僕と『義妹』とプライベートビーチの怪

体の隅々まで丹念に、必要のない所までたっぷりと日焼け止めを塗られた僕は何とか暴発を阻止することに成功した。

僕の体で好き勝手遊んだ『義妹』たちは海にはいって思い思いに楽しんでいる。


「お兄ちゃ~ん!はやくはやくー!!」

「今行くー!!」


ユキナに急かされて僕も波打ち際へと歩みを進める。

ユキナとひまりとさくらが腰まで水に浸かって水をかけあってはしゃいでいる。

しずくは一人マイペースに泳ぎ回ってはたまにみんなのもとへ戻ってきてちょっかいを掛けていた。


「おにいー!!これでも食らえー!!」

「うおあっ!!」

――――――――サブ~~~ンっ!!


突然飛びついてきたさくらに押し倒されて早速ずぶ濡れになってしまった。


「お兄ちゃん、大丈夫――――」

「ユキナも道連れだ!!」

「キャアアアァァァァァ」

「「アッハッハッハッハ」」


僕を心配して駆け寄ってきたユキナを怪我しないよう気を付けながら投げ飛ばす。

ユキナの可愛い悲鳴に僕とさくらは大笑い。


「もうっ!お兄ちゃんヒドいっ!!」

「ユッキー、まだ一人だけ無事な子がいるよー?」

「え……あの……ユキナさん?」


さっと顔をこわばらせたひまりが信じられないという顔でユキナを見る。

ユキナはゾンビのように腕を突き出すとのそりのそりとゆっくりひまりに近づいていく。


「ひーまーりーちゃーん」

「あっ……お兄様お助けをっ!!」


かわいい『義妹』の助けを求める声に、僕は笑顔で親指を突き上げた。


「ひまり…………グッドラック」

「そんなー」


ユキナとさくらにまとわりつかれたひまりがそのまま海に投げ出されてしまった。


「にぃに……捕まえた♪」


ひまりの惨状に大笑いしていると、いつの間にか忍び寄っていたしずくに抱き着かれた。


「一緒に泳ご」

「あ、まて、今引っ張られたら……あっ」


バランスを崩してしずくと抱き合う形で海の中にダイブしてしまった。

起き上がり顔を見合わせる。

たまらなく笑いがこみあげて来て僕たちは大笑いした。


「随分遊びましたね」


互いに悪戯しあったり、水中で鬼ごっこしたり、泳いで競争したり、浜辺でカニやらナマコやらを捕まえてみたりと僕らは海の中を存分に満喫した。


「でもまだ昼過ぎじゃん」

「ちょっとお腹すいた」

「お昼ご飯ってどうするんだっけ」

「焼きそば食いたいな。海の家でもあればよかったんだけど――――」

「へいらっしゃいっ!!」


浜辺にあがってぐだぐだ喋りながら歩く僕たちに横合いから厳つい声がかかった。

見ればそこには先ほどまで無かった筈の海の家があるではないか。

その正面でどう見てもテキ屋のおっちゃんにしか見えない厳つい男が手を捏ねながらこちらを見ている。

――――なんだコレ?


「杉下さん、ご苦労様です。昼食はこちらでいただけば?」

「へいっ!焼きそば、たこ焼き、カレーに海鮮焼きとなんでも取り揃えております」


思考停止する僕らの中でひまりだけが平常運転で対応していた。

どうやらこのおっちゃんも黒服集団の一員らしい。


「あの、さっきまでここに海の家なんてありませんでしたよね……?」

「はい。急ぎ手配いたしました」

「手配して出来るものなんスか……?」

「正月坂家の使用人ならば当然のことです」


海の家までわざわざ用意するとは、正月坂家は一体どうなってるんだ……?

黒服集団の謎のポテンシャルに僕は戦慄を覚えてしまう。


なお、即席海の家で提供された焼きそばは、普通にめっちゃ美味かった。


午後からは黒服集団によっていつの間にか用意されていたネットとボールでビーチバレーを楽しみ――運動音痴のひまりというハンデを背負いながらフィジカルエリートのしずくが無双した――、これまたいつの間にか用意されていたよく冷えたスイカと目隠しといい感じの長さの棒でスイカ割りをしたり――じゃんけんに負けたユキナが『はい、じゃあそこで三歩すすんでからアイドルのダンス』というさくらの無茶ぶりに応えて目隠ししたまま見事に一曲踊りきった――、割ったスイカを黒服さんたちに手伝ってもらいながらみんなで食べきったりした。


夕焼けが街を真っ赤に染め上げる中、松本さんの運転する車の助手席で僕はバックミラー越しに遊び疲れて眠る『義妹』たちを眺めていた。

肩を寄せ合うように仲良く眠るその姿に自然と笑みをこぼしてしまう。


「随分と仲がよろしいですね」


隣の松本さんに微笑みながらそう言われてしまった。

ああ、少し恥ずかしいけれど僕はこう答えよう。


「当然です。最高の家族ですから」


世界全部を染め上げる夕焼けは、赤くキレイでとても穏やかな色合いだった。

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