僕は『義妹』たちと夏を満喫して……

僕と『義妹』と夏の到来

GW以降僕の身の回りで発生している謎の『義妹』化現象。

その恩恵に与り四人のカワイイ『義妹』たちとの生活を手に入れた僕であるが、もうこの『義妹』化現象が起きることはないだろうなと思っている。

根拠などないただの勘だ。

ただ何となく僕の心に深く根付いていた家族というものに対するコンプレックスが綺麗に消えており、まあ有り体に言えば僕は既に満たされてしまっている。

故にもう僕に都合のいい例の現象は起きないんじゃないか、と少々楽観的に考え謎の現象について深く悩むことを止めてしまった。


ただまあ、ネタばらしくらいはして欲しいなとは思う訳で、そのうちに『義妹』が手続きに行くという『神社』を探してみようと思っている。

さくらの時に自宅から一〇分足らずで往復できていたことから我が家の近所にあるんだろうと睨んでいるのだが。

それらしい神社なんて家の近所には心当たりが無いのでまたヒマな時にでも『義妹』たちと散歩でもしながら探してみよう。


さて、季節は夏だ。

いつの間にやら梅雨が明け、定期テストを終えた学生たちは終業式で校長の有難いお言葉を聞き流して浮かれた調子で家路についている。

かくいう僕も『義妹』たちとの夏休みへの期待に胸いっぱいだ。

ユキナとひまりと、終業式で部活も休みなしずくとも一緒になって家路を辿る。


「みんなーこっちこっちー。今日はあーしの方がはやかったねー」

「さくらちゃんお待たせー」


別の高校に通っているさくらとも駅で合流して、夏の予定をああでもないこうでもないと話し合いながら歩いて行く。


「やっぱ海っしょ?海は行くっしょ」

「正月坂のプライベートビーチを借りられないか妹に聞いてみましょう」

「しずくちゃんは一先ずインターハイがあるもんね」

「ん……頑張る。あと、パパとママのお墓参りにも行きたい」

「しずしずの実家って北陸なんだっけ?」

「そう。ちょっと遠い。みんなも一緒に来てくれる?」

「もちろんです」


つい会話にも混ざらず和気あいあいと話す彼女たちの楽しそうな姿を見守ってしまう。


「お兄様は何かやりたいことはないのですか?」

「おにいはコミケだっけ?あれいかないの?」

「コミケはパスだな。あれは人が多すぎて寿命が削られる。僕はそうだな……みんなと祭りには行きたいかな」

「いいね、夏祭り!カワイイ浴衣着たいなぁ」


そう、彼女たちの浴衣姿がみたいな、なんて思ってしまったのだ。

幸いみんなも乗り気だ。その日を楽しみにしておこう。


「あー、なんかたこ焼き食いたくなってきた」

「わたしも……たこ焼き食べたい。なんで?祭りの話したから?」

「あーしたこ焼き器もってるよ。今日はタコパする?」

「いいねー!じゃあスーパー寄って帰ろうか」

「たこ焼き……わたくし、自分で作るのははじめてです」


賑やかなお喋りは話題が尽きることもなく、僕らは買い出しを終えて帰宅するその時まで止まることなく会話を楽しんだ。


「はーい、あーしが試運転がてら作ってみたよー」


いつの間にやらたこ焼き器を動かしていたさくらが皿に盛ったたこ焼きを運んできた。

皿には五つのたこ焼き。人数ピッタリであることにそこはかとなくイヤな予感がしている。

ユキナも察して苦笑しているではないか。

どうか分かっていない様子のひまりとしずくが『アタリ』を引きませんようにと願いながら僕たちは一斉にたこ焼きを口にした。


「ガアアアァァァァァーッ!!」

「にぃに!!」

「お兄様!!」


突如絶叫した僕にひまりとしずくが驚いている。

まあこうなるだろうなとは思ったいた。

僕の引きの悪さには少々自身があるのだ。


「み……水……辛い……」

「お兄ちゃん、水だと余計に辛くなっちゃうから……こういう時は、えっと……」

「ユキナさん牛乳です」

「それだ!ちょっと待っててね」


大騒ぎしながら受け取った牛乳で口を漱ぐ。


「さくら……お前なに入れやがった?」

「ジョロキア♪」

「そんなことだと思ったよ」

「あの……何が起こったのでしょうか?」

「これはロシアンたこ焼きって言ってね、一つだけ『アタリ』を用意して誰が食べるかを楽しむものなんだよ」

「タコパをやる人たちのギム?ノルマ?とかそんなカンジの文化かなー」

「義務でもノルマでもねえよ。いらんことしやがって……お前あとで覚えてろよ」

「こわーい、しずしずー、あーしおにいにいじめられちゃうー」

「今のはさくさくが悪い。怒られた方がいいと思う」

「そんなー」


バカみたいにやりとりしながら交代で焼いては食べていく。

歯に青のりをくっつけながら笑い合う僕らの笑顔は、多分きっと、とても輝いていたことだろう。




――――ちなみに。


たこ焼きを自分たちで焼くのが初めてだと言っていたひまりだが。


「ほわっほわっほっほわっ――――」


たこ焼きをひっくり返すたびに変な声を上げながら子供みたいにはしゃいでいた。

あー、この子もこんな顔するんだなー、なんて家族の新たな一面を知るのはいつだって嬉しいものだ。

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