……うまーい」


催促に負けてしまった。

まあ楽しければなんでもいいのだ。


「にぃに!アレ欲しい!ちょっと取ってくる!!」


しずくが射的の屋台へと駆けだしていった。

彼女の銃口の先には全く持ってカワイイとは言い難い外宇宙から来た邪神っぽいぬいぐるみ。

もしかしてアレはいつぞや見たどっかの神様の像の横に飾るつもりなんだろうか。

さすがフィジカルエリートのしずくは見事に一回の挑戦で獲物を仕留めてしまった。


「やったぜ……にぃに取ってきた」

「あまり可愛くないですね」

「変な顔?だね~」

「ちょいキモいね。キモカワとも言えなくもない」


しずくのセンスは僕以外にもよく分からないらしい。


それからユキナと綿菓子を食べさせあったり、ひまりと金魚すくいしたり、なんかやたら職人みたいな目つきで型抜きをするさくらを見守ったり。

僕はくじ引きのはずれで手に入れた、よく分からないぺーって鳴るおもちゃで遊びながらみんなと楽しんだ。

このおもちゃホント何なんだろうな。

くっそしょうもないのについつい遊んでしまう不思議な魅力がある。


屋台の列が途切れた先の公園の端のベンチにみんなでぶらり。

『義妹』たちの手にはそれぞれりんご飴が一つずつ。


「お兄ちゃんも食べる?」

「んじゃあ一口だけ」


ユキナに差し出されたそれを齧れば甘くて酸っぱい。

視線の先ではベンチに座った三人がしずくの戦利品のキモいぬいぐるみをぽんぽん叩きながら何か言いあって笑っている。


「花火まだかなぁ?」

「もう始まるだろ」


言った途端、どーんと大きな音とともに大輪の花が夜空を彩る。


「おー!たーまやー!」

「えっと、かぎやー!」

「んっと……んっと……しきー!」

「しずくー!うちは花火屋じゃねえぞー!」


思わずツッコめば隣のユキナは大笑いだ。


「夏ももう終わりだな」

「あっという間だったねー。何かちょっと寂しいなぁ」

「また来年も楽しめばいいさ」

「そうだね。来年も再来年も」

「ああ。ずっとずっとだ」


重ねた唇は、りんご飴の味がした。

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