僕と人魚姫と勉強会

というわけで勉強会に急遽、夏海先輩が加わることになった。

僕は二人を先に帰して夏海先輩と二人、先輩の住む寮に寄って勉強会に必要なものを回収する。

僕たちが帰宅すると、既に剛と中里は家に来てリビングでユキナとともに勉強していた。


「メグ…………助けてくれ……」

「上目遣いヤメロ。ゲロ吐きそうなほどキショいんだが?」


僕の姿を認めた剛が涙目で上目遣いに縋りついてきた。

その姿はまさしく視界の暴力で、僕は剛に蹴りを入れてさっさと排除する。


「夏海先輩はとりあえず出題範囲の確認して、苦手科目を中心にひまりに教わりましょう。とにかく赤点回避最優先で」

「…………ん…………ひまりちゃん、よろしく」

「ええ、おまかせください」


夏海先輩が勉強を始めたのを見届けてから剛たちの様子を見る。


「んで、お前らは何がヤバいの?」

「す、数学……あと物理も……」

「古文と世界史、それと化学も怪しい……」

「中里は理系科目で剛は相変わらず暗記が苦手、と」


二人の苦手が見事にバラバラだ。

とりあえず剛には僕のノートを見せる。


「暗記は自分で覚えやすいように知識を整理していけ。僕のやり方だとこんな感じだ。パッと見て直感的に理解できるノートを作るのがコツだ」

「お、あ、おう、めっちゃ見やすいな、これ」

「四季ぃ~私は……」


中里に急かされる。


「……とりあえず数学からやろうか。当然教科書に出てくる公式くらいは覚えているよな?」

「…………多分」

「今すぐ覚えろ。話はそれからだ」


やるべき事を提示しつつ詰まった所を適宜解説していく。

なんだかんだと二人とも真面目で決して頭が悪いわけではないので順調に勉強を進めることができた。

初日からこれならテスト開始までには一通り終えることができるだろう。

夏海先輩も頑張っていた。


「ではしずくさん、この問題からやってみましょう」

「……ん…………こう?」

「いいえ、しずくさん……数学は問題文を理解するのが肝要です。もう一度落ち着いて問題文を読んでみましょう」

「ん……あ……こう、かな?」

「そうです、よくできました。その調子で次に行ってみましょう」

「ん……がんばる」


夏海先輩とひまりはいいコンビのようだ。

ひまりはいつの間にか夏海先輩を名前で呼ぶようになっている。


夕飯の時間が近付いて、勉強会はお開きとなり剛と中里は二人連れ立って帰って行った。

夏海先輩はというと、うちで夕ご飯を食べていくことなった。

どうも寮で一人暮らしをする先輩をひまりが心配して誘ったらしい。

我が校の学生寮は寮とは名ばかりで、食堂もなにもついていないんだとか。

食卓で楽しそうに食事をほおばる先輩とその世話をせっせと焼くひまりの姿がかわいくて、ユキナと二人こっそり笑いあった。


夕食後、僕は先輩を寮まで送り届ける。

家を出た夏海先輩は心なしか寂しそうにしょんぼりしていた。


「めぐる…………迷惑」

「迷惑だなんて思ってませんよ。ひまりも楽しそうだったし」


そう、いつも受け身に回るひまりが珍しく積極的で、僕にはとても楽しそうに見えたのだ。


「ひまりちゃん……とてもいい子」

「ええ、いい子です。これからも仲良くしてやってください」

「うん………………ぁぅ」


何かを言いかけてやめる夏海先輩。

首を傾げているとゆっくりと首をふる。


「ちょっとうらやましくなっただけ」

「ええと、うちがっスか?」

「うん」

「いつでも遊びにきてください。ていうか明日からも試験までは入り浸るでしょ?」

「うん…………うん…………ありがと」


言えば、柔らかな笑顔で何度も頷く夏海先輩。

スレンダーで大人っぽい美人なのに、その笑顔は童女のようにあどけないものだ。


気がつけば寮の前まで来ていた。


「じゃあ夏海先輩、また明日っス」

「……しずく」

「ええと……?」

「しずく……呼び方」

「しずく先輩?」

「ん……また明日」


寮に入っていく先輩の背中は少しばかり嬉しそうに見えた。

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