僕と『義妹』のサプライズ

『義妹』が四人に増えて、しずくもさくらもすっかり我が家に馴染んで僕らはさも当然のように五人で家族として暮らしている。

毎日賑やかに楽しい日々を過ごし、時折悪ノリが過ぎてはバカな失敗を仕出かしたりもした。

楽しい時間というのは過ぎ去るものもあっという間で、気付けばもう七月だ。


最近、『義妹』たちに何か隠し事をされている。

大抵いつも通りなのだが、時々こそこそと相談事をしており、僕が近付くと話し止めてしまう。

別に邪険にされているわけではないし、彼女たちが僕の陰口を楽しんでいるとも思っていない。

だけど、なんだか面白くない。


「なあ、なに隠してるんだ?」


思い切ってさくらに聞いてみた。

僕に対して遠慮のない彼女なら言うべきではないこと以外なら割となんでも話してくれるハズだ。

こういうとき気安い彼女の存在はとてもありがたい。


「あー、あれね。おにぃが知るべきじゃないかなー?」

「困りごととかじゃないのか」

「そんなんじゃないよー。そのうち分かるから今はスルーでヨロシク」

「めっちゃ気になるんだが……」

「今はダメー。ネタバレしたらつまらないじゃん」


そう言われてしまえばそれ以上聞けない。

まあ、悪い話ではないようなのでネタばらしされるまで大人しく待つしかないのだろう。


が、やはり気になってしまうのだ。

もやもやとしながらつい学校で剛に愚痴ってしまった。


「メグ。お前マジでわからねえの?」


呆れたように言われてしまった。


「分からないからモヤってんだろ」

「はぁ。明日は何の日だ?」

「明日?七夕だろ?」

「お前マジかよ……」


正気を疑うような顔で見られてしまった。

明日は授業も平常だし他にこれといったイベントも思いつかないのだが……。


「もしかして七夕って普通は家族で何かやるものなのか?」

「いや、そうじゃねえよ」

「じゃあなんなんだよ」

「それは俺の口から言うべきじゃないな。明日には分かるからそれまで待ってろ」

「一人だけ分かったような顔しやがって。一体なんなんだよ……」

「下手なこと言って更紗に怒られたくないからこれ以上は聞くな」


思いっきりため息を吐かれてしまった。

ため息吐きたいのはこっちの方だ。

つうか、何で僕の相談に乗ったら中里が怒るんだよ。

もしかして中里って僕のこと嫌いなのか?

もやもやがさらに増した状態でその日を過ごした。


明けて翌日。

その日は朝食の席からなんとなくみんな浮ついていた。


「みんな今日の予定は分かってる?」

「ばっちしー。アレはあーしが学校帰りに買ってくるから」

「例のモノはわたくしの方ですでに受け取ってあります」

「ん……今日の部活は自主練だからはやめに帰る」

「なあ、何の話なんだ?」


何か僕にわからない会話をしている『義妹』たちについ口を挟んでしまった。

みんな揃って顔を見合わせて何か企むような笑みを浮かべている。

一体なんだというのだ。


「今日の夜には分かるからね。お兄ちゃん今日は予定ないよね?」

「ああ、特にないな」

「じゃあ今日は寄り道せずに真っ直ぐ帰ろうね」


結局、僕は何もわからないままその日を過ごし、家に帰ると部屋に押し込まれリビングに近づくことを禁じられてしまった。


「お兄ちゃ~ん、準備できたからリビングに来て~♪」


ユキナに手を引かれてリビングに顔をだす。

そこには、ささやかなパーティ会場が出来上がっていた。

壁には色とりどりの飾り付け、机には常より豪華なご馳走の数々と中央にはホールケーキ。


「「「「お誕生日おめでと~」」」」


パパァ~ンとクラッカーの音が鳴り響く。


「あ、あー……あー……そっか、誕生日か」


ビックリしてしまった。

僕の誕生日なんて書類に記入するとき以外は使われないものだ。

誕生日が祝い事だというのは知っていたが、僕には関係ないものだと思っていた。

だから今の今まで今日が自分の誕生日だとも気付いていなかった。


「どう、お兄ちゃん?吃驚した?」

「あ、ああ。すげえ驚いた。そっか今日僕の誕生日だったな」

「お兄様、気付いてなかったのですか?」

「ああ。祝われたことなんてなかったからな」

「これからは毎年祝う……みんな一緒に」

「嬉しいな……うん、嬉しいよ」

「サプライズ成功だね。ね、ネタバレしなくてよかったっしょ?」

「まったくだ。いや、参った……すげえビックリだわ」


僕は今感情が追いつかなくなってしまっている。

彼女たちの笑顔と温かな気持ちが僕の心にゆっくりと浸透していく。


「あー……その……なんだ…………めっちゃ嬉しい。ありがとう」


しどろもどろになりながら言えば、僕の『義妹』たちはより一層笑みを深めてくれた。


「お兄ちゃん、あらためてお誕生日おめでとう。これはユキナたち四人からのプレゼントです」


ご馳走をあらかた食べ終え、生まれて初めてバースデーケーキというものを堪能した僕にユキナが代表してプレゼントを手渡した。


「お兄ちゃんと一緒に過ごす初めての誕生日だからみんなで相談して特別なものを贈ろうって用意したんだ。開けてみて」


小さな箱を包む包装紙すら大事に思えて僕はゆっくり破いてしまわないよう丁寧に包装をはがしていく。

露わになった箱を開けるとそこには品の良い木製の箱が入っていた。

『義妹』たちの顔を一度確認してから箱を取り出しそっと蓋を開いてみる。

柔らかな音色が部屋に沁み込んでいった。 

オルゴールだ。

使われている曲は多分『ブラームスの子守歌』。

その穏やかな旋律が『義妹』たちの愛情のように感じられた。


「蓋の内側も見てみて」


促され目をやればそこには金属製のプレートがはめ込まれていた。


『永遠に、共に


ユキナ・ひまり・しずく・さくら

       &

      めぐる      』


たった数文字の何より雄弁なメッセージが刻まれたプレートは、すぐに滲んで見えなくなってしまった。

僕の視界を邪魔するものが頬を伝ってこぼれていく。


『義妹』たちがそっと僕を包み込むように抱きしめてくれた。


「生まれてきてくれてありがとう、お兄ちゃん」


生まれてきたことがこんなにも喜ばしく感じるのは、生まれて初めてのことだった。

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