僕と『義妹』の定義

朝起きたら隣にユキナの姿は無かった。

そのことに少しばかり落胆して昨日のことはやはり夢だったんじゃないかと思ったが、彼女の持ち込んだ枕と布団に僅かに残る体温がその可能性を否定していた。


昨日は幸せムードに押し流されてしまったがやはり謎の『義妹』化現象についてはよく考えなくてはいけない。

ことは僕だけではなくユキナの人生にも関わってくるのだ。

高校生のうちから同棲など世間体も悪いし色々問題になるはずだし、やはりこのままズルズルとなし崩し的に同棲してしまうよりは一度彼女を家に帰して――――


「お兄ちゃん、おはよ~♪」


――――手放したくないんだよなぁ。


部屋に笑顔で飛び込んできたユキナを見てそう思ってしまった。

やはり僕は随分とこの可愛らしい『義妹』に依存しているらしい。


「お兄ちゃん、朝ごはんもうすぐ出来るから急いで顔洗ってきてね」


ちゅっと頬にキスして台所へと戻っていく。

依存したってしょうがないじゃないか、彼女がいるだけでこんなにも幸せな気持ちになってしまうのだから。


朝食を摂り後片付けを済ませてコーヒー片手にまったりタイムに突入する。


「なあユキナ、『義妹』って何なの?」

「どういう意味?」


今朝から随分と葛藤してしまったが、やはりこれについては聞いておかねばならない。

なにせ世間一般の義妹と彼女が口にする『義妹』には大きな隔たりがあるのだから。


「いやさ、ユキナは『義妹』の特権とかって昨日からよく口にしてるだろ?あれ何なのかなって」

「んむむ、『義妹』の特権は『義妹』のもつ特権のことだよ」

「役に立たない辞書の説明かよ。そうじゃなくて僕の知ってる義妹と色々違うのは何でなのかなって」

「ふむ、ならば説明しましょう!

 『義妹』とは血縁のない戸籍上の妹でありなおかつお兄ちゃんのことが大好きで、お兄ちゃんに尽くしたくてしょうがない生き物なのです。

 『義妹』にとってお兄ちゃんに喜んでもらうことは最上の喜びで、お兄ちゃんに愛されることが最大の幸福なのです。

 『義妹』は家族なので一緒に暮らすのは当然でごーほーなのです。

 『義妹』は血がつながってないからえっちなことをしてもごーほーなのです。

 そして『義妹』は妹であって恋人ではないのでお兄ちゃんが他の『義妹』を増やしても浮気にならずごーほーなのです。

 つまり『義妹』とはお兄ちゃんだけを心から愛する、お兄ちゃんにとって都合のよい愛すべきスペシャルな存在なのです!」


――――なんか雑なエロゲの設定みたいだな!


つまり『義妹』とは常に好感度MAXで同棲もエッチも浮気も許されるひたすらに溺愛してくれる存在ってことか。

若干愛が重い気もするけど控えめに言って最高だ。

だがしかし。


「ユキナはそれでいいのか?」

「なんで?」

「いや、ユキナは凄い美人だし学校でも人気で僕よりももっといい男と付き合うことだってできるだろ。

 なのにこんな僕にだけ都合がいい存在でいていいのか?」

「お兄ちゃんは昨日楽しかった?幸せだった?」

「……うん」

「ユキナも同じくらい、ううん、それ以上に楽しかったし幸せだったんだよ?」

「いや、でも昨日僕が告白したとき、あの時ユキナは断るつもりだったよね。それなのに急にそんな風になるっておかしくないか?正直催眠とか洗脳とかを疑ってる」


そうだ。僕はそこに引っ掛かっていたのだ。

もしも彼女のこの笑顔や愛情が彼女の意思を捻じ曲げられた結果なのだとしたら僕は――――


「ユキナはね、ずっと『誰か』を探してたんだ。

 それが誰でどんな人なのかは分からないんだけど、いつか必ず会えるって確信だけはあってね。

 その人をずっと待ち続けて、男の子に告白されてもずっと断って来たんだ。

 だからあの時も断ろうと思ってて、でもね、お兄ちゃんから、四季めぐる君から告白された瞬間に不意にわかっちゃったの。ああこの人だって。

 頭の中に鈴の音が鳴り響いて幸せな気持ちが溢れてきたんだ。会いたかった、大好き、ずっとそばにいたいって。

 冬木ユキナがずっと満たされずにいた思いがあの時たしかに報われたの。冬木ユキナはこの人の『義妹』になるために生まれてきたんだって確信したの。

 もしかしたらあの時何か不思議な力にかかっちゃったのかもしれない。

 でもね、ユキナのこの気持ちは間違いなくユキナのものだよ。

 だからお兄ちゃん、ユキナの愛を疑わないで……」

「…………悪かった」


泣きそうな顔で、懇願するように言われてしまえば、もはやそれ以上何もいう事が出来なくなってしまった。

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