僕は『義妹』でハーレムするらしい

僕と人魚姫とテスト

我が親友に春がやってきたようだが、僕たち学生にはそれ以外にも迫ってきているものがある。

そう、テストだ。

一週間後にはじまる中間テストの日程と出題範囲が発表されテスト期間に突入したその日の昼休み、昼食を摂りながら青い顔をしている愚か者が約二名いた。


「ヤバい。今回超絶範囲広いじゃん。今からじゃムリ。絶対ヤバい。更紗は大丈夫か?」

「剛も?……ハハハ、一緒だね。私もムリ。全然勉強してなかった。赤点取ったらしばらく部活禁止になっちゃう」


いつの間にか名前で呼び合うようになったカップルが震える様をしり目に、僕はいつも通りにユキナ達と談笑しながらお弁当を楽しむ。

ユキナは困ったように笑い、ひまりも苦笑している。

ニヤニヤ笑ってると中里さんが絡んできた。


「ユキナはともかく、四季はなんでそんな余裕なわけ?諦めちゃったの?」

「問題ないからだが?つーかテスト直前に慌てて詰め込んでも身に付かないだろ」

「え?なに?もしかして私いま四季に正論言われてる……もうヤダ死にたい」

「おい中里失礼すぎるだろ」

「更紗……残念ながらメグはめちゃくちゃ頭いいんだ」

「え……全然みえない」

「うるせーよほっとけ。勉強なんて教科書読めば全部書いてあるんだからわかるだろ」

「出た……賢い人特有のトンでも理論……」

「それが俺たち凡人には出来ないってことを何で分かってくれないんだろうな……」


バカップルがクソ失礼なことを言ってくる。


「うーん、私はちゃんと授業聞いて、分からないところはその都度復習してるしなぁ……」

「わたくしは高校のカリキュラムはすでに終えてますので……」


ほら見ろ僕の『義妹』たちもこう言ってるじゃないか。

真っ白になる二人に困った顔でユキナがこちらをじっと見つめてくる。


「はあ~。剛、これから毎日中里連れて家に来い。最低限の対策は立ててやる」

「マジかっ!やっぱ持つべきものは親友だな!」

「おお四季よ!あなたが神か!」


調子のいい奴らめ。

バカ二人に呆れてため息をついていると、ユキナはニッコリと笑ってくれた。




放課後、一旦家に帰ってから我が家に来るというカップルと別れて僕たち三人が連れ立って帰宅する。

その途中夏海先輩を見かけたのだが……随分と様子がおかしかった。

フラフラと生気のない様子で、どんよりとしたオーラを背負う後ろ姿はゾンビのようで。


「夏海先輩」

「…………後輩クン…………絶望……」


ぬるりとこちらを振り返り、眠たげな目を死んだ魚のように濁らせた様は実に不気味だった。


「あー、テスト期間は部活全面禁止っスもんね」

「…………てすと…………」

「赤点取りそうなんスか」

「…………絶望」

「友達とかに教えてもらったりは……」

「……ともだち…………いない……」


男からは高嶺の花扱いで女からは珍獣扱いされてるもんな。

女の先輩が時々餌付けに成功して喜んでるのを見かける。

夏海先輩はとうとうしゃがみ込んでしまった。

ひどい有様だ。


「あー、手助けしたいんスけど、僕も三年の勉強はな…………あ」


ひまりの姿が目に入った。

そっと先輩から距離を取りひまりとコソコソ相談する。


「ひまりって三年の勉強教えられる?」

「一通り理解はしていますが……」

「赤点回避さえすればいいから……頼んでもいいか?」

「お兄様の頼みなら喜んでお引き受けします」

「すまんな……助かる」


ユキナに背中をさすられ励まされる夏海先輩のもとに戻る。


「先輩、これからうちで勉強会しましょう。うちのひまりが先輩の勉強教えられるそうなんで」

「…………いいの?」

「もちろんです。な、ひまり?」

「夏海先輩、お兄様の『義妹』のひまりです。わたくしがサポートしますので一緒に頑張りましょう」

「『義妹』ちゃん…………『義妹』ちゃん」


感動したようにひまりを見つめ、それからすっとユキナに目を向ける。

何だろうこれ?呼び名が被ったってことか?


「名前で呼んだらどうです?」

「おお」


ピシっとひまりを指さし、


「ひまりちゃん」


そのままユキナを指さし、


「ユキナちゃん」


そして僕にも指を向け、


「めぐるちゃん」

「僕にちゃんづけは必要ねーです」


思わずツッコめばユキナもひまりも笑っていた。

先ほどまでどんよりだった夏海先輩もニッコリ笑っている。

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