僕と『義妹』の第一次お風呂戦争

晩御飯を食べて後片付けを終えたら次はお風呂だ。

いつの間にやらユキナが風呂の準備まで済ませてくれていたらしく、そのまま一番風呂をいただくことになった。

何から何まで至れり尽くせりで、僅か半日の間に僕は随分とダメ人間になってしまったようだ。


「しかし、色々マズいよなぁ……」


風呂で一人ため息をこぼす。

冷静に考えるとかなりヤバい状況だ。

彼女が、ユキナが、僕が入学以来一年片思いしつづけたあの冬木ユキナが家に住むのだ。

天使のような、アイドルの如く輝く美少女との同棲なんて思春期男子には荷が重い。

しかも何故か好感度MAX状態だし。『義妹』とか自称してるし。


「おっと、ぼんやりせずにさっさと洗って出なければ……」


後がつかえているからというのもそうだが、この半日の彼女の言動を鑑みれば、『背中を流す』とかそんな理由で風呂に乱入――――


「お兄ちゃ~ん♪お背中流しに来ましたよ~♪」

「ドウェイッッッッ!!」


――――してきたんだよなぁ。


「いや、おまっ、それはマズいだろ。いやいやいやいや、何男の風呂に乱入してきてんの?」

「そりゃもちろんお兄ちゃんのお背中流すためだよ?」


彼女はバスタオル一枚体に巻いただけの姿で現れた。


「そ、そ、そんな恰好で男の前に出ちゃいけませんっ」

「でもお兄ちゃんだよ?」

「でももへちまもありませんっ」

「お兄ちゃん、『義妹』の全てはお兄ちゃんのものなんだよ。だからお兄ちゃんは好きなだけユキナの体を見ていいんだよ?」


――――何言ってんだこいつ。

『困ったお兄ちゃんだな』みたいな顔で諭すように滅茶苦茶なことを言い出した。


「そ・れ・に~、じゃじゃ~ん♪下には水着を着てるから問題なしです」

「問題しかねーよっ!まず僕が裸なんだからねっ!男は野獣なんだからねっ!そんな無防備だと性欲のままに襲われちゃうんだからねっ!」


思わず似非ツンデレ語尾になりながら彼女の暴走を食い止めようとするが、この程度で止まる訳もなく。


「お兄ちゃん。『お兄ちゃんへのご奉仕』は『義妹』の特権にして最大の幸福なんだよ。それを取り上げるなんてとんでもない」

「いやあの……」

「お兄ちゃんはユキナの特権と幸福を取り上げちゃうの?」

「あ……いや……その……」

「お背中流すだけ。他になにもしないから……ダメ、かな?」

「ダメ…………ジャナイデス」


なんなのよもぉ~、ご奉仕が『義妹』の特権にして最大の幸福とかなんなのよもぉぉぉぉぉ~。


「よっしゃーいくぞー♪ごしご~し♪お兄ちゃんの背中大きいね♪どこかかゆいところはありませんか~?」

「アッ……ダイジョブデス」

「よーし次は前いくぞー♪んっふっふ~♪腹筋割れてるっ!触ってもいい?」

「アッ……ドゾッ」

「おぉ~カチカチだ~♪それじゃあ次は~」

「ステイステイステーーーーイッ!!」


腰の抜き身を隠すためのタオルに手を掛けやがったので慌てて制止する。


「背中だけって言ってよね?なんかちゃっかり前も洗ってるし。なによりっ!タオルに手を出しちゃいかんでしょっ!協定違反っ!協定違反ですよっ!」

「むぅ……」

「いや、むぅ、じゃあないんですよ。ほら、背中ももう綺麗に洗えたから。お外出ましょうね~」

「お兄ちゃんのケチンボっ!!」


よく分からん罵倒の言葉を残して嵐は去って行った。

残りを洗ってさっさと出よう。

そう思って視線を下げると腰の抜き身は槍へとジョブチェンジしていた。

間近で見たユキナの水着姿、手の感触、しれっと背中に当ててきた柔らかいモノ。

僕はクソでかいため息を吐き出してからそっと槍に手を添え、一人虚しく『修行』を始めた。


結局その日の風呂はいつもより随分と長くなってしまった。

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