僕に『義妹』が出来たらしい

『憧れの美少女に告白したら義妹になったと家に押し掛けてきてお兄ちゃんと呼ばれている件について』

ラノベのタイトルになりそうな出来事が今まさに僕の身に起きている。

とりあえずしっかり事情聴取すべくウッキウキな冬木さんをリビングに案内した。


「ここがお兄ちゃんの家かぁ~♪大きいし思ったより綺麗に片付いてるね♪」


あちこち見回しながら上機嫌な冬木さん。

ソファをすすめるとなぜか僕の隣に座ろうとするので宥めすかしてなんとか正面に座ってもらう。


「むぅ……」


頬っぺた膨らませて抗議するのはクソ可愛いけどダメです。話し難いでしょうが。


「それで冬木さん、」

「お兄ちゃん、ユキナって呼んで」

「いやあの、冬木さん?」

「ユ・キ・ナ!」

「…………ユキナさん?」


話が進まないので仕方なく折れるとニッコリな冬木さん。

もう疲れたんだが帰っちゃダメかな?オウチカエリタイ。


「それでユキナさん、義妹ってどういうこと?」

「お兄ちゃんが告白してくれて、ユキナが受け入れたから『義妹』になったんだよ?」

「そっかー、ならしょうがないよね…………ってんなわけあるか~い。いやいやおかしいでしょ?告白して受け入れたんなら義妹じゃなくて『義妹』でしょ?」

「そうだよ、『義妹』だよ?」


――――今、何かがおかしかった。

決して言い間違いをした訳ではない。僕はたしかに『恋人』と言おうとしたハズだ。

しかし口から出た言葉は『義妹』に変換されていた。

きっと気のせい。無意識に言い間違えただけ。

そう自分に言い聞かせ再度落ち着いて言い直す。


「すまん、言い間違えた。告白して受け入れたんなら義妹じゃなくて『義妹』でしょ?」

「そうだよ、『義妹』だよ?お兄ちゃんどうしたの?」

「いや、すまん。ところで男が告白して女が受け入れたら何になる?」

「恋人でしょ?」

「そうだよな、恋人だよな。じゃあユキナさんは僕の『義妹』ってことだよな?」

「そうだよ。…………お兄ちゃん、大丈夫?」


冷や汗が止まらない。

なんだこれは。何なんだこれは。

やはり『恋人』と言おうとすると『義妹』になる。しかも一般論ならそのまま恋人と言えてしまう。

これではまるで『僕の恋人』という概念が『義妹』に浸食されているようではないか。


「お兄ちゃん、ユキナが『義妹』になるの、もしかしてイヤだった?」


泣きそうな顔でこちらを見つめる冬木さん。

そんな顔されてはイヤとは言えない。


「…………イヤジャナイデス」

「じゃあ何が不満なの?」

「ふ、不満という訳じゃないんだけど、僕としては一般的な男女のような――――」

「――――お兄ちゃん、ユキナは『義妹』だから一緒に住むのが当然なんだよ?」

「…………ふぇ?」

「そして『義妹』なんだからえっちな事をしても何も問題がないんだよ?」

「…………んぐぁ」

「お兄ちゃんはユキナと一緒に暮らしたくない?」

「…………クラシタイデス」

「ユキナとえっちなことしたくない?」

「…………シタイデス」

「ユキナのこと、好き?」

「大好きです」

「ユキナもお兄ちゃんのことだぁ~い好き。じゃあ何も問題ないよね」

「…………アッハイ」


――――そっかぁ。何も問題ないのかぁ。

確かによくよく考えると何か不思議な現象に巻き込まれていたとしても何か出来る訳じゃないしな。

『どうしようもない現実ならさっさと順応するのが賢い生き方だ』ってラノベでも言ってたし。


「えっと、ご両親はこのことは?」

「お兄ちゃんと仲良くねって笑顔で送り出してくれたよ。店でも家でもいいから今度お兄ちゃんとご飯食べに来なさいって」


ご両親も賛成しちゃってるのかぁ。

そういえば冬木さんの親はレストランのオーナーシェフやってるって話だっけ。


「あー、じゃあ今度挨拶に行った方がいいのかな?」

「一緒に行ってくれる?やったー!みんなにお兄ちゃんのこと自慢するんだっ!」


嬉しそうにはしゃぐ冬木さんに思わず頬が緩む。

なんかもう冬木さんが『義妹』でいい気がしてきた。

むしろ彼女が『義妹』で同棲できるとか控え目に言って最高なんだよな。

うん。もうどうにでもな~れ。




そういえば『手続き』ってなんだったんだろうか。

聞きそびれたその疑問は永遠の謎になりそうな気がした。

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