こぼれ話・天使とギャルとあらしの夜に
台風が接近している。
予報によれば夜中から大きく天気が崩れ明日は一日大荒れとなるようだ。
「どーせ明日学校も休みになるんだしさー、みんなでオールで映画でも見よーよ」
ギャルな『義妹』がそんなことを言い出した。
すでにレンタルショップで大量のDVDを借りてきているらしい。
他のみんなも台風でテンションがあがっているのか割と乗り気だ。
僕たちはリビングのラグに直に座りクッションを抱えておもいおもいの体勢で映画を楽しんだ。
大作ファンタジーの三部作を全て見終わったころ、早寝早起きが習慣づいてるひまりとしずくが寝入ってしまった。
二人仲良く肩を寄せ合って寝入るさまは非常に『てぇてぇ』な空気だ。
「二人ともカワイイなぁ~」
ユキナが二人の姿に悶絶していた。
僕もその意見には全面的に同意だ。
「ずっと見ていられそうだよな」
「ふふふ、だよね~」
「でも起きたとき悲惨なことになってそうだな」
寝返りも打てないだろうし体中痛くなりそうだ。
「起こす?」
「いや、僕が頑張って運んでくる」
起こさないように順番に二人を運んだ。
戻ってみるとさくらが次の映画を選び終えていたようでリモコン片手にスタンバイしている。
「次は何みるんだ?」
「んー?今日みたいな夜にピッタリなやつ?」
何だろうか、と思ってタイトルを確認すればホラーだった。
そう、ホラーだ。
我が家の天使な『義妹』が苦手としているものだ。
以前ホラゲをさせてタイトルでギブアップしていたのは記憶に新しい。
思わずユキナの顔を確認してしまう。
「なに、お兄ちゃん?」
どうやらまだ気づいていないらしい。
「さくら、ホラーはやめておけ。ユキナが大変なことになる」
「だいじょぶだいじょぶー。ユッキーが怖がらないようにちゃんとあんま怖くないのにしたからー」
「え…………ホラーなの?」
「やっぱユキナはイヤだよな?もっと明るいのにしよう」
「大丈夫だってー。これは全然怖くないって話だから」
「うぅ……怖くないんだよね……じゃあ、頑張る」
なぜそこで頑張ってしまうのか。
結局さくらに押し切られてホラー鑑賞がはじまってしまった。
嵐の夜に洋館に閉じ込められた集団が猟奇的な殺人鬼から逃げ回るという筋の作品だった。
まあ幽霊とか怪奇現象がでてくるわけじゃないのでこれならユキナも大丈夫かもしれないと思ったのだが――――。
「み゛ゃぁぁぁぁぁーっ!!」
「ギャアァァァァァァっ!!」
早々にユキナがヤバい悲鳴を上げ、それに釣られるようにさくらも叫ぶ。
二人揃って僕の体にぴったりと張り付きガクガクと震えている。
「ユキナはともかくなんでさくらまで怖がってるんだよ……」
「し、知んないしっ!ユッキーの悲鳴のせいで何か余計に怖くなったんだもん」
「ぴゃああああぁぁぁぁぁっ!!」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁっ!!」
二人の悲鳴のせいで何も頭に入ってこないんだが……?
「…………もう見るのやめないか?」
「それはダメっ!!ここで止めたら余計怖くなっちゃう!!」
「ちゃんと最後まで見るしっ!!ちょ、ちょっとびっくりしただけだしっ」
ユキナの意見は分からなくもないがさくらは完全に意地になってるだけだ。
涙目でびくびくと震えながら画面をチラ見している。
結局二人ともビビり倒しながら最後まで見終えてしまった。
「お、お兄ちゃんたしゅけて……怖い……怖いよぉ」
「だからやめとこうって言ったんだよ……」
「いないよね?この家に斧持った変な奴いないよね?」
「いるわけないだろ……」
そう口にした瞬間、外で稲光が光った。
――――あ、マズい。
先ほどまで劇中で何度も聞こえてきた轟音が現実世界で鳴り響く。
雨戸を叩く雨の音も一段と激しくなっていた。
「にゃああああぁぁぁぁおにいぢゃぁぁぁぁぁぁん」
「ぎゃああああぁぁぁぁアイツが来ちゃうぅぅぅぅぅぅ」
二人に抱き着かれて背骨が軋む。
しばらくぎゅうぎゅうと締め付けられているとさくらがおもむろに顔をあげた。
「おにい!えっちしよ!!気持ちよくなれば多分怖くなくなるから!!」
その目は据わっていた。
バカな事を言い出したさくらに反論しようとするとユキナまで顔を上げ据わった目でこちらを見てきた。
「それだよ!お兄ちゃん!!えっちしよう!!頭がバカになっちゃえば怖くなくなるからっ!!」
じりじりと追い詰めるように二人の『義妹』が僕の服の裾を持ち上げてくる。
「おいっ!!二人とも落ち着け!!何か明るい映画みよう!!その方がこわくなくなるだろ!!な?」
「えっちしてよぉぉぉぉ怖いんだよぉぉぉぉぉ」
「きもちよくしてぇぇぇたしゅけてよぉぉぉぉ」
もはや僕には泣き叫びがらセックスをせがんでくる二人の方がよほどホラーだった。
そしてまたも響く雷鳴。
「キャアアアアァァァァァお兄ちゃんはやくはやくぅぅぅぅぅぅ」
「にゃあああぁぁぁぁぁおにいぃぃぃぃぃぃしてよぉぉぉぉぉ」
なんだこれ。
全然そそられない誘いに押し切られる形で、僕は朝が来るまで二人の悲鳴と嬌声を聞くハメになった。
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