僕とギャルとギャルゲ

日曜日、僕は行きつけのゲームショップへと向かっていた。

明日から中間テストが始まるのだが、今日は剛と中里は二人きりで頑張るらしいししずく先輩にはひまりがついていて、ユキナもサポートしている。

要するに僕はヒマなのだ。


そもそも明日のテストより僕には新作ギャルゲの方が大切だ。

なにせ以前から三部作と噂されていたシリーズの三作目なのだ。

過去二作で放置された伏線をどう回収するのか、楽しみでしょうがない。


そういう訳で、ウッキウキで街を歩いている。


颯爽と店内に飛び込んで店を一周物色してまわる。

他に買うものが無いと確認してからお目当ての新作コーナーへ。

パッケージを手に取りさっさとレジを済ませようと振り返った所で隣の客とぶつかりそうになる。


「おっと失礼……」

「こちらこそー」


「「………………あ」」


目線を上げるとそこには僕のよく知る派手なギャルがいた。

春島さくらが僕と同じものを持って間抜け面でこちらを見ていた。



レジを済ませて何となく、二人連れ立って近くの公園へ。

ブランコに並んで腰かける。


「お前もギャルゲやるんだな」

「悪い?」

「悪くはないが、昔バカにしてなかった?」

「別にいいじゃん……」

「まあ、別にいいけど……何かきっかけがあったのかなって」

「きっかけって訳じゃないけど、ただ――――」


少しばかり顔を赤くして彼女が話す内容に僕は驚いてしまった。


「つまり何か、僕と会話するネタのためにやり始めてハマってしまった、と。お前どんだけ僕のこと好きなんだよ」

「うっさい」

「かわいいやつめ」

「死ねっ」


こいつがこんなカワイイ性格してるとは知らなかった。

僕目茶苦茶好かれてるじゃん。

多少の好意を持たれている気はしていたが、ここまで好かれているとは照れてしまう。


こいつは、春島さくらは美人だ。

ギャルだし、吊り上がった目のせいで生意気にしか見えない顔立ちだが、それすら魅力にしてしまう美少女だ。

内面だって悪くない。僕が数少ない友人の一人と認めるくらいには好感を持てる人間だ。

僕の二人の『義妹』によって厳しくなった基準をもってしても、彼女は『魅力的な女性』だと言えよう。

そんな春島に好かれてると知れば、そりゃあまあ、悪くない気分になる。

結局最後まで、僕が茶化しても春島はそれが『過去の話』だとは言ってこなかった。


ふと、別のことが気になった。

こいつの交友関係を把握してるわけではないのだが、こいつはギャルで、周囲も似たような奴が集まっているだろう。

ならばギャルのくせにギャルゲを趣味とするこいつに、同じ趣味を語れる相手はいたのだろうか。

きっといなかっただろう。

ネットでいくらでも人と繋がれるからといって、現実で趣味を語れないのは寂しいものだろう。

であれば僕がこいつの趣味語りに少しばかり付き合ってやってもいいだろう。

なにせこいつは僕の大事なネグレクト仲間だ。


「僕はゆりあ様が推しだ」

「……うわ、ツンデレじゃん。あんた現実なら嫌いなタイプっしょ」

「二次元なら愛せるんだよ」

「何それ……キモっ」

「うるせー。キモくねーよ。お前は?」

「南ちゃん」

「テンプレのぶりっ子キャラじゃん。お前こそ現実なら嫌いなタイプだろ」

「二次元なら愛せるっしょ」

「お前も言ってんじゃねーか」


唐突に推し談義を始めれば、少しの間硬直しつつも乗ってくる。

それから嬉しそうに推しの魅力を語る春島に、優しい僕は満足するまで付き合ってやった。


「ねえ、メグぴょい」


帰り際に春島に呼び止められる。

その顔には迷子の子供のような不安そうな色が浮かんでいた。


「なんだ?」

「この前言ってたこと」

「この前?なんか言ったか?」

「あーしが困ってたら『連絡しろ』って」

「ああ、言ったな。助けるぞ。困ってるのか?」

「ううん、聞いてみただけ」

「そっか」


一瞬見えた心細そうな表情は今はもう勝気な笑みに隠れてしまった。


「そんじゃあ、メグぴょい……またね」

「ああ、またな」

「バイバーイ」


大きく手を振りながら機嫌よさそうに立ち去る春島。

妙に彼女のことが心配になって僕は、見えなくなるまでじっと彼女の背を見送った。

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