僕と『義妹』とすごろくゲーム

「おにいとのデートを勝ち取れ!!すごろくゲー対決~!!」

「「「いえ~い!!」」」


さくらの掛け声を合図に何かが始まった。

ちなみに僕に事前説明は一切されていない。

リビングのテレビにはゲーム機が繋がれタイトル画面が表示されている。

鬼が島の鬼をモチーフにしたキャラ『鬼次郎』をメインキャラに据えた鉄道会社を経営するすごろくゲームだ。


「というわけで、今日はこのゲームで対決するよー。優勝者はおにいと一日デートできるから頑張ってねー」

「いやまて、僕はそんな話聞いてないぞ」

「なに?イヤなわけ?」

「嫌ではないが」

「ならいいじゃん!」


まあ、いいんだけどさ。


「これ、僕も参加するのか?」

「そりゃ五人まで出来るからねー。おにいが勝ったら好きな子とデートってことで」


僕が選ぶのもなんか角が立ちそうでちょっと嫌なんだけど。


「じゃあやってくよー。ちょっと長めの三〇年で行ってみよー!」


さくらの仕切りでゲームが始まってしまった。

行動順はひまり、ユキナ、僕、さくら、しずくの順。

最初の数年は穏やかなものだった。

未プレイのひまりとユキナはひたむきに目的地を目指し、しずくはなぜかひたすらカードを集め面白そうなものをどんどん使っていく。

既プレイの僕は後半に備えて資金を溜めながらコスパのよい物件や進行形カードを集めていく。

で、さくらなんだが、未プレイのハズのこの女はなぜか僕と似たような行動をとっている。


「さくら、さてはお前事前に動画で勉強してきただろ」

「バレたし。ふっふっふ、この勝負は実質既プレイのおにいとあーしのタイマンなのさっ!!」


卑怯なやつめ。

しかしさくらは重要な思い違いをしている。


「甘い。実に甘いぞさくら」

「え、なに?」

「お前は重大なミステイクを犯しているぞ」

「だからなによ?」


僕は憐れみの目でさくらを見ながら重大な事実を伝える。


「僕はユキナともひまりとも賭け事はしない」

「ま、まさか……」

「そう。奴らは理不尽な豪運の持主だ。ひまりにスペードから順番にロイヤルストレートフラッシュを四回連続で決められた僕の気持ちがわかるか?」

「そ、そんな……」

「ちなみにユキナは一晩でファイブカードを三回決めた」

「なにそれ地獄じゃん……」


順番が回って来たのでサイコロを振る。

ああ、また一がでた。

乱数なんて大っ嫌いだ。

続いてさくらも一を出す。

致し方なく赤マスに飛び込んださくらは借金を背負った。


「僕らのクソ雑魚運じゃ絶対に勝てない」

「で、でもあーしらには戦略があるし……」

「そんなん豪運の前じゃただの誤差だ」


僕の視線の先ではひまりがサイコロを振っている。

先ほどからひまりは目的地を射程圏に収めるとノーミスでゴールしている。


「あら……ピッタリですね。ゴールしてしまいましょう」

「ひまりちゃんおめでとー!!次の目的地は……ユキナのすぐ近くだ!はいれるかな~……あ、やった!ピッタリだ!」


もちろんユキナも同様だ。

二人でどんどんゴールするものだから、さっきからお邪魔キャラの『貧乏侍』さんが僕とさくらのまわりを反復横跳びしている。

しずくは絶妙な塩梅で僕らよりゴールに近い位置をキープしている。


「ま、まだ勝負ははじまったばっかだしっ!…………あ」


特殊な演出が始まり貧乏侍さんが覚醒する。


「やばいやばいやばいやばい」

「おめでとう、キングビンボーザムライさんだな」

「こ、こうなったら意地でもなすってやる~!!」

「ん……牛歩カード?……使ってみる、えい」

「ギャアアアアアアアア」


しずくのナイスな妨害でさくらは次のターンにお邪魔キャラの攻撃を受けることが確定した。

その後も僕とさくらには散々な形でゲームが進んでいく。


「よっしゃあ!ひまりにピタリだ。これならなすり返されないだろ」

「困りましたね……ゴールまでは三〇マス。ですが!このカードを使えばサイコロを五つ振れます!それ……あ、六ゾロですね」

「サイコロ五個で六ゾロってあーし初めてみたんだけど……」

「確率とか考えたくもないな……」


折角貧乏さんをなすっても無茶な豪運でうまく切り抜けられたり。


「次のターンでユッキーになすれそうだね」

「ううん、じゃあ銀河鉄道で逃げようかなー」

「甘いなユキナ。そのカードはテレポートでタダ乗りが……あああああ!さっき貧乏さんにカード捨てられたんだった」

「残念だったね、おにい!タダ乗りはあーし一人で……使い切っちゃってるぅぅぅぅぅっ」


ガバプレイでチャンスを不意にしたり。


「こうなったら……さくら!共闘だ!」

「あーしら二人でユッキーとひまりんの勢いを止めるよっ!!」


最大のチャンスがやって来た。

直近の目的地はハワイで、当然の如くひまりがゴールしその後ろにはユキナがいる。

しずくが見事なカウンターでゴールを返してキング状態の貧乏さんがひまりについた。

このバージョンではハワイはどん詰まり。

つまり航路を封鎖すればしばらくユキナとひまりで貧乏さんと戯れることになるのだ。


「はい!この分岐にうんちを置きま~す!!」

「さらに!このカードで全員の所持金が一律に!!ユッキー、ひまりん、ここからあーしらが追い上げるから覚悟してねー」

「お兄様もさくらさんもひどいですっ!!」

「出られなくなっちゃったよぉ……」


見事な妨害が決まり僕とさくらはがははと下品に笑う。

勝ったな……っ!!


「ん……サミットカード……なんか面白そう」

「「あ……」」


折角閉じ込めたユキナとひまりはヘリコプターに乗ってしずくの下へ。

そして僕とさくらもそれに続く。

キングな貧乏さんは行動順の関係で結局さくらについた。


「ちくしょー--っ!!!」

「あっはっはっはっは」

「おにいが笑うなー!!絶対なすってやるかんね!!」


そのまま僕とさくらは低次元の争いを繰り広げ続けて最終年まで終えてしまった。

醜いビリ争いはさくらが制し、順位は下からさくら、僕、しずくとなった。

ちなみにしずくは開始時点とまったく同額の資産でフィニッシュするというある意味奇跡を起こしていた。

そして豪運によるデッドヒートを繰り広げたユキナとひまりは僅差でユキナが勝利した。

ひまりの敗因はゲームに不慣れで進行形カードなどを使い始めるのがユキナより遅かったことだろう。


「あ~、楽しかったね~」

「惜しかったです……ですが楽しかったですね」

「ん……おもしろかった」

「お兄ちゃんたちは大丈夫?」


三人が賑やかに感想を語る中、僕とさくらは燃え尽きていた。


「格差って……あるもんだな」

「理不尽を痛感した……ユッキーもひまりんもおかしいっしょ」

「あははー。まあちょっとだけ運がよかったよねー」

「「ちょっとじゃないっ!!」」


まあ、なんだかんだと楽しくはあった。



ちなみに、優勝者のユキナとのデートは猫カフェに行った。

いつぞやの猫?カフェではなく本物の猫がいるカフェだ。


「僕の方に全然猫寄ってこないんだけど」

「こんなに人馴れしてるのにおかしいねぇ」


やたらと猫に避けられる僕にユキナが苦笑している。


「あ、お兄ちゃん来た来たっ!ちゃんとお兄ちゃんにも寄って来たよ」


そのとき一匹の猫が僕のひざに飛び乗る。

やたらとふてぶてしい太ったその猫は僕の膝にずしりと体重を預けると、こちらを一瞥してぶにゃーと鳴いた。

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