僕と『義妹』の両親
楽しい食事はあっという間に終わってしまった。
「さて、お父さんとお母さんはめぐるくんと話をするからみんなは別の部屋で遊んでてくれるかな?」
不安そうにこちらを見るユキナに笑いかけて退出を促す。
ここからが今日この家を訪れた本題。ご両親との面談の始まりだ。
さて、現状をどう説明すべきか。
「ああ大丈夫だよ。別にめぐる君に文句言ったり嫌味をいう訳じゃないから。僕たち夫婦は君を歓迎しているからね」
「あの、えっと、僕にはなぜユキナさんが僕の『義妹』になっちゃったのか全然わからないんですが……」
正直に、説明を求められても困ると牽制すれば二人は顔を見合わせて笑い出した。
「それは僕たち夫婦にもわからないからね」
「あの子の手続きとやらに夫婦でついていったんですもの。手続きするのになんで神社なのかしらね」
「いきなり『義妹』になるなんて言い出したのも驚いたけどねー」
「おかしなことの筈なのに妙に違和感がなかったのよねぇ」
「あの、そんな軽い感じでいいんですか?」
予想外の話の展開に、つい尋ねてしまった。
「よくはない筈なんだけどね、何か不思議な力が働いてると考えれば却って僕たちには納得がいったんだ。……あの子は昔からずっと君を探していたんだね」
その言葉に以前ユキナが話していたことを思い出した。
「あの子は小さい頃よく泣いていたの。『どこにいるの?』って。
誰を探しているのか本人ですらわからなくて、ずっと寂しそうにしてたのよ。ほんの少し、家族にしか気付かれない程度にだけどね」
「だけど今日君と一緒にいるあの子は寂しさなんて感じていなくてとても幸せそうだった。あんなに憂いなく楽しそうに過ごす姿は僕たちも初めて見たよ。
だからね、やっと探し人を見つけられたんだって安堵してるんだ」
「なんで『義妹』なのかはよくわからないけれど。何か不思議な力が働いて、早めにお嫁に行っちゃったんだって思うことにしたのよ」
「ユキナに聞いたけどめぐる君は今日ここに来る前に戸籍の確認したんだって?どうだった?」
「しっかりユキナが『義妹』になってました」
「ならもうしょうがないよね。戸籍まで書き換えられる相手なんて僕ら一般人じゃあ対処できない事態だ」
「あの子がちゃんと幸せならそれでいいの。よくわからない事なんて考えても無駄だわ」
夫婦揃って優しい目でこちらを見つめてくる。
「とはいえ僕も父親だからね。おかしな相手なら無理やりにでも家に連れ戻そうと思って君のことを調べてみたんだ。君には失礼な話だけどあの子は僕たちの大切な娘だからね。
これでも僕は有名レストランのオーナーシェフで、それなりの人脈もあるからね。君のご両親の噂も聞いていた」
「いや、それはむしろ当然だと思います。僕が龍斗さんの立場でも同じことをしたと思いますし。両親がクズだったのは有名な話ですから」
「だから君がどういう人間か知りたくて、伝手をたどって君のことをよく知る人物に聞いてみたんだ。君は的場さんを知っているね」
「はい。父の元秘書で、今は父がやっていた会社の社長をやってます。幼少のころから父の代わりに世話を焼いてくれた恩人です」
「その的場さんがこう言ったんだ。
『彼は私にとってもう一人の自慢の息子です。あの地獄みたいな環境からよくあれだけ真っ直ぐ育ってくれたと尊敬すらしてますよ。
私が今社長の椅子に座ってるのはいつの日か彼にこの会社を引き継ぐためです。彼が社を率いる姿を見るのが今から楽しみですよ。
そういう訳で、四季めぐるの人格は私が保証します』
人格者で有名な的場さんがここまで言うんだから君を信じてみようと、そう思えたんだ」
――――的場さん。迷惑ばっか掛けてたのにそんな風に言ってくれるなんて。
大恩人への感謝で目頭が熱くなる。あの人には何度も助けてもらった。ずっと僕にとって唯一信用できる大人だった。
仕事が忙しいはずなのにわざわざ時間を作って僕の様子を見に来てくれた。それは今でも続いている。
今度改めてお礼をしよう。ユキナのことも紹介したいし。
そんなことを考えていると、二人が姿勢を正してこちらを真っ直ぐに見つめてきた。
「というわけで僕たち夫婦は君に娘を託します。出来れば僕たち夫婦のようにあの子と仲良く幸せな家庭を築いて欲しいな」
「きっとめぐる君なら大丈夫よね。あの子はちょっと甘えん坊だから手を焼くかもしれないけれど、よろしくね」
「はい……ちゃんとユキナさんを幸せに出来るように精一杯努力します!」
未熟な僕の精一杯な決意表明に二人は柔らかな笑顔を浮かべてくれた。
「それはそうと、まだ学生なんだからちゃんと避妊はしなさいね」
茶目っ気たっぷりにレナさんが落とした爆弾のせいで、龍斗さんの雰囲気が少しばかり怖くなった。
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