僕とギャルの祈り
さくらの荷物を持ってきた段ボールに詰め、そのほとんどは宅配を手配してしまい、手元に残した残りを台車に乗せて僕たちは帰宅した。
すぐにさくらの部屋を用意してやらねばならんのだが、僕ら持ち帰った段ボールすら放置して抱きしめ合ったままベッドでごろ寝している。
何もせず、昼食すら抜いてただじっとお互いの存在を確かめあっていた。
「さっきあーしのこと僕のさくらって言ってたじゃん」
「ああ」
「まだおにぃのじゃないよね」
「そういう意味ではまだだな」
「今すぐしてよ」
起き上がったさくらがそんなことを言い出した。
僕だってしたい。
「まだ昼間だぞ」
「関係なくない?」
「関係なくなくない?」
「別にいいじゃん。誰かにめーわくかける訳でもないんだし」
「…………それもそうだな」
確かにその通りだ。
「ねえお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「一回目はおにぃと『義妹』じゃなくて四季めぐると春島さくらでしたい」
つまり以前の関係性でしたいということか。
それは過去を終わらせて未来を迎える儀式のように思えた。
「いいぞ」
「じゃあ、メグぴょい」
「メグぴょいはやめろ」
「じゃあめぐる?」
「春島」
「そこは名前じゃないわけ?」
「さくら」
「めぐる……」
僕らに遠慮なんて無用なモノだ。
唇を重ね、遠慮なく舌を突き出すと向こうも同じ考えだったのか境界線でぶつかり合い、驚いて顔を離してしまった。
見合う顔に笑いが浮かぶ。
「がっつきすぎだろ」
「そっちこそ」
次もやっぱり境界線でぶつかり合うが今度は離さずそのまま絡まり合う。
何度もキスしながら互いの服を脱がせあう。
「それで、あーしの身体見た感想は?」
「やっぱり生意気なおっぱいだな」
「生意気じゃねーし」
「しかしデカいな……何カップだ?」
「デリカシーって知ってる?」
「知ってるが生憎今は手元にないな」
「マジさいあく」
「で、何カップだ?」
「Eカップ」
「マジかよ……すげえな」
「かわいくおねだりしたら好きに触る許可あげるけどー?」
「無許可で触るから結構です」
「キャー」
口では軽口を叩き合いながらも僕らの体はせわしなく、絡まり合いながらベッドに倒れ込んだ。
お互いが欲しくて欲しくて、頭がおかしくなりそうだ。
二人もつれあいながら気付いた時には座ったまま向かい合って抱きしめ合う体勢になっていた。
さくらは腕も脚も僕の背中に回して絶対に離さないと言わんばかりにぎゅうぎゅうと僕の背骨を軋ませる。
「背中、すげー痛いんだけど」
「知らない」
「ちょっと緩めてくんない?」
「絶対ヤダ」
「なんでさ?」
「離れたくないもん」
その顔が可愛くて、愛しくて、切なくて。
負けじと強く抱きしめれば互いの鼻先が触れ合う程に顔が近付く。
言葉すらも不要なものになってしまった。
唇を塞ぎさくらが抱えてきた悲しみや苦悩を全部吸い上げようとすれば、彼女も僕の内側にあるものをすべて飲み干そうとしてくる。
互いを労りながら不要なものを吸い出して空いたスペースにもっと別のあたたかなものを注ぎ合う。
僕らは自分たちがいつ果てたのかもわからぬほどにキスに没頭していた。
「さくら……」
「めぐる……」
一度だけキスを中断して互いの名前を呼び合い、それだけで満足してさっきよりさらに深いキスを再開する。
繋がりを解くことすら忘れ抱きしめ合ったまま、僕らはかつての『かわいそうな僕とさくら』のために静かに涙を流した。
***
夕方、未だ裸で抱きしめ合っていた僕とさくらは帰宅したユキナたちにそれは盛大に叱られてしまった。
「昼間っからなんてユキナたちもしたことないのに……ずるいよ!」
「わたくしは朝も昼もお兄様に尽くしたいと思っておりますのに……」
「わたしも……昼からしたい……」
なんか僕の予想とは全然違う形で怒られてしまった。
この子たちはこれで大丈夫なんだろうかと心配になってくる。
結局次の休日に爛れた生活を送ることを約束させられてしまった。
今は順番に関して激しく議論している。
「もういっそさ、全員まとめてやっちゃえばよくない?」
一緒に怒られていたはずのさくらがそんな爆弾を落としやがった。
唖然とする僕をしり目に『義妹』たちはキャーキャーと楽しそうに笑い合っている。
楽しそうに笑うさくらの姿には『かわいそうな春島さくら』の影はどこにも見当たらなかった。
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