『僕の恋人』という概念が『義妹』に浸食されている
あまみや 要
僕に『義妹』ができたらしい
僕は『義妹』じゃなくて恋人が欲しかった
大荷物を持った美少女が一人暮らしをしている僕の家に押し掛けて来た。
少女の名は冬木ユキナ。僕が通う高校の同学年の生徒で学年一の美少女と名高い女の子だ。
そんな彼女が僕の家を訪れニコニコと上機嫌な笑みを僕に向けている。
「今日から『義妹』になるユキナです。これからよろしくね、お兄ちゃん♪」
さっぱり状況が掴めない僕は何でこうなったのかヒントを求めて今日一日の出来事を振り返るのだった。
***
碌でもない家庭環境を除けば平凡な高校生である僕、四季めぐるは私立いろどり学園――通称『いろ学』の二年生だ。
いろ学は地元では名門扱いされていて、通っている生徒には富裕層の出身者がかなり多い。
だからだろうか、GWの直前ともなると家族や恋人とのハイソなバカンス計画で盛り上がることになる。
「ウチはこの時期は毎年軽井沢の別荘なんだよね」
「いいじゃん軽井沢。うちなんて無人島だよ」
「無人島とか面白そうじゃん。ウチは温泉だよ温泉。もうパパとママの二人きりで楽しんでくればいいのに」
「俺は彼女と二人でテーマパークのリゾートプランで盛大にイチャついてくるぜっ」
「うらやましい奴め。俺は親父と二人でラスベガスだぞ。せめて彼女といきたかった。しゃあないからカジノで一山当ててくるわ」
「それ絶対ダメなやつじゃん。僕の家は恋人の家族と合同でフランス旅行だからお土産期待しててね」
「ちくしょー、うらやましいぜ」
なんてあちらこちらで楽しそうに明日からのGWの予定を話すクラスメイト達に対して、僕の予定は白紙ばかりでせいぜい積みゲーを消化しながら一人寂しく過ごすのかと疎外感を感じる。
家族がいないことは今更寂しいとも思わない――実際あのクズな両親が死んだことにはせいせいしてる――が、せめて恋人でもいればとつい考えてしまう。
故に、である。少々血迷ってしまったのだ。
「そうだ、告白しよう」
なんとなくそう思って気付いたときにはメッセージアプリを起動して片思いの相手に放課後会う約束を取り付けていた。
片思いの相手はもちろん学年一の美少女、冬木ユキナだ。
冬木ユキナは美少女だ。ハーフである母親の遺伝らしく胸元まで伸ばした髪は艶やかなブロンドヘアで肌は透き通った白さで目鼻立ちはくっきりしていて愛らしい。
スタイルもよく巨乳というほどではないが出るところはしっかり出ている抜群のプロポーションで手足もスラリと細く長い。
その美しい容姿にいつも笑みを絶やさずどんな相手にも分け隔てなく親切に接するその性格の良さもあいまって裏では『学園のアイドル』とか『天使』なんて呼ばれている。
彼女に憧れる男子生徒は数多くいるが、これまで告白した全ての男子が玉砕したらしい。
放課後、呼び出した校舎裏に彼女が姿を現したとき、僕はこの告白の敗北を悟った。
彼女はとても、そうとても申し訳なさそうな顔で歩いてきたのだ。
「えっと、四季君、話したい事ってなにかな?」
彼女は慈悲深く、こちらが切り出しやすいように水を向けてくれる。
そもそもダメ元だったのだ。呼び出した以上はきっちり告白して潔くフラれるしかない。
一年に及ぶ淡い片思いに区切りをつけるべく、僕は全力で思いのたけをぶつけることにした。
「冬木さん、一年のときからずっとあなたのことが好きでした。僕と付き合ってくださいっ!」
――――――――チリイィィィィィィン。
その瞬間、どこからともなく鈴の音が、聞こえた。
唐突に響き渡った鈴の音に一瞬意識を奪われてしまったがすぐに目の前の相手に意識を向けなおすと彼女の様子が一変していた。
先ほどまでの申し訳なさそうな表情はすっかり霧散しており、呆然と、しかし僕の告白をじっくりと噛み締めるような、そんな表情。
白い肌は徐々に、徐々に赤く、色味を帯びていき、目元は僅かに潤み、そして輝かんばかりの笑顔が咲き乱れた。
「嬉しい。すっっっごく嬉しいよ!本当に?あぁ夢みたい!すぐ帰って手続きしてくるねっ!」
――――それだけ言って走り去ってしまった。
「え、あ、え?冬木さん?ふゆきさ~~~~んっ!…………行っちゃった。つーか…………手続きってなに?」
僕の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。
***
そんなこんなで狐につままれたような、狸に化かされたよな心境で一人きりの自宅に帰ってきた僕であった。
亡きクズ両親の遺産であるこのムダにでかい自宅は一人暮らしの寂しさをいやでも刺激してくるのだが、今日の僕はそんな感情を抱けぬほどに困惑していた。
果たして僕の告白は成功したんだろうか、なんて思い悩んでいるとチャイムが鳴り、ドアを開けると冬木さんがいて、冒頭のアレである。
とりあえず今一番気になってることを笑顔満開の冬木さんに尋ねることにした。
「僕のことお兄ちゃんってどういうこと?」
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