(7)
♭
――私が彼を意識し始めたのはいつからだったろうか?
私がまだ少女で、彼がまだ少年だった頃。
元々、お互い家が近くて近所の公園とかで良く目にするから、親同士はもちろん、私と彼もほとんど毎日遊んでいたと思う。
私自身――今もそうだけど――あまり活発的な子じゃなかったから、遊ぶといっても近くの公園の砂場でお城を作ったり、持ってきたお人形でごっこ遊びしたり、そんな内向的な感じだった。だから、もちろん他の人とお話するのは大の苦手。
いっつもなにかあるとお母さんの後ろにひょっこり身を隠していた。
そんな私。
でも彼は、そんな遊びしかしない私に文句も言わずに、付き合ってくれた。
一人だった私に。
本当はもっと駆けっこしたり、ヒーローごっこしたり、そんな輝かしい少年らしいことをしたいはずだったと思う。実際、他の男友達と元気に走り回っている光景を見たし、その時の彼の表情は、いつもよりもっと輝いていた。
私とは正反対。
活発、でもどこかその当時の私には大人らしく見えて――カッコ良かった。
そんな彼の笑顔を見る度に、私は彼に一種のありがたみと申し訳なさを抱いていた。
「どうして彼は私と遊んでくれるのかな?」
その気持ちは日に日に増していって……気が付いたら小学校六年生になっていた。
流石に六年間同じクラスになりはずもなく、何回かは別のクラスになってクラス内で話す機会は少しばかり減ってしまった。
けど、放課後には、お互いの家に遊びに行って一緒にゲームをしたり、たまにはあの公園で遊んだり……とにかく楽しい毎日だった。
あれ?
確か一回親に内緒で街を探検してたら、帰り道が分かんなくなって迷子になっちゃったことあったっけ?
結局、警察の人にお世話になって後ですごい親に叱られた気がする。
光、すごい泣いてたもん。
今でもあの泣き顔、忘れないよ。
もちろん光の方だって男友達と全く遊んでいなかったわけもなく、遊びの半分くらいはクラスの友達と校庭で元気よくサッカーなりなんなりをやっていた。
でもそんなときでも光は、いちいち私の断りを言ってくるのだ。
「ごめん。今日はサッカーして遊ぶから一緒に遊べないや」
「ううん……全然大丈夫だよ」
「遊べなくて、ごめんね」
毎回のようにそう申し訳なさそうに言ってきてくれた。
今考えると小学生なのにすごい親切心を持っている。
この頃から、人に対するやさしさが垣間見えていた。
実際、光は当時から友達を作るのが得意であり――私とは正反対――学年が上がってもいつも男女問わずクラスの人気者だった。
そう、光がみんなからの人気のある人だと認識させられるたびに、またあの疑問が私の中に浮かんでくる。
――どうして彼は私と遊んでくれるのかな?
そして中学校三年間。
この頃になるとどうしてもあることが分かってくるし、意識せざるを得なくなってしまう。
そう、それが『恋』ってやつだ。
少女の私じゃ、小学生の私じゃまだ分からなかった感情。
クラスの女子が「私、○○のこと好きなの」とか言って、それに他の女子がきゃーと廊下とかで騒いで……
当然、中学生になっても光は周りの人気を集め、相変わらずクラスの人気者。対して私は、ろくに他の人とあまり話さなかったから教室の端っこで静かにいる大人しい女子みたいな立ち位置にいた。
そんな私でももちろん『恋』というものに少しばかり気になるもので、何回か考えてみたことがある。
「私の好きな人って誰だろう?」と。
真っ先に浮かぶのはやはり光。
多分一番長く一緒に過ごしている光。
でも……なんか違う気がしたのだ。
光は確かに私にとって一番仲が良い。中学になってからも登下校は一緒にしたり、休みの日にはどこか二人で遊びに、買い物に出かけに行ったりしていた。
でもそれはあくまで私からして。
光にしてみれば私という存在は彼の数多くいる友達の中の一人。
光は私と仲がいいのは幼なじみだから。
そんな風に思えてしまうのはきっと、私と光が幼なじみだから。
――この気持ちは嘘だ。
堂々巡りの末、毎回この結論に至っていた。
だからクラスで光が他の女子たちと仲良さげに話していても「嫉妬」とかい感情は生まれなかったし、ましてや「光が誰かに取られる」なんてことも思いもしなかった。
そう言えばある日の帰り道で、一回聞いたことがあった。
「……ねー光」
「ん?」
「光ってさー、好きな人いるの?」
「急にどうしたんだよ、葉月らしくないぞ」
「い、いやあー……少し気になったの」
「ふーん……いないよ。ってか、まだ俺たち中学生だろ? 中学生に恋なんてまだ早い気がするけどなー」
終始、光は明日の方向へと顔を向けたままだ。
「……じゃあ、いつになったら自分は恋すると思う?」
「やっぱ高校生だろ! なんか『青春』って感じがする」
「へー……高校生、かー」
そこでようやく光はにかっと笑顔を向けてきた。
ここで会話は終了。
確かにそうだ。
中学生の恋愛なんて大人からしてみれば可愛いもので「本物」と呼べる代物ではないだろうと光の話を聞いて、納得した。
光は高校生になったら恋するのかな?
その日の帰り道、そして夜はそんなことばかり考えていた。
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